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トスカーナの小都市を旅する
15 maggio 2012

第8回 アレッツォ 映画の舞台にもなった中世的な街並み
  

文・写真/菅澤彰子 
前回のシエナに続いて、今回もまたトスカーナ史上の強豪、アレッツォについて書こう。アレッツォは、フィレンツェから列車で1時間あまりなので、手軽に行ける町だ。現在は人口約10万人だが、旧市街はかわいらしいスケール感で、中世の面影を色濃く残している。列車を降りても、鉄道駅から旧市街へは容易にアクセスできる。

トップ写真: @町の中心、グランデ広場に面して建つ、間口の狭い中世らしい特徴を持つ邸宅群
写真左:A19世紀に整備されたグイド・モナコの広場とその通り   写真右:B平地に残る古代ローマの闘技場跡

●ペトラルカ、ヴァザーリなど著名人を輩出」
この町は、詩人のペトラルカ、建築家のヴァザーリなど、多くの著名人を輩出したことで知られる。そのうちのひとりに、グイド・モナコ(もしくはグイド・ダレッツォ)がいる。
ドレミの音階のほか、楽譜の表記法の原型を考案した偉大なる中世の修道士だ。鉄道駅を降りるとまず、彼の彫像に出迎えられ、旧市街へは直線道路北へ進んでいくことになる(写真A)。

「いかにも、19世紀的な街並みだな」などと思ううちに、ゆるやかな丘を登ることになる。そこで、「なるほど、トスカーナだ」と考え直す。伝統的なトスカーナの都市形態だ。実際この町は、古代エトルリア期、ローマ期にも栄えていたから、私たちが今訪れる歴史的地区とは中世の時代もので、町としては3度目の繁栄期にあたる。古代ローマの闘技場の痕跡は、低い平地に残されている(写真B)。

●「ライフ・イズ・ビューティフル」のロケ地となったグランデ広場
アレッツォは近年いっとき、世界的なブームになった。R.ベニーニの映画「ライフ・イズ・ビューティフル La vita e' bella(1997年)」が映画賞を総なめにしたときだ。この町が、映画のロケ地としてもてはやされ、その直後に訪れた日本人も多いはずだ。

この映画の最大の舞台となったのが、最も魅力ある都市空間、グランデ広場 Piazza Grande である(写真C)。トスカーナでは大抵、歴史的な町の中心の広場といえば、大聖堂(ドゥオモ)か、それとも為政者の館の前だったりするのだが、ここでは、そのどちらでもない。広場の中心となるのは、教区の教会である。しかも、正面でなく、裏側である。張り出したロマネスクの後陣が美しい、サンタ・マリア教会 Pieve di S.Maria だ。ここで不思議に思うのは、なぜこの教会が「キエーザ」ではなく、「ピエーヴェ」と言われるか、ということだ。「ピエーヴェ」とは、多くは田園部に建つ教会に使われる用語だからだ。

写真左:C自然の地形が生かされた不整形なかたちのグランデ広場   写真右:Dグランデ広場に面したロッジャ(開廊)のエレガントな半戸外空間

サンタ・マリア教会のおびただしい数のアーチで装飾された正面から、自然と裏側の広場へと導かれる。そのかたちは、不整な四辺形で、こんなにも斜面に高低差がある広場というのには他に出会ったことがない。坂道ならぬ、坂の広場といった感があり、自然の地形を生かしていることが一目瞭然だ。写真では、なかなか全体像をつかみにくい。実際に行ってみてこそ、その広場の面白みがわかる。主人公を自転車で走らせて、広場を撮りたくなる映画監督としてのベニーニの心理さえわかったような気になる。

特徴的な木製バルコニーの張り出しを持つ、いかにも中世らしい間口の狭い邸宅が広場を彩っている(写真@)。連続アーチのロッジェ(開廊)は、ドゥオモの正面からの装飾に呼応するかのように、都市空間にリズムを与えている。この開廊を持つ16世紀の館 Palazzo delle Loggeを設計したのはヴァザーリで、ここは別名ヴァザーリ広場といわれる。ロッジェには、バールのテーブルが置かれており、広場を見ながら優雅なひとときを過ごすこともできる(写真D)。もともとは市の立つ広場だったということなので、毎月第一日曜の骨董市に合わせてでかけてみるのも興味深いだろう。

●町一番の祭り「馬上槍試合」
さて、この広場でもやはり、町一番の祭りが繰り広げられる。土を敷き詰めて、馬が走る。だが、シエナのような競馬ではなく、ここでは旗手が槍を突く競技だ。馬上槍試合と訳される、ジョストラ・デル・サラチーノ Giostra del Saracinoの祭りである。異教徒との戦いという中世の史実にもとづく祭りだ。

E地区の旗が掲げられたサン・ロレンティーノの門(フィレンツエ門)

6月と9月に開催される4つの地区対抗戦で、それぞれの地区が「○○門」という名がついている点が、興味深い。この町の地区形成は、旧市街を囲っていた壁の市門と密接に結びついてきたことがわかる(写真E)。ひとつの門の呼び名にはいくつものヴァリエーションがあって、北西の「サン・ロレンテイーノ門」は「フィレンツェの門」とも呼ばれ、宿敵と戦った往時が想像される。ここの地区名としては「フォロの門」であって、それは古代ローマのフォロがあったことに由来する。

