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イタリア・トラム探索の旅
15 Settembre 2016

Italia, Viaggio in tram

第3回 
復活したフィレンツェのトラム  後編   





市川嘉一



鉄道でフィレンツェを訪れる観光客が同地の中央駅、サンタ・マリア・ノヴェッラ(Santa Maria Novella,SMN)を降り、進行方向を右に進みトラムの電停(Alamanni-statione)に出ると、駅前広場前に向かう通りにもトラムのレールが敷設されているのに気づくでしょう。将来の2、3号路線開業をにらんで線路はそこから左にカーブを描く形で正面広場前までつながっているのです。フィレンツェのトラム・プロジェクトは1号路線の開業から6年が経過し、今、2号路線と3号路線の建設工事が2018年の完成に向けて急ピッチで進んでいます。

赤レンガ色の街並み、細い石畳の道が今でも街中を張り巡らすイタリアの古都フィレンツェ。市の人口は約38万人、フィレンツェ都市圏の人口は同62万人に上ります。前回(第2回「復活したフィレンツェのトラム 前編)でも触れましたとうに、この古都にバレンタインデーに当たる2010年2月14日、トラム(Tramvia)が52年ぶりに復活しました。フィレンツェの鉄道の玄関口である中央駅と隣接の住宅都市スカンディッチを結ぶ1号線(T1)です。利用客数は関係者の当初予想を上回り、公共交通を初めて利用する者を掘り起こすなど順調に運営されています。

トップの写真:@フィレンツエのサンタ・マリア・ノヴェッラ駅に隣接する起点の電停で停車中のトラム1号路線(T1)=2010年7月7日撮影
写真上左:A2、3号路線の開業に向けて、既に線路が敷かれているSMN駅前広場
(手前方向は1号路線の起点であるSMN駅に隣接する電停=2016年8月30日撮影  
写真上右:B17編成が導入された5車体連接のトラム車両「Sirio」(パウロ・ウッチェーロ駅付近)=2010年7月13日撮影


フィレンツェ市当局は最終的には6路線以上のトラムのネットワーク構築を計画していますが、まちのシンボルであるドゥオーモ(Duomo,大聖堂)など歴史的建造物の保護を理由に、ドゥオーモ広場を通る予定だった2号線(T2)の旧市街(centro storico)へのルート延伸計画は今のところ地下化を含め進んでいません。この8月末にフィレンツェを観光で訪れましたが、そうした動きは見られませんでした。前回の報告から大分時間が経ちましたが、最近の現地視察(2015年)などをもとに、トラムの復活から6年が経過したフィレンツェ・トラムプロジェクトの現状と今後の見通しを紹介しましょう。                                                      

●営業中の1号路線の現況
トラム(軌間1435mm)のネットワークはいまのところ、計画では建設工事中の路線を含め計3路線(T1、T2、T3)からなります。

まず1号路線であるT1は前回紹介しましたように、フィレンツェの中央駅、サンタ・マリア・ノヴェッラ(Santa Maria Novella,SMN)駅に隣接する電停(Alamanni-statione)から、フィレンツェ市の西側に位置する隣接都市スカンディッチ市(Scandicci,人口約5万人)のヴィラ・コスタンツァ(Villa Costanza)までの7.4km区間。計14の電停が設置されました。 開業してから6年が経過したトラム1号路線(T1)ですが、現在でもフィレンツェ市の関係者が予想した以上の利用客を集めています。年間利用客数は順調に増え続けており、最初の平年度である2011年は1215万人、2012年は1277万人と11年に比べ5%増加。2013年は1289万人、2014年は1283万人と推移。2015年は1182万人と若干減りましたが、利用客数は安定的に推移していると言ってよいでしょう。1日当たりの平均利用客数は現在、2万5000人に上ります。

写真下:Cフィレンツェのトラム・ネットワーク計画     


●空港と街中を結ぶ2号路線も着工
現在、2つの新路線が建設中です。2015年4月に着工した2号路線(T2)は市北西部にあるペレトーラ空港(Aeroporto Peretora)からグイドーニ大通り(viale Guidoni)や、ピサ方面に向かう幹線鉄道の下を潜り、1号路線の起点であるSMN駅隣接の電停(Alamanni-statione)を通り、SMN駅より旧市街寄りにあるイタリア統一広場(Piazza dell’Unita d’Italia)までの約7.5キロのルート(電停数は21)です。開業時期は2018年としています。

ただ、南側の終点であるイタリア統一広場は当面、一時的な終点場所との扱いで、近い将来は同広場から北側のヴァルフォンダ通り(via Valfonda)、ストロツィ大通り(viale Strozzi)、ラヴァニィーニ大通り(viale Lavagniniを通り、リベルタ広場(piazza della Liberta)、さらにはサン・マルコ広場(Piazza San Marco)までを結ぶ延伸ルートをつくる計画です。これは次に紹介するドゥオーモから向かうルートの代案として位置づけられています。       
   
