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トスカーナの小都市を旅する
15 marzo 2012

第7回 シエナ  貝殻状の広場を持つ中世コムーネ都市
  

文・写真/菅澤彰子 
シエナほど、トスカーナの中世たる姿を今に伝えている都市はないだろう。フィレンツェから列車かバスに乗って1時間半ほどで着く。その美しさと歴史的意義に加え、アクセスのよさが手伝って、トスカーナではフィレンツェに次ぐ人気の都市ではないかと思う。旧市街がユネスコの世界遺産に登録されたほか、周辺のテリトリー全体のプロモーションが巧みで、近年トスカーナのツーリズムで最も成功しているのが、このシエナ県だろう。

トップ写真: @まるで日時計のようにマンジャの塔がカンポ広場に影を落とす
写真左:Aカンポ広場に堂々と建つプーブリコ宮とマンジャの塔  写真右:Bマンジャの塔の上部からの眺め

●シエナの象徴「カンポ広場」
シエナの象徴といえば、カンポ広場 Piazza del Campoである。貝殻のかたちをした広場が、街の中心だ。今の私たちはもう、映像づけになっているので、「ここにはこういう広場がある」ということをあらかじめ知っていてシエナへ出かけていくことになる。だから、広場に出会う感激というのが、ひと昔前よりもだいぶ薄れてしまっているかもしれない。そこで、こうしたらどうだろう。旧市街の外れでバスかタクシーを降りたら、カンポ広場へ数百メートルの石畳を歩きながら、頭にインプットされている情報をすっかり忘れてほしい。そして、カンポ広場に出る瞬間というのを、まっさらな気持ちで味わってほしい。シエナのカンポは、そういう広場だ。

中世の自治「コムーネ」が隆盛した時代に整備されたカンポ広場は、13世紀から都市計画規制がかけられたことが知られており、今もなお、統一感を保っている。ゆるやかな斜面、包み込む曲線、まるで劇場の中にいるような感がある。常にシエナの行政の中心としての機能してきた館、プーブリコ宮Palazzo Pubblicoが、高い塔とともに堂々と聳えている(写真A)。マンジャの塔 Torre del Mangiaとよばれるその鐘楼へ登れば、シエナの街と周辺の田園地帯を一望することができる。その美しい眺めからは、都市と田園の明快な構図が見て取れるだろう(写真A)。カンポ広場へ落ちる塔の影は、まるで日時計のように時間帯によって位置を変える (写真@)。プーブリコ宮は、現市庁舎ながら一部美術館 Museo Civicoとして開放されており、有名なA.ロレンツェッティのフレスコ壁画の連作「善き政府と悪しき政府の寓意 Allegoria del Buono e del Cattivo Governo」には、中世の価値観がみごとに表現されている。これほどに建築と美術と歴史が呼応してつくられた完成度の高い都市空間というのは他に類を見ない芸術的大傑作であろう。

写真左:Cキジ音楽院のパラッツォに掲げられた各コントラーダ(地区)の旗  写真右:D地区の守護聖人の祭りで集まるコントラーダ「タルトゥーカTartuca(亀)」の人々

多くの旅行者が訪れるシエナだが、賑わいが最高潮に達するのは、夏のパリオPalioの時期である。有名な裸馬の競馬祭りで、このカンポ広場に土を敷き詰めて行われる。地区対抗の熱狂的な古来の祭りであることから、民俗学的にも興味深い。17あるシエナの地区は、「コントラーダ」と呼ばれ(写真C)、一年を通じて地区ごとに住民が集まり、お互いの結束を強め、年2回のパリオ祭へ向けてエネルギーを高めていく(写真D)。

●威厳に満ちた美しさのドゥオモ(大聖堂)
シエナで、最も重要な建築といえば、やはりドゥオモ(大聖堂) Duomoである。ここを訪れた印象を伝える著名人の歴史的記録がいくつか残るとおり、威厳に満ちた美しさを讃えている。建築様式的にはイタリア・ゴシックの代表作と位置づけられるが、ロマネスク的要素も多分に含む。白と黒の大理石による二色の縞模様が特徴的で、シエナの紋章のカラーリングと一致していることから、シエナらしさを表現する意図的なデザインであるともいわれる。高台に聳える鐘楼のゼブラ・カラーは、遠目にも際立って見える(写真E)。

E白黒のゼブラ・カラーが独特のドゥオモ(大聖堂)

14世紀のドゥオモ拡張案Duomo Nuovoが知られているが、シエナの都市計画事業の大胆さに驚かされる。既存のドゥオモを翼廊にして、何倍も大きなものにしようとする壮大な構想だ。そうすると、縦軸が横軸になるわけから、プラン(平面図)は、半時計回りに90°回転することになる。まさに発想の転換で、アイディアを出した側、それを受け入れた側、いずれも敬服に値しよう。ペストの流行やその後の衰退により、完成を見なかったために、「野心的な」案と伝えられるが、やりかけの大事業から、今日の私たちは強いメッセージを受け取ることになる。当時シエナの勢いというのは、相当なものだったに違いない。