●ピエロ・デッラ・フランチェスカのフレスコ画
その他、旅行者たちを惹きつけるものに、ピエロ・デッラ・フランチェスカ Piero della Francesca のフレスコ画がある。サン・フランチェスコ教会は、世界美術史上重要なフレスコ画作品を保存しながら、ファサードは未完のままで、通り過ごしてしまいそうなほど質素だ。教会のフレスコ画というのは、美術館に移して納められているのと違って、作品のオリジナルの場所で鑑賞できるので、深い味わいがある。訪れる価値もより高いだろう。また、マニエリスム様式の邸宅、ヴァザーリの家Casa Vasariもぜひ訪れたい。

Fドゥオモの裏、高台の広い緑地は市民の憩いの場


一方で、現在のアレッツォの住民にとっての魅力ある都市空間とは、どこであろうか? そのひとつは、高台のドゥオモのあるエリアだろう。丘を登りきったところにドゥオモが聳え、その背後が手入れの行き届いた広大な緑地公園になっていて、気持ちのいい風が吹き抜ける(写真F)。そこから北側は切り立った崖になっていて、豊かな田園のパノラマ風景を見渡すとき、「ああ、この町はいい町だ」と感ぜずにはいられない。

トスカーナの小都市を旅する  著者プロフィール
菅澤 彰子(すげさわ・あきこ) 

トスカーナの丘陵地にたたずむ小さな中世の町、マッサ・マリッティマに在住。 工学修士、専門は建築・都市史。学芸員の資格を持つ。日本の大学院在学中、イタリア政府給費生として、バーリ大学建築学部へ研究目的で留学(1996-97年)。 これまでの論考には『南イタリア都市の居住空間』(中央公論美術出版 2005年)など、プーリア、シチリア、サルデーニャ関連のものがある。トスカーナに関しては、『日伊文化研究』(日伊協会 2010年)、『イタリア文化事典』(丸善出版 2011年)へ執筆。 一方で、2007年より旅のコーディネートを行う。日本からの旅人たちと触れ合いながら、深みのある本物のイタリアを伝えることを信念としている。
URL http://www.sugesawa.com/

アレッツォ Arezzo   関連データ
Dati
■標高 296m /アレッツォ市(アレッツォ県都) 人口 100,212人 人口54,561人(2010年末現在)

■現地交通機関によるアクセス
フィレンツェより列車にて1時間〜1時間半。

■アレッツォ観光局 Apt Arezzo
Piazza Risorgimento, 116
Tel.0575 23952/3
www.apt.arezzo.it
apt@arezzo.turismo.toscana.it

■アレッツォ観光情報所 Ufficio di Informazione
Piazza della Repubblica, 28
Tel/Fax 0575 20839 info@arezzo.turismo.toscana.it

■馬上槍試合の祭り ジョストラ・デル・サラチーノ Giostra del Saracino
www.giostradelsaracino.arezzo.it

■骨董市 Associazione Fiera Antiquaria di Arezzo
Piazza della Liberta' I
Tel. 0575 377993
Fax. 0575 377938
www.arezzofieraantiquaria.org

■ピエロ・デッラ・フランチェスカのフレスコ画 Basilica di San Francesco
Piazza San Francesco
Tel: 0575 352727 - 0575 299071
Fax: 0575 302001 (入場予約)
www.pierodellafrancesca.it
pierodellafrancesca-ar@beniculturali.it
http://www.sbappsae-ar.beniculturali.it/index.php?it/193/basilica-di-san-francesco
開館時間 8.30-12.00 / 14.00-18.30
入場料:6ユーロ 見学予約必須:2ユーロ

■ヴァザーリの家 Casa Vasari
Via XX Settembre, 55
Tel. 0575 409040

「トスカーナの小都市を旅する」連載に寄せて
著者からのメッセージ


トスカーナといえば、州都のフィレンツェのみを駆け足で訪れる人が今もまだ少なくありません。フィレンツェの所有する歴史文化遺産は素晴らしく、いくら見ても見切れないもの。でも、その一方で、都会的な騒々しさや溢れかえる観光客に圧倒されてしまうこともあるでしょう。そういったときには、気晴らしに小さな町を訪れてみてはいかがでしょうか。トスカーナには、魅力ある小さな町がたくさんあります。意外なことかもしれませんが、多くのイタリア旅行者たちが、そういった町での散策が、旅の一番の記憶として印象に残っていると口をそろえて言うのです。この連載では、ゆったりと静かに味わうことのできる、"トスカーナらしさ"を存分に残している中小規模の町をいくつか紹介していこうと思います。私の専門である建築・都市の視点を取り入れ、旅人たちをトスカーナにいざないます。そしてなお、"ここに住む者ならでは"のテイストを感じ取っていただければ、幸いです。

今後、記事掲載を予定している都市一覧(順不同)
○ ピサ  ○ ルッカ   ○ アレッツォ   ○ シエナ  ○ サン・ジミニャーノ
○ モンテ・プルチャーノ&ピエンツァ  ○ ヴォルテッラ  ○ マッサ・マリッティマ
○ ピティリアーノ 
2009年4月
菅澤彰子





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