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15 Novembre 2020

第5回
〜 味と香りのファンタジー 〜

吉田希世美




私は子供のころ、気に入ると何度も同じ本を繰り返し読んでいました。家にあった絵本のなかでも、とくに『ちびくろ・さんぼ』(ヘレン・バンナーマン著・瑞雲舎刊)がお気に入りでした。ストーリーはあまり覚えていないのですが、では、なにがそんなに私を魅了していたのかと言いますと、最後にトラたちが木の周りをグルグル回って溶け出し、おいしそうな濃い黄色のバター(ギー)になり、そのあと、そのバターでつくった山のようなホットケーキを、ちびくろサンボがおいしそうに食べているところで終了するという、最後の場面でした。そのこってりとしたバターとホットケーキのおいしそうなこと! 挿絵とともに、香りや味がすぐに想像できて、いまでもこの場面の記憶が鮮明に残っています。

もう1冊は『ぼくは王さま』(寺村輝夫著・フォア文庫刊)という本です。主人公の王さまは、たまごが大好き。毎回、それはそれはおいしそうにたまご焼きを食べるのですが、その描写が素晴らしく、口のなかにその食感が伝わるほどでした。本を読み終わった後は、ふんわりとした口当たりの甘そうなたまご焼きを、いつも決まって食べたくなるのでした。

ところで、エノテカでは、毎年、日本で雑誌の編集者をしていたころからずっとお世話になっている心理占星学研究家の岡本翔子先生と、ワインと星座を絡めた面白いイベントを開催しています。去年のイベントでは、山羊座が2020年のキーパーソンとなるということで、山羊座のキャラクターをイメージする生産者がつくったワインを試飲しよう、ということになりました。つまり、修行僧のようにこつこつと努力を重ねていく、朴訥な人柄です。そこで、イタリアにおけるビオディナミ農法の第一人者と言われる、ピエモンテ州の生産者、Stefano Bellotti(ステファノ・ベッロッティ)氏の手がけた白ワイン、Cortese(コルテーゼ)種100%の「IVAG(イヴァグ)」2018年をセレクトすることにしました。

私はこのワイナリーを3回訪れていますが、彼はいつも、髪はボサボサ、肌は日に焼けていて、服にはあちこち土がついています。ごつごつとした大きな手で作業をしながら、自分の畑を見せながら説明していく素朴な姿は、とても印象的でした。自分を信じて淡々と独自のワインをつくり続けて行くベッロッティ氏。残念ながら、2018年の収穫中に他界されましたが、そのときのイベントで試飲したワインが、まさに2018年のヴィンテージだったというのも、大変感慨深いものがありました。 さて、このイベントの2,3日前に、エノテカで確認の試飲をしておこうと思い、「イヴァグ」を試飲したときのことです。ひと口、口に含むと、いきなり、小学校の国語の教科書で読んだ、宮沢賢治の『やまなし』という短い童話が、私のアタマのなかで挿絵とともにフラッシュバックしてきました。とても短いお話です。

しんと静まり返った青い月光に満たされた夜の川底で、蟹の兄弟が会話しています。すると突然、熟れたやまなしが川に落ちてきて、ふたりが怖がっていると、お父さん蟹が出てきて子どもたちを安心させ、あたり一面においしいやまなしの香りが漂います。いい香りを放ちながら流れて行くやまなしを親子は追っていき、枝に引っかかって止まったやまなしを見て、「おいしそうだね」と言うこどもたちを、お父さん蟹は遮ってこう言います。「待て待て、もう二日ばかり待つとね、こいつは下へ沈んで来る、それからひとりでにおいしいお酒ができるから」。

「イヴァグ」のやわらかなフルーツの香りと、ファンタジーの青い世界が重なるとき、実際に嗅いでいた香りの記憶だけでなく、幼いころに読んで想像した香りや味が蘇ったのです。これは、とても面白い発見だと思いました。みなさんも、ワインを飲んで行くうちに、なにか懐かしい本に描かれた香りや味わいが、その本の記憶とともに蘇るかもしれませんよ。ワインは本当に不思議な力を持った魅力的な飲み物ですね。ありがとう、ワイン。

(写真:Cascina degli Ulivi(カッシーナ・デッリ・ウリーヴィ)Vino Bianco(ヴィーノビアンコ) IVAG(イヴァグ)2018年 Cortese(コルテーゼ)種 13%vol)


EnotecaWine エノテカワイン
住所:Via Giuseppe Brentano(番号なし)20121 Milano
最寄駅:メトロM1線Cairoli駅(ドゥオーモとお城の中間あたり)
Tel:02-36514771 
info@enotecawine.it
http://www.enotecawine.it/


著者プロフィール
吉田希世美(よしだ・きよみ) プロフィール
日本の雑誌社で女性誌編集者として10年間働き、ワインや料理、ファッションなどを手掛ける。その後イタリアに渡り、2003年A.I.S.(イタリア・ソムリエ協会)ソムリエ資格を取得、その後プロ・ソムリエに。星付きレストラン『Aimo e Nadia』などのレストランやエノテカで勤務。『Excelsior Enoteca Eat’s Milano』の店長を経て、2014年12月、ミラノで日本人初のエノテカのオーナー・ソムリエとして、同僚のソムリエ公式テイスターのSebastiano Baldinuとともに『EnotecaWine(エノテカ・ワイン)』をオープン。
ブログ https://ameblo.jp/kiyomi-yoshida


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