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メディチ家のヴィラと庭園  Ville e Giardini Medicei
15 Dicembre 2013

第2回 カステッロ荘 
Villa medicea di Castello
  

文・写真/菅澤彰子 
メディチ家の別荘と庭園、前回のボーボリ庭園に続いて、連載の2回目は、フィレンツェ中心部から北北西へ約6km、小高い丘の上にあるカステッロ荘を訪れよう。

●「理想の庭園のかたち」を保存
ここは特に、庭園の素晴らしさが高い評価を得ており、ルネサンスの万能人(人文主義者、建築理論家、建築家)であるレオン・バッティスタ・アルベルティ Leon Battista Alberti が推進した理想の庭園のかたちをもっともよく保存した例とされている。

地名がそもそも「カステッロ Castello」だ。「カステッロ」といえば「城」だろう。だから最初は、「ここには、もともとに城でもあったのだろう」くらいに思っていた。でも実は、古代ローマの水道に関連していることがわかった。カステッロという地名は、「カステルム castellum」という名の貯水槽があったことに由来している。

●ボッティチェッリの「春」「ヴィーナスの誕生」もこのヴィッラに
カステッロ荘へたどり着くには、なだらかな丘の斜面を上ることになる。丘の中腹にヴィッラ(館)が建っている(写真A)。幅の広い大きな二層の建物で、現在はクルスカ学会という学術アカデミーになっており、原則的に関係者のみの立ち入りが認められている。

トップ写真: @カステッロの上部庭園からは館の向うにフィレンツェの遠景を望む   写真下:Aカステッロの館  

フィレンツェ市内のウフィッツィ美術館に所蔵されているボッティチェッリの有名な絵画『春』と『ヴィーナスの誕生』はこのヴィッラに飾られていたという話は有名で、長い間、この建物のために描かれたものという説が有力であった。

ルネサンス最盛期、ロレンツォ・イル・マニーフィコ Lorenzo il Magnifico の時代、メディチ家傍系の兄弟(ロレンツォとジョヴァンニ Lorenzo e Giovanni di Pierfrancesco de'Medici)が1477年にこの土地を購入し、のちに弟ジョバンニの住まいになり、既存の建物が拡張されるかたちで、現在にみるヴィッラが完成した。

後に庭園の計画に着手したのは、初代トスカーナ大公となるコジモ一世 Cosimo I の治世で、1538年のこととされる。つまり、前回の連載で紹介した、「ボーボリ庭園」がつくられたのと同時期にあたる。設計にあたったのも、メディチのお抱え芸術家、同じくトリボロ Triboloによるもので、いずれもヴァザーリ Vasariへ引き継がれている。

●庭園中心に大きなフォンターナ
庭園内へ入っていくと、丘の傾斜をそのままに利用したことがわかる。庭園全体がなだらかな上り斜面になっている。中心にシンボリックで大きなフォンターナ(泉)があり、そこへ視線が集中する(写真B)。大理石のフォンターナ(泉)には、ブロンズの像が高々と空に掲げられている(写真C)。

写真下左:Bカステッロの庭園内部、中心に据え付けられた泉   写真下右:C中心の泉に掲げられた彫刻「ヘラクレスとアンタイオス」

「ヘラクレスとアンタイオス Ercole e Anteo」は、トリボロ、アンマナーティ Ammannati、ピエリーノ・ダ・ヴィンチ Pierino da Vinciによって制作されたとされる。古代神話をモチーフにしており、筋肉隆々の力強いヘラクレスが、敵方のアンタイオスの体を締め付けている。ヘラクレスをコジモ一世に見立てており、アンタイオスの口からは、水が吹き上げられ、その高さを含めると、噴水が3メートルにまでもなったということだから、相当ダイナミックな噴水だったはずだ。

このヘラクレス同様のアナロジーが、「動物のグロッタ(洞窟) Grotta degli animali」にもみられる(写真D)。様々な動物が、異なる色の大理石で掘られているが、それらをまたぐように、中央の一番目立つ位置に、ユニコーン(一角獣)がいる。解毒作用を持つというユニコーンの不思議な力と掛け合わせ、コジモ一世によって世界に平和がもたらされる、というメタファーが込められている。

写真下左:D動物のグロッタ(洞窟) 

こうしたアナロジー(寓意)表現により、メディチ家の威厳とフィレンツェの繁栄を示すということを庭園内で表現した。構想においては、人文主義者のベルナルド・ヴァルキ Benedetto Varchi という人物の貢献があるという。思想を庭園の中で表現するという新しさがあった。

●18世紀に置かれた古典的な彫像
ヘラクレスとアンタイオスの噴水を取り囲む古典的な彫像は、18世紀になってから置かれたものであることが知られている(写真E)。メディチ家別荘の一連の絵画を書き残したフランドル画家ウテンスにより、本来は、ヴィーナスの像 Venere-Fiorenza (ジャンボローニャ作)が置かれており、ゲッケイジュ alloro やギンバイカ mirto などが植わる小さな林に囲われ、むしろそちらが庭園の核を成していたことが知られる。ヴィーナスの像は18世紀に近くのペトライア荘に移された。  

