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メディチ家のヴィラと庭園  Ville e Giardini Medicei
15 Ottobre 2013

『メディチ家のヴィラと庭園』というテーマで旅をするなら、初回はやはりボーボリ庭園ではないかと思う。ここが最も訪れやすいところだ。フィレンツェ市内の中心部にある。
ドゥオモやシニョーリア広場のある側から、アルノ川を越えてすぐのところだ。ポンテ・ヴェッキオ(ヴェッキオ橋)を渡って、数分も歩けば着く。フィレンツェ左岸のこのあたりは、「オルトラルノ Oltrarno」といわれて、文字通り「アルノ川の向こう側」の意味になる。

●ピッティ宮に付属する庭として誕生
実際、ここまで来る人は多いと思う。なぜなら、ピッティ宮 Palazzo Pitti があるからだ。 ピッティ宮は、昔も今も、オルトラルノのシンボル的存在だ。この建物内には、複数のミュージアムがあるが、多くの旅行者がここのパラティーナ美術館 Galleria Palatina を目的にしている。ルネサンスのパラッツォで、ルネサンスの芸術を堪能できる素晴らしい美術館だ。

トップ写真: @ピッティ宮とボーボリ庭園  写真下:Aボーボリ庭園からフィレンツエ市街を望む 

そう実はこのパラッツォに付属する庭としてつくられたのが、ボーボリ庭園なのである(写真@)。感覚的には、ピッティ宮の裏庭がボーボリ庭園である。しかし方角的には、南にあるので、素晴らしい陽当りだ。この世界遺産指定で、多くはヴィラと庭園がカップリングされているのだが、ここではパラッツォと庭園が切り離されている。つまり、ピッティ宮はこの世界遺産に含まれない。このことは、それだけ、個々が独立した価値を十分に持っているということでもある。

史実によれば、ピッティ宮はメディチ家が建てたものではなく、購入したものである。当時は、閑散とした左岸に、いかにもスケールオーバーな巨大な建物があったことになる。エレオノーラ・ディ・トレドという、コジモ一世の妻が買い取って、ピッティ宮をエレガントなものにし、ボーボリ庭園を造らせた、ということだ。

アルノ川を渡って、中心部からどんどん外れていのだから、郊外に行く感じがあったのだが、意外なことに、そこはフィレンツェの街を見渡す立地にあった。ピッティ宮は、街のはずれにありながら、フィレンツェ君主の館として理想的な場所だったのだ。ボーボリ庭園からでも見えるのだから、ピッティ宮の上階からはまさに一望することができるはずだ(写真A)。

●「海神ネプチューン」の彫像と「べルヴェデーレ要塞」
ピッティ宮の中庭を抜けて、ボーボリ庭園に入ると、「なるほど、ルネサンスだ」と思う。「アンフィテアートロ Anfiteatro 」といわれるエリアは、まさに馬蹄形の古代競技場の再現であり、大理石の彫刻が円形に並ぶ姿は、古代ローマ皇帝の別荘を彷彿とさせるものがある。中心にはオベリスクがあって、「珍しいな」と思って調べてみたら、やはりトスカーナでは唯一の存在だという。

   写真下左:Bネプチューンの池    写真下右:Cベルヴェデーレ要塞

斜面を登っていくと、海神ネプチューンの彫像が据えられた池に出る(写真B)。まさに古代神話の世界なのだ。ちょろちょろと水の湧き出るネプチューンの池で鳥たちがのどかさを演出している。円形の段々になった草地には、木陰で休む人々が居心地よさそうにしている。

ピッティ宮から一直線に伸びる軸線が、まだ上に伸びており、さらに上へ階段が続く。自然の地形を利用したものだろう。その先の最も高いところに、メディチ家は要塞を建設している(写真C)。メディチ家は、支配下にいれた周辺の小都市の多くに同様の要塞を築いている点が興味深い。「べルヴェデーレ要塞 Forte di Belvedere」といわれるとおり、ここからは、素晴らしいフィレンツェのパノラマ風景が望める。展覧会の催しがあるときには、中まで入れるので、その機会にでも訪れてほしい。

●陶磁器博物館からの眺めは絶景
それから、もう一方の絶景スポットは、陶磁器博物館 Museo delle Pecellane のある庭園だろう。中心に大理石の彫像を据えて、高台に張り出すテラス式の庭園からは、美しいフィレンツェ郊外の田園風景が見渡すことができる(写真D)。

こうした、ピッティ宮の南側の軸線に沿って広がる庭園が、16世紀にウテンスによる絵画に描かれているもので、ボーボリ庭園のオリジナル部分とされている。いわゆる幾何学式庭園で、花や果実もあるが、主に常緑樹の緑の植え込みでかたちづけられているのが特徴だ。

写真下左:D陶器博物館とその庭園    写真下右:Eヴォンタレンティのグロッタ入口

それから、庭園内には「グロッタ Grotta」という、洞窟のエレメントが取りこまれている。陽光の眩しい庭園の明るい世界に、対照的な暗い闇の世界がつくられている点が興味深い。芸術的にも価値が高い「ブォンタレンティのグロッタ Grotta del Buontalenti」は定期的な時間に開けられるので、内部に入ることも可能だ(写真E)。この脇にウフィツィからのヴァザーリの回廊がつながっている。なんともミステリアスな存在だ。