●シエナをつくりあげた「4つの力」
シエナには、素晴らしい美術館や修道院など見所がいくつもあるが、ぜひお勧めしたいのが、北のカモッリーア門 Porta Camolliaまで歩いてみることだ。ここは、フランチジェーナという旧街道に一致している。その名の通り、フランスと繋ぐ道で、シエナの街中を縦断して、ローマへと続いている。中世十字軍の時代、この街道沿いに繁栄したのが、私たちの知る輝かしい歴史を持つシエナなのだ。貴族の館が立ち並ぶだけでなく、小さな古い教会も多く、興味深い。多くの学生たちとすれ違うだろうし、イタリア屈指の有力な銀行本部の前も通り過ぎることになる(写真F)。

Fイタリア屈指の銀行モンテ・ディ・パスキ本部


シエナをつくりあげたのは4つの力だといわれている。 コムーネ、教会、大学、銀行。それらをすべて感じ取ってこそ、シエナを訪れる価値があるというものだ。「政治」「宗教」「経済」が都市の発展に欠かせないことはわかってみても、それに加えて、「学問」が影響力を持っていたところに、ふと考えさせられるものがある。

トスカーナの小都市を旅する  著者プロフィール
菅澤 彰子(すげさわ・あきこ) 

トスカーナの丘陵地にたたずむ小さな中世の町、マッサ・マリッティマに在住。 工学修士、専門は建築・都市史。学芸員の資格を持つ。日本の大学院在学中、イタリア政府給費生として、バーリ大学建築学部へ研究目的で留学(1996-97年)。 これまでの論考には『南イタリア都市の居住空間』(中央公論美術出版 2005年)など、プーリア、シチリア、サルデーニャ関連のものがある。トスカーナに関しては、『日伊文化研究』(日伊協会 2010年)、『イタリア文化事典』(丸善出版 2011年)へ執筆。 一方で、2007年より旅のコーディネートを行う。日本からの旅人たちと触れ合いながら、深みのある本物のイタリアを伝えることを信念としている。
URL http://www.sugesawa.com/

シエナ Siena  関連データ
Dati
■標高 322m / シエナ市(シエナ県都) 人口54,561人(2010年末現在)

■現地交通機関によるアクセス
フィレンツェよりバスか列車にて約1時間半
※鉄道駅から旧市街へは約1kmの距離。バスは旧市街北西のPiazza Gramsciへ着く。

■観光情報局 Ufficio Informazioni e Servizi Turistici - APT Siena
住所 Piazza del Campo, 56
冬季 11月11日-3月21日 8:30-13:00/15:00-19:00, 土曜午後、日曜祭日休
夏季 3月22日-11月10日 8.30-19.30, 日曜休
Tel: 0577 280551
Fax: 0577 270676
http://www.terresiena.it/

■マンジャの塔 Torre del Mangia
冬季 10月16日- 2月28日 10:00 - 16:00 (入場 15:15まで)
夏季 3月1日 - 10月15日 10:00 - 19:00 (入場 18:15まで)
クリスマス 休館
元日 12.00 - 16.00 (入場 15:15まで)
入場料: 8.00 ユーロ
※6歳以下の子供は無料。14歳までは同伴者が必要。

■市立美術館 Museo Civico - Palazzo Pubblico
冬季 11月1日- 3月15日 10:00 - 18:00 (入場 17:15まで)
夏季 3月16日- 10月31日 10:00 - 19:00 (入場 18:15まで)
クリスマス 休館
元日 12:00 - 18:00
入場料: 8.00 ユーロ
※マンジャの塔と市立美術館の共通券“Torre - Museo” 13,00ユーロ

■大聖堂 Duomo- Cattedrale
3月1日- 11月2日  10:30 - 19:00
11月3日- 2月28日 10:30 - 17:30
12月26日- 1月6日 10:30 - 19:00
入場料: 3.00 ユーロ

「トスカーナの小都市を旅する」連載に寄せて
著者からのメッセージ


トスカーナといえば、州都のフィレンツェのみを駆け足で訪れる人が今もまだ少なくありません。フィレンツェの所有する歴史文化遺産は素晴らしく、いくら見ても見切れないもの。でも、その一方で、都会的な騒々しさや溢れかえる観光客に圧倒されてしまうこともあるでしょう。そういったときには、気晴らしに小さな町を訪れてみてはいかがでしょうか。トスカーナには、魅力ある小さな町がたくさんあります。意外なことかもしれませんが、多くのイタリア旅行者たちが、そういった町での散策が、旅の一番の記憶として印象に残っていると口をそろえて言うのです。この連載では、ゆったりと静かに味わうことのできる、"トスカーナらしさ"を存分に残している中小規模の町をいくつか紹介していこうと思います。私の専門である建築・都市の視点を取り入れ、旅人たちをトスカーナにいざないます。そしてなお、"ここに住む者ならでは"のテイストを感じ取っていただければ、幸いです。

今後、記事掲載を予定している都市一覧(順不同)
○ ピサ  ○ ルッカ   ○ アレッツォ   ○ シエナ  ○ サン・ジミニャーノ
○ モンテ・プルチャーノ&ピエンツァ  ○ ヴォルテッラ  ○ マッサ・マリッティマ
○ ピティリアーノ 
2009年4月
菅澤彰子





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