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メディチ家のヴィラと庭園  Ville e Giardini Medicei
15 Aprile 2014

第4回 ポッジョ・ア・カイアーノ荘
Villa medicea di Poggio a Caiano
  

文・写真/菅澤彰子 
今回は、フィレンツェから西へ約20km、プラート県に属する「ポッジョ・ア・カイアーノPoggio a Caiano」という土地にあるメディチ家の別荘を訪れよう。『メディチ家の別荘と庭園』の連載を始めて以来、主に庭園の話ばかりをしてきたように思うが、今回は初めて、庭園よりもむしろヴィラ(建物)について語ることになろう。どうしても、建築の専門用語をいくつか使わざるを得ないが、なるべくわかりやすく説明したい。

ここは、メディチの別荘を見る以外にも、ヴィラの一部が静物画のコレクションを集めた美術館 Museo della natura mortaになっているから、訪れる価値が十分にあろう。フィレンツェからは、路線バスが頻繁に出ていて、駅前から約40分で簡単に行くことができる。

トップ写真: @入り口付近から眺めるヴィラ 

●丘の頂点にメディチ家の紋章を掲げた門構え
まず、「ポッジョ」という地名からして高いところを意味しているから、訪れる前から「今回もまたきっと見晴らしの良いところなのだろう」と想像するだけでワクワクする。平野部にあるフィレンツェから出発し、緩やかな坂を上り始めると、もうポッジョ・ア・カイアーノのコムーネに入っている。メディチ家の別荘Villa medicea はこの丘の天辺にあり、バスが見事に別荘の真ん前に止まってくれる。メディチ家の紋章を掲げた立派な門構えだ(写真A)。このバス停までが登り坂で、ここを通り過ぎると下り坂になっていることから、ここがまさに丘の頂点であることが目に見えてわかる。

 写真下左:Aメディチ家の紋章を掲げる立派な門構え  写真下右:B人文主義の思想に基づいて設計されたヴィラ

訪問者は、この立派な門から入るのではなく、もう少し先の小さな入り口から入る。入口をくぐると、緑いっぱいの庭園の奥にヴィラが斜めのアングルで見えてくる(写真@)。先ほどの、あの立派な門から入ったとしたら、ヴィラはちょうど正面に見えてくるはずだ。正面に回ってみると、まるでこの建物だけで完結しているような、完璧ともいえるシンメトリーな(左右対称の)フォルムを持っている(写真B)。

●平和な時代の田園の貴族の館の模範に
このポッジョ・ア・カイアーノ荘は、メディチ家の所有となる前、もともと領主の居住地で、複数の貴族の手を渡ってきたことが知られる。周辺の農地とともにこの土地を購入したのは、ルネサンスのメディチ家最盛期の当主、ロレンツォ・デ・メディチ Lorenzo de' Medici で、1474年のことである。1480年頃、お抱えの建築家ジュリアーノ・ダ・サンガッロ Giuliano da Sangalloにこのヴィラの設計を任せた。要塞的な建築から抜け出し、平和な時代にふさわしい田園における貴族の館として、後世の模範ともなるべきプロト・タイプをつくるよう、建築家に依頼している。

1492年ロレンツォの死後、長男のピエロが当主になると、メディチ家の勢力は一気に衰え、一族はフィレンツェ追放の憂き目にあっている。当然ながら、ヴィラの建設は中断された。早世したピエロに代わって、次男のジョバンニが当主となると、1512年にメディチ家は見事にフィレンツェにおける復権を果たし、このヴィラも完成をみた。この次男ジョバンニとは、聖職者であり、後にローマ教皇の権威の座にも付いた人物で、レオ10世 Leo Xとしては歴史上、知られる。ちなみに、ローマのルネサンス文化を最盛に導いたのが、このメディチ家出身の教皇なのだ。

●古代神話モチーフをルネサンス技法で表現したファサード
さて、ポッジョ・ア・カイアーノ荘に話を戻すと、ヴィラのファサード(正面)には、ギリシャ神殿風の古典的なモチーフが取り入れられている(写真C)。

写真下:Cギリシャ神殿風のファサード

三角形のティンパヌム部分には、メディチ家の紋章が掲げられ、その下のフリーズ部分の鮮やかな発色のテラコッタは、古代とは異なる、ルネサンス独特の雰囲気を醸し出している。「トリクロミアtricromia」つまり3色の装飾(白・青・緑)で、ファサードに彩りを添えているが、実はこれは、有名な陶磁器メーカーのリチャード・ジノリ社によって1986年に制作されたコピーであり、オリジナルはヴィラ内部に展示してある。古代神話のモチーフをルネサンスの技法で表現した独特の味わいが感じられる部分だ。

●周辺の美しい風景を眺望する大テラス
さて、曲線を描く外階段を上がっていくと、広々としたテラスに出る(写真D)。周辺の美しい風景を見渡し、まさに眺望の大テラスだ。だが、このテラスもまた、オリジナルのものではない。半戸外の「ロッジャloggia」という空間は、ルネサンスのヴィラ建築に加えられた新しい建築言語であったが、19世紀に外階段がやりなおされたとき、階下のロッジャは、時代に合わせて馬車も泊まれるような幅にまで拡張された。その結果として、この大テラスが生まれてきたのだ。

