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トスカーナの小都市を旅する
15 settembre 2009

第3回 ルッカ 古代に中世が重なる比類なき要塞都市
  

文・写真/菅澤彰子 
中世のイタリア中北部には、数多くの独立都市国家が生まれていた。その事実を空間的に体感したいのなら、ルッカへ行くべきだ。町の外と中との区別がはっきりとしている。実際、彼の地で「ルッカ」と言うとき、それは市街地を意味し、「コンタード」と言うとき、それは周辺の田園部を意味することになる。「コンタード」には、郊外の生活も謳歌した貴族階級の歴史的なヴィッラ(別荘)がいくつもあり、それに対して、都市的生活が繰り広げられてきた「ルッカ」は、常に政策的に手をかけられ、入念に築き上げられてきた印象だ。

●旧市街を取り囲む巨大な市壁
まず、第一の驚きは、旧市街を取り囲む巨大な市壁 Mura Urbaneである。ルッカに列車で行くとすれば、鉄道駅から旧市街への一番の近道は、堀に架かる小さな橋を渡り、要塞に吸い込まれるようにして暗い階段を上がることになる(写真A)。暗闇の時間が、すなわち要塞の厚みと高さにあたいする。ルッカは端的にいえば、「城の中に町がある感じ」である。

トップ写真:@ 「グイニージの塔から望む楕円形の広場とルッカの町並み」
写真左:A「堀に架かる橋と頑強なルッカの要塞」、右:「周囲4.2kmにおよぶ心地よい並木道」

暗い階段を上りきると、晴れた日には陽光が降りそそぐ(写真B)。約12mの高さの壁は、心地の良い並木の遊歩道になっていて、散歩やサイクリングをする人が後を立たない。木漏れ日の中、ベンチに腰掛け、読書をする人もいる。忙しい現代にあって、そこだけが、ゆっくりと時間が流れているようだ。高いから見晴らしもいいし、空気もおいしい。            

この壁の建設には、16世紀半ばから約1世紀の年月を費やしたという。完成した時には、すでに平和が訪れ、防御としての役割は一度も果たすことがなかったらしい。トスカーナでもっとも興味深い軍事建築に数えられるこの要塞壁は、19世紀の再生によって、現代市民にリラックスを与えているのだから不思議なものだ。

●古代ローマの「闘技場」が見事な楕円形の広場に
世界がルッカという町に興味を持つのは、一風変わった楕円形の広場の存在であろう(写真C)。ルッカの目玉であるこの広場には、教会も権力的な建物も見当たらない。まるでヨーロッパの常識を覆してしまうような広場だ。ここへもまた、小さなトンネルをくぐるので、やはり異界へ入る感じがある。建物にぐるりと取り囲まれた広場の正体は、古代ローマの闘技場だ。その名も「闘技場の広場」Piazza dell' Anfiteatroである。

写真左:C「古代ローマの闘技場が再構成された楕円形の広場」、右:D「空中庭園を持つグイニージの塔、高さ44.25m」

古代遺跡が町の中にある、という例は、実はイタリアにはいくつかあるが、これほどまでに変貌を遂げた例は、他に見当たらない。もともと闘技場の内部であったはずの領域が、外部空間(=広場)となっている。「地」と「図」の転換だ。機能を終え、荒廃しきっていた紀元2世紀の闘技場跡は、1830年から9年間の年月をかけて、都市計画家の手によって、広場へと再生された。楕円の形状と、1階の連続アーチのモチーフをそのままに保存した見事な空間再構成である。再生後、市の立つメルカート広場として庶民たちに使い込まれてきたことが、その価値を一層高めてきたのであろう。

この楕円の広場を上から眺めるには、グイニージの塔Torre Guinigiからがいい(写真D)。この塔は13世紀のもので、商業で財を成した一族の館に付属されたものだ。最盛期のルッカには、250もの塔が林立していたといわれるが、その中で最も重要なのがこの塔である。赤レンガのテクスチャーが印象的だ。息を切らして登った高い塔のてっぺんには、パノラマ風景以外に、もうひとつサプライズが待っている。何と、そこには木が植わっているのだ。数本のトキワガシが数世紀にわたり、町を見下ろしながら生きて続けている。空中庭園を持つ塔なんて、これもまた世に珍しい。眼下には、13-14世紀の町並みが広がる。ルッカの経済が最も繁栄した時期だ。そして高い視点からは、古代ローマの都市構造もまた、よりくっきりと見えてくる。

●古代のトポスの生きる興味深い教会
ルッカには、興味深い教会がいくつもあり、古代のトポス(場所性)が今に生きている。
町の中心、古代ローマのフォロ(公共広場)があった場所には、モニュメンタルなサン・ミケーレ・イン・フォロ教会がそびえる(写真E)。小さな連続開廊アーチの優美性は、ピサ〜ルッカの一帯のロマネスク様式に見られる共通言語で、その様式が昇華した代表的なものがこのサン・ミケーレ教会といっていい。
写真左:E「古代のフォロに立つ優美なサン・ミケーレ教会」
右:F「軍事的要素を持つドゥオモの鐘楼」

しかし、町の教会として最も重要なのは、やはりドゥオモである。ところが、この大聖堂がちょっと不自然だ。ファサード(正面)が、シンメトリー(左右対称)でないのだ。鐘楼が横に張り付くような構成だ。この鐘楼もまた変わっていて、最上部にキザギザの狭間がついている(写真F)。狭間というのは、そこから弓矢を構えたりするための、もともと防御のために生まれた軍事的な要素であるから、そういうものが教会の鐘楼に、しかも町一番の聖なる存在であるドゥオモについているというのは、まったく興味深い。こういった鐘楼は他にもあり、自衛のためにこの町は、いったいどれほど手をかけたのだろうか、と考えさせられる。