●糸杉の並木とバーゴラ棚の散歩道
一方で、ボーボリ庭園の西側は、ロマーナ門へ向かって延びる強い軸線がある。この軸は、糸杉の木が植え込まれ、その直線が垂直にさらに強調されている。トスカーナには、糸杉は非常に多いのだけれども、こんなにすごい大木は見たことがない。脇道へ入るところには、白い大理石の彫像が据えられ、いずれも古代や神話の世界がモチーフになっている(写真F)。

写真下左:F西へ延びる糸杉の直線並木と白い大理石の彫像(アンドロメダ) 写真下右:Gパーゴラ棚の心地よい散歩道

脇道へ一歩入れば、迷路状の小道があったり、パーゴラ棚の心地よい散歩道があったりと、まさに散策を心地よいものにしてくれる仕掛けがある(写真G)。そして庭園内にはところどころに植え込みを凹にくり貫いたニッチがあって、ベンチが置いてある。つまり、例え真夏の暑い昼間でも、涼しい木陰の空間が生まれるよう、設計してあるのだ。

糸杉の直線並木をまっすぐ行くと、「イゾロットIsolotto」と呼ばれる円形の広場に出る(写真H)。ここは17世紀に整備された、壮麗な雰囲気に満ちた楽園のイメージだ。やはりここにも、ネプチューンの彫像(ジャンボローニャ作)を据えた噴水があって、その周りをなみなみと水が湛える。「大海の泉 Fontana dell'Oceano」というとおりの、水の豊かさが表現されている。噴水の素材として使われている御影石は、エルバ島から運ばれてきたもので、彫刻は三つの大河ガンジー川、ナイル川、ユーフラテス川を象徴しており、それらが大海に注ぐ、というわけだ。柑橘系の鉢植えがいくつも並んでおり、豊かさを象徴している。

写真下:H豊かな楽園のイメージに溢れる、噴水の円形広場

●フィレンツエ市民憩いの公園
ボーボリ庭園内では、夏の間、野外コンサートやオペラなどの催しがあるので、その機会に訪れるのも面白いだろう。まだまだ語り切れていないのだが、ボーボリ庭園を訪れるには、最初からすべてを見ようとしないことだ。何しろ、約45,000 m2という広大な土地なのだから。庭園らしい心地よい場所を探して、ゆったりすることに価値があると思う。

最後にここは、フィレンツェ市民にとっての公園であることを強調しておきたい。以前は、ボーボリ庭園はすべての人々に無料公開していたそうだが、現在は住民であるフィレンツェ市民のみが、その特権を許されている。

メディチ家のヴィラと庭園  著者プロフィール
菅澤 彰子(すげさわ・あきこ) 

トスカーナの丘陵地にたたずむ小さな中世の町、マッサ・マリッティマに在住。 工学修士、専門は建築・都市史。学芸員の資格を持つ。日本の大学院在学中、イタリア政府給費生として、バーリ大学建築学部へ研究目的で留学(1996-97年)。
これまでの論考には『南イタリア都市の居住空間』(中央公論美術出版 2005年)など、プーリア、シチリア、サルデーニャ関連のものがある。トスカーナに関しては、『日伊文化研究』(日伊協会 2010年)、『イタリア文化事典』(丸善出版 2011年)へ執筆。
一方で、2007年より旅のコーディネートを行う。日本からの旅人たちと触れ合いながら、深みのある本物のイタリアを伝えることを信念としている。
URL http://www.sugesawa.com/

ボーボリ庭園 Giardino di Boboli 関連データ
Dati
■場所 フィレンツェ中心部  住所 Piazza Pitti, 1, 50125 Firenze

■入場料
共通チケット 7ユーロ
展示会がある場合には、価格が異なる。
共通チケットでは、下記の見学が可能。
銀器博物館 Museo degli Argenti 、陶器博物館 Museo delle Porcellane、衣装博物館 Galleria del Costume、バルディーニ庭園 Giardino Bardini

■入場時間
冬季 11月-2月 8:15 - 16:30
3月 8:15 - 17:30 (サマータイム開始後は 18:30まで)
4月、5月、9月、10月 8:15 - 18:30 
10月のサマータイム終了後 8:15 - 17:30
夏季 6月- 8月 8:15 - 19:30
休日: 毎月最初と最後の月曜、元旦、5月1日、12月25日


「メディチ家のヴィラと庭園」連載に寄せて
著者からのメッセージ


フィレンツェ貴族のメディチ家は、郊外に邸宅を構え、併せて庭園を造るという新しいライフスタイルを導入しました。前回のトスカーナ小都市の連載で取り扱ったものは、主に中世の様相でしたが、今回はそのあとの時代、ルネサンス以降に移ります。

私は学生のときに縁があって、メディチ家の庭園をいくつか訪問したことがあります。その時は正直まだ、建築の学生でしたから、庭園というものへの興味が薄かったように思います。ですが、「なぜ郊外にいくつもヴィラや庭園があるのだろう」と、ずっと気になっている存在でした。

今年、ユネスコの世界遺産登録されたことを受けて、この機会にこのテーマを掘り下げたいと思い、並行してこの連載を始めることにいたしました。
イタリアの庭園を訪れる日本人は、欧米人に比べて圧倒的に少ないと感じています。
この機会に、イタリアの庭園に興味を持つきっかけとしていただければ幸いです。     

2013年10月
菅澤彰子




メディチ家のヴィラと庭園
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