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写真家西川よしえの「ミラノと私」
15 Luglio 2014

第5回 二つのクーポラのある館


 
西川よしえ 



90年前半、ヨーロッパ、といっても、イタリア、フランス、スペインを何回か旅行した。

いつものように行き当たりばったりの旅行で、その3カ国の母国語は勿論どれも分らない。

ガウディー建築を見たくて行ったバルセロナ、すごいすごいやっぱりすごい、その建築物の感動的なフォルムを目の辺りにして、さらにびっくりしたのは、普通の人が普通に住んでいる!(その当時は。いまもそうかしらん)。 パリの街の昼夜どの瞬間も美しくそしてまたどの季節に行っても、美しい。青空市場さえもチャーミングだったりする。イタリアモーダに憧れて、歩いたミラノ、モンテナポレオーネ、スピガ通り、日に焼けたテラコッタ色のシニョーラのかっこよさといったら、、、と、どの国にもひかれてやまぬ魅力があった。と、いたって一般的感想しかない旅行ではあったのだが。言語を理解しない場合、限られた時間の中でそこに浮き上がってくる感想はかなり画一的ではないかと思う。双方のコミュニケーションを取れない場合には、一方通行の情報が確定されてしまいやすいためだ。 

そして、自分が住居をかまえたのはイタリアのミラノであった。 それがイタリアモーダに由来することは自分の仕事を考えた場合当然ではあるのだが、文化の蓄積された上に日常が存在していると言う点が、きっとわたしを捕らえたように思う。

日常をミラノに移すべく家探しを始めた。好きなエリアを歩いて外扉にぶら下がっている貸家(AFFITTASI)のプレートを見ながら、もしくは新聞広告の貸家欄を読みながら、あるいは人の口コミからと情報を集めた。たどたどしいあやふやなイタリア語でアポイントをとってはそれらの家を見に行った。当時、自分がどれだけの期間、ミラノにベースをおくかという計画はなにもなかったので、すぐ日常生活ができる家具付きの家を探していた。が、デザイン王国イタリアと過信しているわたしの思いとは裏腹に、それらの家具付きの家具はおうおうにしてデザインとは無縁に思われるものが備えられていた、、、、。

しばらく暗礁に乗上げていた家探しだったところに、このクーポラとの出会いがあった。確かに感動はした。360度ミラノを見渡すパノラマがあり、高さ6メーターもある天井、しかし、感動だけでは日常生活365日は出来ぬ、と迷ったものの諦めた。窓ガラスもやぶれ、あるいは木のサッシも朽ち、長い間放置されていたその空間は、さながらおばけやしきのようで、しかも当然ながらなにもない。トイレまわりの工事だけが随分前に終わっていたようだ。住居と呼べるような空間に持って行く迄には、イタリア事情がまだなにもわからぬ自分にはハードルは高く、それを乗り越える術は無く、却下した。そして、座礁を繰り返す家探しの航海が再開した。

しかし、わたしの中に感動だけがくすぶっていたそのクーポラへの思いは、座礁を繰り返す度に、感動だけが大きくなっていった。好きではない空間に自分を置くよりも、感動のあるところで時間を過ごそう。感動が負担に変わった時、又考えればよし!と、数日後に、反対するまわりの人々の声を後に、賃貸契約書なるものにサインをした。当然ながらイタリア語を理解しない自分にとってガス電気電話の口座を開ける事からすでに難題は山積みで、台所設置にいたっては、2年越しの大スペクタルな工事となった。今思うと、まあよく辛抱したと自分ながら感動する。

そこからかれこれ20年くらいの歳月が流れようとしている。わたしは、相変わらず360度のミラノのパノラマに日々の光を感動し、自分がこのあとどれだけの期間、ミラノにベースをおくかという計画は相変わらずしていない。

1927年、建築家Nicoli設計。最上階に二つのクーポラを持つ事から「Pallazzo Cremlino (クレムリン宮殿)」 という愛称を持つ。イタリアで鉄筋コンクリートを初めて使用した建物で有名。    


著者プロフィール
写真家 西川よしえ(YOSHIE NISHIKAWA)  

1959年、札幌生まれ。大谷大学美術科を卒業後、サンフランシスコ アカデミーオブアートカレッジにて、ファインアートフォトグラフィーを学ぶ。1983年、単身渡英。ミュージシャンを中心にフリーランスフォトグラファーとしての活動を開始。1984年、一旦帰国し、西川よしえ写真事務所を設立。音楽、ファッションを中心に活動の場を広げていく。
1996年より、ベースをイタリア・ミラノへと移動。1998年、イタリアでトップランクの照明器具メーカーである「フォンタナ・アルテ(Fontana Arte)社」のプロダクト写真集を手がけ高い評価を得る。以降、ミラノはもとより、ロンドン・パリ、NY・香港で活躍。現在は、イタリアを中心にデザイン、ファッション企業の広告、カタログの企画製作も手がけるなど、トータルコーディネイトから関わる作品作りを展開。2009年、イタリア写真協会主催、プロフェショナルフォトグラフィーコンペティションにてグランプリ、総合グランプリ、を受賞。2010年も続いて、グラムール部門最優秀賞受賞。
最近はギャラリーでの展覧会、アートフェア、フォトフェスティバル、などの参加と、幅広く活動。
http://www.yoshienishikawa.com




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