写真下左:E中心の噴水を巡る大理石の彫像と腰掛ベンチ    写真下右:F上部庭園にある池

●トスカーナの地理縮図を盛り込む「水の庭」 カステッロの庭園は、寓意の庭であると同時に、水の庭であることも知られ、大規模な噴水の他にも、人を驚かす仕掛けがあったようだ。現在の庭は水が出ていないのでイメージするしかない。カステッロの庭園の場合、二つの水脈から上の池にいったん水を溜めて、自然の傾斜をつかって庭園に水を流し込む、という方法がとられた。ピエリーノ・ダ・サン・カシャーノ Pierino da San Casciano という水工技術者が活躍したといわれる。

さらには、アペニン山脈 Appennino、そしてアルノ川Arnoとムニョーネ川 Mugnoneという二つの川が擬人化され、トスカーナの地理的縮図を庭園内に盛り込んだのだ。トキワガシlecciやオークquerceなどの繁る上部庭園の水溜の池には、アッペンニーノ(アペニン山脈)ともジェンナイオとも言われる、巨人像(アンマナーティ作)がある(写真F)。

●芳香漂い心地よい散策の場所
加えて、この庭園には芳香が漂い、リラックス感を誘う。幾何学模様を成す、ひざ丈ほどの低い生垣の中にハーブや低木が植わっている(写真G)。特に、柑橘類 Agrumi の鉢植えは印象に残る(写真H)。

写真下:G低い生垣の中にハープや低木が植わる    

テラコッタ製の大きな鉢植えに植わるレモン類の木々が、整然と規則正しく並ぶ姿は、庭園の幾何学性を連続させ、より強調する効果を上げている。秘密の園Giardino segretoがあることも魅力だ。上部の庭園から眺めると、その全貌がはっきりと目に見え、遠くにフィレンツェの市街を望む(写真@)。

写真下:H庭園を印象づけるテラコッタ製の鉢植え(柑橘類)   

さすが人文主義の理論に従ってつくった庭園、というだけあって、いろいろ調べれば、知的な刺激になるのも確かだが、ごくシンプルにいって、庭園として心地の良い場所だと思う。今までここを訪れた日本人は、ほとんどが研究者たちではないだろうか。ルネサンスやマニエリスム、人文主義、といった研究目的であれば、オリジナル庭園の再現に終始するところだろう。けれども、正直、それだけではもったいない。

現在までよく手入れがされていることは、それだけでも賞賛に値する。いい香りが漂うし、見晴らしもよい。心地よい傾斜は散策にも最適だ。いかにも地元風の若いカップルとすれ違ったけれども、ロマンチックなデートスポットにだって成り得る。フィレンツェの中心部からほんの少し離れるだけで、日本からの旅人たちに、小さな驚きと喜びを与えてくれる場所となろう。


メディチ家のヴィラと庭園  著者プロフィール
菅澤 彰子(すげさわ・あきこ) 

トスカーナの丘陵地にたたずむ小さな中世の町、マッサ・マリッティマに在住。 工学修士、専門は建築・都市史。学芸員の資格を持つ。日本の大学院在学中、イタリア政府給費生として、バーリ大学建築学部へ研究目的で留学(1996-97年)。
これまでの論考には『南イタリア都市の居住空間』(中央公論美術出版 2005年)など、プーリア、シチリア、サルデーニャ関連のものがある。トスカーナに関しては、『日伊文化研究』(日伊協会 2010年)、『イタリア文化事典』(丸善出版 2011年)へ執筆。
一方で、2007年より旅のコーディネートを行う。日本からの旅人たちと触れ合いながら、深みのある本物のイタリアを伝えることを信念としている。
URL http://www.sugesawa.com/

カステッロ荘 Villa medicea di Castello 関連データ
Dati
■場所 フィレンツェ   住所 Via di Castello 47, Castello,  Firenze

■入場料
無料

■入場時間
8:15 - 16:30  1月、2月、11月、12月
8:15 - 17:30  3月 (夏時間適用の場合は18:30まで)
8:15 - 18:30  4月、5月、9月 
8:15 - 19:30  6月、7月、8月 
8:15 - 18:30  10月 (冬時間適用の場合には 17:30まで)

休日: 毎月第二・第三月曜、元旦、5月1日、12月25日


「メディチ家のヴィラと庭園」連載に寄せて
著者からのメッセージ


フィレンツェ貴族のメディチ家は、郊外に邸宅を構え、併せて庭園を造るという新しいライフスタイルを導入しました。前回のトスカーナ小都市の連載で取り扱ったものは、主に中世の様相でしたが、今回はそのあとの時代、ルネサンス以降に移ります。

私は学生のときに縁があって、メディチ家の庭園をいくつか訪問したことがあります。その時は正直まだ、建築の学生でしたから、庭園というものへの興味が薄かったように思います。ですが、「なぜ郊外にいくつもヴィラや庭園があるのだろう」と、ずっと気になっている存在でした。

今年、ユネスコの世界遺産登録されたことを受けて、この機会にこのテーマを掘り下げたいと思い、並行してこの連載を始めることにいたしました。
イタリアの庭園を訪れる日本人は、欧米人に比べて圧倒的に少ないと感じています。
この機会に、イタリアの庭園に興味を持つきっかけとしていただければ幸いです。     

2013年10月
菅澤彰子

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