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ウンブリア刺繍の魅力
15 Luglio 2014

後編  その歴史と伝承の取り組み  

 粉川 妙  
前回、ご紹介したようにウンブリア州内には、いくつもの刺繍と編み物があり、それぞれの町ごとに個性豊かです。
では、なぜその個性が生まれたのか。その大きな動きとなったきっかけは、今から150年前と意外にも新しいものでした。

●農村子女の地位向上のための「刺繍学校」
1800年後半のイギリスの産業革命は、社会の構造を大きく変えました。ブルジョアなどの富める層は勢力を伸ばし、都市と農村で貧富の差は開くばかり。その波は全世界的に広がりましたが、イタリアでは、1861年にイタリアが統一されイタリア王国が誕生して間もない頃、貧富の差を打開しようと、イタリア王国のマルゲリータ・ディ・サヴォイア王女(1878年からはイタリア王妃)が動きました。

写真トップ@トレヴィ村のサンタ・ルチア修道院:金の刺繍を施した修道女たちの作品
写真下A1900年前半のマッジョーレ島の刺繍学校

農村の女性の地位向上のため、各村に刺繍学校を作るように命じるのですが、その重要な役目を担ったのが、貴族の婦女子でした。彼女らは領地内の寒村に刺繍学校を作り、村ごとに特色のある技法や模様を創らせました。それらの刺繍は遠くに売られていっても、一目でどの村のものか分かるエンブレム代わりになりました。
刺繍学校の流れは、イタリア全国に広がりましたが、貧しいウンブリア地方は、とりわけ力が入れられました。 

●高い技術がかわれて、刺繍は世界中に輸出も
当時の学校での製法は、どんなものだったのでしょうか。
一つの作品は各パートに分かれて作りました。たとえば、布を断つ、袖を刺繍する、ボタンを作る…など。それらのパーツを統合して一つの作品に仕上げていくのです。現存する作品群を見れば、そのレヴェルの高さに驚嘆します。刺繍はイギリスやアメリカ、日本にも輸出されましたが、高い技術がかわれて、高値で売買されたそうです。

子女たちは、技術のみならず、様々な教育を刺繍学校で身につけました。トラジメーノ湖畔のピスキエッロ村では、ルジェッロ・ラニエリ・ディ・ソルベッロ伯爵の妻でアメリカ人のロメイネが、ピスキエッロ刺繍学校を創設しました。彼女は母国の互助システムを積極的に採用し、学校に行けない貧しい子女に、読み書きや躾を身につけさせ、一人前の女性へと教育したのです。

●1990年代後半には「刺繍協会」の立ち上げ
しかし度重なる戦争を経て、学校は減少し、ウンブリアの刺繍学校はペルージャに一つに統合されました。 戦後は、1960?70の経済成長に伴い、これまで嫁入り道具として脈々と受け継がれてきた『リネン一式』を刺繍する習慣が下火に。1995年には、それまで学校で必修だった裁縫の授業がなくなり、地方刺繍を教える機会はめっきり減ってしまったのです。

そこで1990年後半になると、危機感を持った多くの婦人たちが、各地で刺繍協会を立ち上げ、地方刺繍を伝承しようと立ち上がり、現在に至ります。

●トラジメーノ湖上の『刺繍ミュージアム』
蒸暑さの増す6月の休日。
トラジメーノ湖に浮かぶマジョーレ島を訪れました。島の観光案内所の上階に『刺繍ミュージアム』があります。

 写真上BC「刺繍ミュージアム」の様子

マジョーレ島の特色は、アイリッシュ・クロシェ・レースの一種で、カギ針で非常に細い綿糸を編んでいきます。漁師を夫に持つ女たちに貴族の子女エレナ・グィエルミが推進したもので、魚を捕る網をヒントにしたと言われています。
気の遠くなるような細かい作業。持続する集中力。これは芸術作品と言っても過言ではありませんね。

写真上左D当時の作品   写真上右E当時のパターンも見ることができる

対岸にはピスキエッロ刺繍学校のあった別荘があります。こんな目と鼻の先ほどの距離でも、作品はまったく異なるのが興味深いですね。オリーブ林と凪いだ波。湖には独特の爽やかな風が吹いていました。

    写真上Fゆったりした時間が流れるトラジメーノ湖に浮かぶマッジョーレ島

●サンタ・ルチア修道院に伝わる刺繍
湖からの帰りに、トレヴィ村のサンタ・ルチア修道院にお邪魔しました。ここで古くから伝わっているのは、金糸の刺繍です。  

 写真上GHトレヴィ村のサンタ・ルチア修道院の刺繍に勤しむ修道女たち

1958年から伝わる聖職者の衣を見せて頂きました。その精巧な作品に、釘付けになりました。太く豪華に重ね縫いされた金の糸が、美しく輝きを放っていました。

写真上IJ修道女たちの作品

毎日16時から18時半は、作業の時間。ベネディクト修道会の規律は「祈り、働け」です。ウンブリアの谷を望む作業部屋は、光にあふれていて、心地の良い場所。こうして一針ずつ手を動かすことは、神への献身のひと時となります。
(修道院は中世から刺繍がもっとも行われていた場所の一つです。この記事では、近代より前の時代を割愛しましたが、機会があればまたいつか)

 写真上K修道院から見えるウンブリアの風景

こちらの刺繍ミュージアムとサンタ・ルチア修道会は、末尾にある9月1日からのウンブリア刺繍協会『ウニーティ・ダ・ウン・フィーロ』主催『ウンブリア刺繍クラス7泊9日』でも訪れることができます。 さて、ウンブリア刺繍にまつわる時間旅行と縁の土地の紹介、いかがだったでしょうか。刺繍は実際に、目で見て、手で触れないと美しさが伝わりません。そして、それに触れてしまったら…自分も作りたい、という衝動が起こる不思議な魅力があります。この記事が、その興味の一端を担えれば、幸いです。

●ウンブリア刺繍の魅力 「前編  地域で受け継ぐ個性的な技法


著者プロフィール
粉川妙(Kokawa Tae)   
 

食・スローフード研究家 / イタリア在住9年
ウンブリアを知って欲しいと、食や町巡りの個人ツアーも行っています。得意分野は食文化、町おこしですが、美しいものを愛でるのも大好き!
今回の刺繍はひょんなご縁で、ご紹介することになりました。
サイト:http://umbriaintavola.net  ブログ:http://butako170.exblog.jp

ウンブリア刺繍の魅力・データ 

●ただ今、参加者募集中

ウンブリア刺繍協会『ウニーティ・ダ・ウン・フィーロ』主催
『ウンブリア刺繍クラス7泊9日』

サイト:http://www.unitidaunfilo.com/jp/
刺繍クラス開催日:2014年9月1日(月)―9月9日(月) スポレートの別荘にて
申し込み締め切り:2014年7月30日
旅程表:http://www.unitidaunfilo.com/jp/la-scuola/corso/
連絡先:unitidaunfilo.jp@gmail.com

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