そもそも、ルッカはなぜ都市としての重要さを獲得し、現在に至るのだろうか。ピサやフィレンツェという強国に挟まれ、地理的に恵まれているとは言いがたい。世が平和になってからも熾烈な生き残り合戦があったはずだ。商業や金融の発展のほかに、ルッカにはある種の自由があったともいう。作曲家プッチーニなどの芸術家も生まれている。この地方都市の歴史の裏側では、きっと相当の知恵が働き続けてきたに違いない。

"Viaggiare nei centri minori della Toscana " No.3 Lucca - Arch. Akiko Sugesawa

トスカーナの小都市を旅する  著者プロフィール
菅澤 彰子(すげさわ・あきこ) 

1999年よりトスカーナの丘にたたずむ小さな中世の町に暮らす。イタリア政府給費生としてプーリア地方バーリ大学建築学部へ研究目的で留学(1996-97)。これまでの論考には『南イタリア都市の居住空間』(中央公論美術出版 2005)など、プーリア、シチリア、サルデーニャ関連のものがある。翻訳にパルマ大学A.マンブリアーニ教授「イタリアにおける建築設計と研究の方法上の変遷」他。
2007年より日本の旅行会社と提携し、イタリア各地に住んで旅した経験とパーソナリティを生かして、独自のスタイルで旅企画&現地コーディネートに取り組む。トスカーナを拠点にメッセージ性の高いブログ記事を発信し続け、異色の存在として注目度が高い。
* * * 旅行分野における主な活動 * * *
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ブログURL http://blog.webtravel.jp/partner52/
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ルッカ Lucca 関連データ
Dati
■標高 19m/ルッカ市 (ルッカ県都)人口 81,995人 (2007年現在)

■現地交通機関によるアクセス
ピサより列車にて約30分
フィレンツェより列車にて約1時間半

■ルッカ市観光情報局CENTRO ACCOGLIENZA TURISTICA
@Vecchia Porta San Donato - Piazzale G.Verdi
Tel. 0583- 583150 Fax 0583-582389
9:30-17:30(11月-2月)/ 9:00-19:00(3月-10月)
APiazza Curtatone, Viale Giusti (鉄道駅より100m)
Tel.0583-495730 Fax 0583-443947
10:00-18:00
Info@luccaitinera.it
www.luccaitinera.it

■グイニージの塔 TORRE GUINIGI
Via S.Andrea
Tel. 0583.316846 - Fax. 0583.550797
見学時間は時期により異なる
11月〜2月/ 9.00-17.30
3月〜9月/ 9.00 - 20.00
10月/10.00-18.00
入場料 3.10ユーロ 

■時計の塔 TORRE DELLE ORE
Via Filungo
Tel. 0583.316846 - Fax. 0583.550797
見学時間は時期により異なる
10月〜2月/ 9.00-17.30
3月〜4月/ 10.00 - 18.00
5月〜9月/ 10.00-19.00
入場料 3.10ユーロ 

※グイニージの塔と時計の塔の両方を見学する場合には、入場料5.00ユーロ。

■大聖堂博物館 Museo della Cattedrale
Piazza del Duomo
Tel.& fax 0583.490530
見学時間は時期により異なる
4月〜10月/ 10.00-18.00
11月〜3月/ 10.00-15.00
休祭日および、その前日は 10.00-18.00
クリスマス、元旦、イースターの午前は閉館
入場料 3.50ユーロ

■プッチーニの生家とプッチーニ財団 
Casa natale di Giacomo Puccini e Fondazione G.Puccini
Corte S.Lorenzo, 9 (Via di Poggio)
Tel. 0583.584028.
3月14日〜5月/ 10.00-13.00, 15.00-18.00 月曜閉館
6月〜9月/ 10.00-18.00 閉館日なし
10月〜12月/ 10.00-13.00, 15.00-18.00 月曜とクリスマス、元旦は閉館
入場料 3.00 ユーロ
「トスカーナの小都市を旅する」連載に寄せて
著者からのメッセージ


トスカーナといえば、州都のフィレンツェのみを駆け足で訪れる人が今もまだ少なくありません。フィレンツェの所有する歴史文化遺産は素晴らしく、いくら見ても見切れないもの。でも、その一方で、都会的な騒々しさや溢れかえる観光客に圧倒されてしまうこともあるでしょう。そういったときには、気晴らしに小さな町を訪れてみてはいかがでしょうか。トスカーナには、魅力ある小さな町がたくさんあります。意外なことかもしれませんが、多くのイタリア旅行者たちが、そういった町での散策が、旅の一番の記憶として印象に残っていると口をそろえて言うのです。この連載では、ゆったりと静かに味わうことのできる、"トスカーナらしさ"を存分に残している中小規模の町をいくつか紹介していこうと思います。私の専門である建築・都市の視点を取り入れ、旅人たちをトスカーナにいざないます。そしてなお、"ここに住む者ならでは"のテイストを感じ取っていただければ、幸いです。

今後、記事掲載を予定している都市一覧(順不同)
○ ピサ  ○ ルッカ   ○ アレッツォ   ○ シエナ  ○ サン・ジミニャーノ
○ モンテ・プルチャーノ&ピエンツァ  ○ ヴォルテッラ  ○ マッサ・マリッティマ
○ ピティリアーノ 
2009年4月
菅澤彰子





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