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トスカーナの小都市を旅する
15 Maggio 2013

第10回 サン・ジミニャーノ&モンテリッジョーニ 塔の林立する風景
  

文・写真/菅澤彰子 
トスカーナ小都市の連載もこれで最後となるが、おそらくもっとも有名な町のひとつを残してしまったようだ。塔の町として有名なサン・ジミニャーノを訪れよう。近年のポピュラーぶりは、「あまり混雑しているのはいやだから」とあえて避けていく旅行者さえ出てくるほどで、私も驚いている。

たしかに、こんなにも中世の塔が建ち並んでいるという風景に出会えるのは、ここしかない(写真@)。高層ビルが建ち並んでいる光景にたとえられて、「中世の摩天楼」「中世のマンハッタン」などとも形容される。もし何も知らずに、トスカーナの田園に迷い込んで、突如としてこの町が現われたなら、さぞ衝撃を覚えることだろう。だが、たいてい現代の私たちは「そこに塔の町がある」ということをはじめから知っていて、出かけていくことになる。

人気の秘密は、その魅力ある都市風景だけでなく、何といっても主要観光都市からの距離感が第一の理由であろう。フィレンツェからもシエナからも50kmほどで、車なら1時間足らず。公共の路線バスでもアクセス可能だ。これまでの連載記事で見てきたとおり、実はトスカーナには、非常に魅力的な町がたくさんあるのけれども、辺鄙なところにあるという理由だけで、旅行者の数が格段に減る。特に休暇の日数が限られているツーリストにとっては、利便性というのは重要なポイントだ。現地ツアー催行会社にとっても、アクセスがよければ安価にツアーが組めるし、安価なら人が集まる。そういうわけで、フィレンツェやシエナから、手軽に観光バスでグループツアーが訪れる仕組みがいつからか定着してしまっている。

●中世の塔の町 サン・ジミニャーノ
これらの業者によるイメージ戦略のせいか、サン・ジミニャーノと聞くと、何となくロマンチックな響きを感じる人も少なくないかもしれない。ところが、そこに実際に行ってみると、予想外の厳つい要塞の姿に出迎えられることになる。まるで、城そのものなのだ(写真A)。入り口はといえば、この巨大な中世の要塞の片隅にあって、小さく開けられた門から、旧市街へアクセスすることになる。

トップ写真: @塔の林立するサン・ジミニャーノの旧市街
写真下左:Aサン・ジミニャーノの要塞化された旧市街を囲う壁   写真下右:B市庁舎の塔から望む、サン・ジミニャーノの旧市街と田園風景

旧市街を歩いていくと、塔がいくつも目に飛び込んでくる。現在残る塔は、14とも15ともいわれるが、最盛期には72あったとされるから、想像するだけでもすごい光景が目に浮かぶ。現在、旅行者が登れる塔はふたつあって、一つは市庁舎の塔で公共の所有だが、もう一方はアパートとして貸し出している私有のものだ。現市庁舎となっている建物は、13世紀からの為政者の館 Palzzo del Podesta`であったため、ミュージアムも兼ねていて、この町の深い歴史に触れることができる。「大きな塔Torre”Grossa”」と呼ばれる、14世紀初頭に建設された町一番の高さ54mの塔を付属している。塔型住宅というものの暮らしを味わってみるには、もう一方の塔で、アパートを借りてみるのもいいだろう。いずれにしても、高いところへ上れば、塔の林立する旧市街の風景と、周辺に広がる豊かな田園風景を見渡すことができる(写真B)。

●「ドゥオモ広場」と「チステルナの広場」
サン・ジミニャーノには、ふたつの広場があって、コントラストを成している。質素なファサードの大聖堂が面している「ドゥオモ広場 Piazza Duomo」と、シンボリックで大きな貯水槽を中心に据えた「チステルナの広場 Piazza della Cisterna」である(写真C、D)。  

 写真下左:Cサン・ジミニャーノ「ドゥオーモ広場」    写真下右:Dサン・ジミニャーノ「チステルナ広場」

豪華絢爛な大聖堂建築を見慣れてしまっている旅行者には、ここのドゥオモには、小さな衝撃を覚えるかもしれない。典型的なロマネスク様式で、外から入ると、内部はたいへんに暗いと感じるが、いったん目が慣れてくると素晴らしいフレスコ画が見えてくる。貯水槽は、明らかにこの町のシンボルであることがわかり、階段にはいつも誰かが腰かけている。中にコインを投げ入れていく人も多い。三叉路にあるこの三角形のチステルナの広場は、学生時代から広場や路地を研究する私にとって、とても興味深い存在である。
写真下:E丘の頂きに聳えるモンテリッジョーニ

●王冠の形の要塞都市モンテリッジョーニへ 
最後に、もうひとつ特徴的な町を紹介しておきたい。シエナ中心部から20kmほどの、モンテリッジョーニだ。このあたりを車で行けば、小高い丘のいただきに、王冠のような形で聳えているから、見逃すわけがない。丘の裾には、ブドウ畑とオリーブ畑が広がっている(写真E)。ぐるりと取り囲まれた頑強な壁面にそって14の塔を備えており、要塞を絵にかいたような中世の町である(写真F)。