●歴史的中心地区への延伸ルート案
2号路線は構想段階から世界中の関係者の注目を集めてきました。歴史的中心地区(centro storico)への延伸の方針を打ち出しているからです。ただ、歴史的中心地区はフィレンツェの顔とも言えるドゥオーモ(大聖堂)などルネサンス期の超一級の歴史的建造物が建ち並ぶことから、プロジェクトは思うように進んでいません。

写真下左:D歴史的建造物の保全を理由に実施的に棚上げになった歴史的中心地区への延伸ルート
(写真の上部中央がSMN駅、手前がサン・ジョバンニ洗礼堂とドゥオーモ広場)=2016年8月30日撮影   
写真下右:Eドゥオーモに向かう地上ルートとして構想されたチェレッターニ通り=2010年7月12日撮影


構想段階では2号路線は市北部のペレトーラ空港から南下し、SMN駅前広場からパンツァーニ通り(via de’Panzani)、チェレッターニ通り(via de’Cerretani)を走り、サン・ジョバンニ広場(piazza San Giovanni)に入った後、ドゥオーモ(Duomo)に隣接するサン・ジョバンニ洗礼堂からわずか7mのところをかすめるように走りドゥオーモ広場を左折。それからカブール通り(via Cavour)に入り、サン・マルコ広場(piazza San Marco)を経由し、リベルタ広場(piazza della Liberta)に向かうルートでした。

しかし、このルートはドゥオーモやサン・ジョバンニ洗礼堂、ジョットの鐘楼といった超一級の歴史建造物の近くを通ることから、教会や美術関係者らの間から「現代的なトラム車両が走ることによる歴史的景観の破壊」「全長30mを超す長大トラム車両の走行振動によるドォーモなど建造物の劣化」などを理由に反対の声が上がり、「ルネサンスの古都に現代的なトラム車両が馴染むのか」など一般市民を巻き込んだ大きな論争に発展しました。この論争は日本を含め広く世界のメディアにも紹介され、2008年2月17日には当時の2、3号路線建設の是非をめぐり住民投票も実施されたほどです(この住民投票は各路線の建設とも反対票が賛成票を若干上回ったものの、投票率=39.35%=が定足数を満たす40%を下回ったことを理由に、最終的にこの住民投票は成立しないと判断され、当時の市長は計画の中止・変更はしないと宣言しました)。

だが、2009年6月の市長選で現在、イタリア首相を務めるマッテオ・レンツィ氏が新しい市長に選ばれたことで、流れが変わりました。フィレンツェ市は元々、左派の政治勢力が強い土地柄。レンツィ氏も引退を表明した前任の市長と同じ民主党の所属でしたが、当時34歳と若い市長でした。そのレンツィ市長が選挙の公約でドゥオーモ周辺ではドゥオーモなど世界に誇る歴史文化遺産の一層の保護(車による振動・排気ガスから守ることや景観保全)を目的にバスやタクシーを含めた一切の車の通行を禁じ、歩行者専用ゾーンにすることを打ち出したのです。

実際にドゥオーモ周辺地区における歩行者専用ゾーンの導入はレンツィ氏が市長に就任してから4カ月後の2009年10月25日に本格実施に移されましたが、同様の歴史文化遺産の保護という理由でトラムの2号路線が走る予定だった歴史的中心地区のルートも地下化などの方向で見直されたのでした。

現在、2号路線の歴史的中心地区への延伸では仮案として2つのルートが示されています。1つは「歴史的中心地区を地下で横断するルート」である。イタリア統一広場から間もなくして地下に潜り、ドォーモの南側に位置するレプッブリカ広場(piazza della Repubblica)、サンタ・クローチェ教会(Basillica di Santa Croce)の下を走り、アルノ河畔北側で地上に上がり、後述する3号路線の南東部延伸ルート(T3.2)とつながるルートです。

もう1つは、当初構想された地上を走る案です。イタリア統一広場からパンツァーニ通り、チェレッターニ通りなどを通り、ドゥオーモの近くを走り、サン・マルコ広場、リベルタ広場に向かうルートですが、これは2010年1月の市当局の採決でプロジェクト自体が延期の扱いになっています。

このように、歴史的中心地区への延伸は今のところ、地下化のルートが有望なように見えますが、これとて厳しい状況のようです。フィレンツェ市インフラ・交通政策部のヴィンチェンツォ・タルタグリア部長への書面インタビュー(2015年8月)では、同地区の歴史的建造物の下を掘る地下化工事を実施するには考古学上の発掘調査が必要で、実際のところ実現は難しいとの回答が寄せられました。

写真下左:F市北部の人口密集地域である2号線沿線のノヴォーリ(Novoli)地区=2015年7月28日撮影 
写真下右:Gカレージ病院の正面エントランスでの3号路線の建設工事=2015年7月28日撮影