写真下左:D周辺の風景を見渡す、大きなテラス  写真下右:Eイオニア式のオーダーと半円ヴォールト

●素晴らしいサロンも居住部分の博物館として公開
テラスへあがると、イオニア式のオーダー(円柱)や半円ヴォールト(アーチを平行に押し出した形状)の古典的なモチーフを間近で見ることになる。フォーマルなデザインを用いられているここは、「ピアノ・ノービレPiano nobile」、つまり主人のための最も華やかな階へのアプローチであったのだ。現在はこの階は、居住部分の博物館Appartamenti monumentaliとして公開されていて、素晴らしいサロンを中心に展開されるプラン(平面図)を見学することができる。入口は、下のロッジャにあるので、見学のルートとしては、階下の小劇場や素晴らしいフレスコ画を見た後に、ピアノ・ノービレへアプローチし、このテラスへ最後に出てくることになる。

●最上階には静物画の美術館
最初に触れたように、このヴィラには、最上階にもう一つのミュージアム、静物画の美術館がある。メディチ家の素晴らしいコレクションに圧倒されるのと同時に、大変興味深いのは、建物の対称性を見て取れることである。

写真下左:F東側の庭園の高さから見上げるヴィラ  写真下右:Gヴィラ東側の庭園にあるフォンターナ

建物は、ほとんどが修復されてしまっているのだが、ところどころに古い部分や暖炉の痕跡などが残っている。東の窓からは、ヴィラの東側にはフォンターナ(泉)のある整った庭園が広がり、遠くにフィレンツェの街並みがうっすらと見え、この別荘のあるロケーションが把握できる(写真FG)。

●敷地の縁にはアルノへ注ぐ小さな川も
最後にこのヴィラの周囲を巡ってみて気が付いたのは、別荘の敷地の北側の端には、川が流れているということだ。

写真下:H別荘の敷地の縁には川が流れている

オンブローネOmbrone Pistoieseという小さな川だが、トスカーナ随一の川、アルノへと注いでおり、19世紀までは物資の運搬にも役立てられてきた、地域にとって非常に重要な川である(写真H)。水の流れとメディチ家の別荘を見ていくと、意外と面白い関連性がわかってくるのかも知れない。


メディチ家のヴィラと庭園  著者プロフィール
菅澤 彰子(すげさわ・あきこ) 

トスカーナの丘陵地にたたずむ小さな中世の町、マッサ・マリッティマに在住。 工学修士、専門は建築・都市史。学芸員の資格を持つ。日本の大学院在学中、イタリア政府給費生として、バーリ大学建築学部へ研究目的で留学(1996-97年)。
これまでの論考には『南イタリア都市の居住空間』(中央公論美術出版 2005年)など、プーリア、シチリア、サルデーニャ関連のものがある。トスカーナに関しては、『日伊文化研究』(日伊協会 2010年)、『イタリア文化事典』(丸善出版 2011年)へ執筆。
一方で、2007年より旅のコーディネートを行う。日本からの旅人たちと触れ合いながら、深みのある本物のイタリアを伝えることを信念としている。
URL http://www.sugesawa.com/

ポッジョ・ア・カイアーノ荘 Villa medicea di Poggio a Caiano 関連データ
Dati
■場所 Piazza de Medici 14, Poggio a Caiano (PO)

■入場料
無料

■入場時間
8:15 - 16:30  1月、2月、11月、12月
8:15 - 17:30  3月 (夏時間適用の場合は18:30まで)
8:15 - 18:30  4月、5月、9月 
8:15 - 19:30  6月、7月、8月 
8:15 - 18:30  10月 (冬時間適用の場合には 17:30まで)

入場は閉館の一時間前まで。
ヴィラ内部は1時間ごとに管理人同伴で入場が可能。
居住部分の博物館 Appartamenti monumentali 8:30-
静物画の美術館 Museo della natura morta 9:00-
休日: 毎月第二・第三月曜、元旦、5月1日、12月25日


「メディチ家のヴィラと庭園」連載に寄せて
著者からのメッセージ


フィレンツェ貴族のメディチ家は、郊外に邸宅を構え、併せて庭園を造るという新しいライフスタイルを導入しました。前回のトスカーナ小都市の連載で取り扱ったものは、主に中世の様相でしたが、今回はそのあとの時代、ルネサンス以降に移ります。

私は学生のときに縁があって、メディチ家の庭園をいくつか訪問したことがあります。その時は正直まだ、建築の学生でしたから、庭園というものへの興味が薄かったように思います。ですが、「なぜ郊外にいくつもヴィラや庭園があるのだろう」と、ずっと気になっている存在でした。

今年、ユネスコの世界遺産登録されたことを受けて、この機会にこのテーマを掘り下げたいと思い、並行してこの連載を始めることにいたしました。
イタリアの庭園を訪れる日本人は、欧米人に比べて圧倒的に少ないと感じています。
この機会に、イタリアの庭園に興味を持つきっかけとしていただければ幸いです。     

2013年10月
菅澤彰子



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