写真下左:F外部に閉鎖的なモンテリジョーニの入口    写真下右:Gモンテリッジョーニの中心にある「ローマ広場」


その姿を王冠に例えたけれども、中世当時は、これらの塔が現在よりもずっと高かったらしく、高い塔が取り巻くモンテリッジョーニの景観については、かのルネサンスの文豪ダンテも触れている。最初に町があって時代とともに要塞化されたトスカーナの都市は多いが、ここはまず要塞ありき、で生まれた町である。要塞は中世シエナ人によって建設された。つまりこの見晴らしのいい丘の上が、中世都市国家シエナの国境あたりで、宿敵国フィレンツェとの戦いにおいて、戦略的に有効な場所であったということだ。現在のモンテリッジョーニのテリトリーには多くの集落が点在しているが、この象徴的な旧市街はその名も「城 Castello」と呼ばれる。

●壁の外に広がるのどかな田園風景
旧市街の中は建物で埋め尽くされておらず、隙間が多い。中心となる教会が面した矩形の「ローマ広場」をはじめ、いくつかの水場が確保されている(写真G)。この教会は「ピエーヴェ」という用語で呼ばれている。低層の建物が並ぶ風景は、高層の住宅がひしめく中世の生きられたトスカーナの街並みとは、明らかに異なる様相である。町の周囲を巡る壁には、ぜひとも登ってみて欲しい。この壁の外に広がるのどかな田園風景を前に、要塞都市の建設当時の、この地における穏やかならぬせめぎ合いが、感じ取れるはずだ。

*終わりに*
読者の皆様、これまでお付き合いくださいまして、ありがとうございました。
編集者である大島さんの辛抱強い励ましにより、何とか当初の予定通りの本数を書き終えました。旅行者向けの書き物としては、これが初めてとなります。この連載が、トスカーナを訪れる方々の旅のヒントにつながれば幸いです。この連載の終わりに強調しますが、トスカーナの小都市は規模が小さければ小さいほど、定番のバスツアーなどを使わずに、個人で訪れていただきたいと思います。公共交通機関でも何とか行かれますし、レンタカーや運転手つきの車を用意してもいいだろうと思います。
とにかく、自分たちで行くこと。それが小都市の本来の姿に出会える、秘訣だろうと思います。そして、けっして駆け足で通り過ぎないこと。とどまることで見えてくるものが、きっと何かあるはずです。


トスカーナの小都市を旅する  著者プロフィール
菅澤 彰子(すげさわ・あきこ) 

トスカーナの丘陵地にたたずむ小さな中世の町、マッサ・マリッティマに在住。 工学修士、専門は建築・都市史。学芸員の資格を持つ。日本の大学院在学中、イタリア政府給費生として、バーリ大学建築学部へ研究目的で留学(1996-97年)。 これまでの論考には『南イタリア都市の居住空間』(中央公論美術出版 2005年)など、プーリア、シチリア、サルデーニャ関連のものがある。トスカーナに関しては、『日伊文化研究』(日伊協会 2010年)、『イタリア文化事典』(丸善出版 2011年)へ執筆。 一方で、2007年より旅のコーディネートを行う。日本からの旅人たちと触れ合いながら、深みのある本物のイタリアを伝えることを信念としている。
URL http://www.sugesawa.com/

サン・ジミニャーノ San Gimignano 関連データ
Dati
■標高 324m / サン・ジミニャーノ市(シエナ県) 人口7,770人(2010年現在)

■現地交通機関によるアクセス
シエナからバスにて65分(直行あり)
フィレンツェからバスにて80分(ポッジボンシで乗換え)

■観光情報局 Ufficio Informazioni Turistiche
Piazza Duomo 1 , San Gimignano (SI)
Tel: 0577 940008 Fax 0577 940903
www.sangimignano.com

モンテリッジョーニ Monteriggioni 関連データ
■標高 274 m / モンテリッジョーニ市(シエナ県) 人口9,035人(2010年現在)

■現地交通機関によるアクセス
シエナからバスにて約25分。

■観光情報局 Ufficio Tutistico
Piazza Roma 23, Monteriggioni (SI)
Tel: 0577 304834 Fax 0577 573213
www.monteriggioniturismo.it/


「トスカーナの小都市を旅する」連載に寄せて
著者からのメッセージ


トスカーナといえば、州都のフィレンツェのみを駆け足で訪れる人が今もまだ少なくありません。フィレンツェの所有する歴史文化遺産は素晴らしく、いくら見ても見切れないもの。でも、その一方で、都会的な騒々しさや溢れかえる観光客に圧倒されてしまうこともあるでしょう。そういったときには、気晴らしに小さな町を訪れてみてはいかがでしょうか。トスカーナには、魅力ある小さな町がたくさんあります。意外なことかもしれませんが、多くのイタリア旅行者たちが、そういった町での散策が、旅の一番の記憶として印象に残っていると口をそろえて言うのです。この連載では、ゆったりと静かに味わうことのできる、"トスカーナらしさ"を存分に残している中小規模の町をいくつか紹介していこうと思います。私の専門である建築・都市の視点を取り入れ、旅人たちをトスカーナにいざないます。そしてなお、"ここに住む者ならでは"のテイストを感じ取っていただければ、幸いです。

今後、記事掲載を予定している都市一覧(順不同)
○ ピサ  ○ ルッカ   ○ アレッツォ   ○ シエナ  ○ サン・ジミニャーノ
○ モンテ・プルチャーノ&ピエンツァ  ○ ヴォルテッラ  ○ マッサ・マリッティマ
○ ピティリアーノ 
2009年4月
菅澤彰子





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