●病院と街中を結ぶ3号線もネットワークの基幹路線
一方、2号路線と同じく建設中(着工時期は2号路線と同じ)の3号路線(T3)は1号路線の起点であるSMN駅に隣接した電停(Alamanni-statione)を出発点に東側に沿って駅前広場を半円周形に回り、ヴァルフォンダ通り(via Valfonda)を北上。スタトゥート(Statuto)、リフレディ(Rifredi)という2つの人口密集地域を通り、市北東部にあるフィレンツェを代表する大規模病院でフィレンツェ大学医学部の附属病院でもあるカレージ病院(Careggi)の正面エントランスにたどり着くルート(3.4キロ、電停数は8)です。ちなみに、この大学病院に隣接してフィレンツェ大学の理学系の学部もあります。3号路線は、こうした病院・文教地区を通るだけでなく、人口密集地域の移動を支えたり、SMN駅で他の1、2号路線とつながることで市内各地域と結ばれたりすることから、フィレンツェのトラム・ネットワークの根幹部を担う路線と位置付けられています。

以上のルートを「T3-1」と呼び、第2期計画としてさらに市の南東地域に延伸するルート「T3-2」もつくる計画です。SMN駅北側に設ける3号路線の電停「バッソ要塞」(Fortezza)から、リベルタ広場に向かうラヴァニィーニ大通りを通り、リベルタ広場から2つのルートに枝分かれします。1つは市東部にあるイタリア鉄道のロヴェツァーノ(Rovezzano)駅前に向かうルート(7キロ)であり、もう一つはリポーリ浴場(Bagno a Ripoli)に向かうルート(8キロ)です。

この「T3-2」ルートは人口が急増する市東部のカンポ・スタジアムがあるマルテ・カンポ地区や、市南部地域の住民の移動手段として期待されています。いずれにしても、3号路線は2期に分けて計画が進められ、1期は既に工事に入り、2号線と同じく2018年2月の完成を目指しています。ちなみに、2号路線と3号路線を合わせた建設費(どちらも当面の開業区間)は約4億2500万ユーロとのことです。

●トラム・トレイン関連の構想路線も
フィレンツェのトラム・ネットワークではこのほか、イタリア鉄道(FS)の線路を活用した複数の新路線の構想(=構想路線)があります。1つは1号路線の電停である「プラート門」(Porta a Prato)近くのFSプラート門駅から、市東部のカッシーネ(Cascine)地区やバルコ(Barco)地区などを通り、ピサ方面に向かうFSのローカル鉄道(「カッシーネ・レオポルダ線」)に4km区間乗り入れるルートです。終点駅はピアージェ(Le Piagge)。実現すれば、イタリアの都市では初めてとなる鉄道路線へのトラムの乗り入れ(「トラム・トレイン方式」)になります。市側はこの新路線を「4号路線」と名づけており、既に市の都市構造計画に位置づけ、フィジビリティー調査も実施済みです。イタリア鉄道側も2011年にフィレンツェ市との間でプロジェクトの実行で基本同意しています。

写真下:H「トラム・トレイン」の結節点となるイタリア鉄道プラート門駅=2011年6月22日撮影 

さらに、同じく構想段階ですが、市側はリベルタ広場から北側に延びるFSの別の郊外鉄道を活用したトラム・トレイン計画も打ち出しているほか、ペレトーラ空港から北部方面(Sesto Fiorentino)に向かう新路線(通常のトラム路線であり、トラム・トレインではない)も構想路線の1つに盛り込んでいます。市の説明によると、1号線、2号線、3号線の3路線を合わせた最終的な路線距離は26km、トラム・トレイン関連の3つの構想路線では52kmに上るとのことです。4号路線と2号路線の北部延伸はそれぞれ2021年までに運行開始を目指しています。

ヨーロッパの国の中でも、プロジェクトの実行までに時間がかかり過ぎるといわれるイタリアの都市だけに、今後も同市のトラムのネットワーク構築が順調に進むとは正直のところ言い難いです。実際、当初の計画では2号路線と3号路線はともに2010年までに開業する予定でした。それだけに、フィレンツェのトラム整備事業は今後も曲折が予想されそうです。

また、新しく造られる路線は今のところ構想路線を含め、中心地区(Centro)と郊外部を結ぶ路線がほとんどで、歴史的中心地区(Centro storico)は対象外で、観光客の移動の足になるような路線ではなさそうです。とはいえ、「コンパクトなまちづくりを促すための公共交通の整備強化」や「トラム・トレイン」など日本にとっても参考になるような興味深い論点がいくつかあるのも事実で、その意味でもその行方が注目されるところです。


著者プロフィール
市川 嘉一 Kaichi ICHIKAWA

1960年生まれ。都市・地域問題を専門にするジャーナリストとして、国内外の数多くの都市の現場を取材してきた。著書に『交通まちづくりの時代』(単著)など 




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