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オルガニスト吉田愛のドロミテ暮らし
15 Gennaio 2017

第2回 

木と共に暮らすフィエンメ渓谷の人々

  
文・写真/吉田愛 
ドロミテ渓谷の西、フィエンメ渓谷で暮らしていると、村人が木と共存して生活していることを感じます。今回はそんな木に纏わる話を書いてみたいと思います。

●ストラディヴァリの弦楽器もこの森から
村人が口をそろえて言う「おらが谷自慢」は、あの天才弦楽器製作者ストラディヴァリが、フィエンメ渓谷の「パネヴェッジョPaneveggio」 という森の赤モミ(Abete rosso。トウヒ、スプルース)を自ら伐採し、その木で楽器を制作していたということ。彼にあやかってパネヴェッジョは今「ストラディヴァリの森」「ヴァイオリンの森」として知られています。赤モミはドロミテ全域に生えていますが、その中でもここフィエンメ渓谷のものが格別なんだそうです。

トップ写真:@村でよくみかける薪。夏の間もこうやって日に当ててしっかり乾燥させる。 
写真下左:Aパネヴェッジョの森とヴァル・ヴェネージャ。すぐそこにパーレ・ディ・サン・マルティーノが聳える。 
写真下右:Bパネヴェッジョの森には鹿の保護地区もあり、運がよければ間近で見学できる。

●村人が何百年もこの森を育てる
標高1000M前後、乾燥して澄み切った空気、ドロミテから湧き出す水、太陽光と山斜面の関係、長い冬、夏も30度を越えることが稀な気候など、これら全てが理想的な赤モミの成育に完璧にマッチしているのだとか。そして村人が何百年もの間この森を手入れし育ててきたことも忘れてはなりません。そのお陰で木が垂直にゆっくりと成長し、節目の少ない、一直線に木目が通った理想的な材質となるのです。大きなものでは樹齢300年、高さも40Mほどに成長します。

写真下左:Cパネヴェッジョの人造湖フォンテ・ブーゾ。釣り人にも人気スポット。   写真下右:Dドロミテ山塊と森と羊。

パネヴェッジョの森に限らず、この谷全域に生息している赤モミは、例えば山の形や立地条件のちょっとした違いでその価値が変わってくるそうです。例えば日照時間が長い斜面側は住環境には好適で村が形成されていますが、赤モミは成長が早くなるので木目が粗くなり評価が下がるそうです。

写真下:Eフィエンメ渓谷の山々。

●大型トラックが世界中にむけて巨木を届ける
300年前のストラディヴァリに限らず、現在でも例えば、クレモナの多くの弦楽器製作者、プレイエルやファッツィオーリ、ベッヒシュタインなどの名門ピアノ工房もこの谷の赤モミを伐採し、ヴァイオリンの表板、ピアノの響板、スピーカーの木材などに使っています。質量が軽くて木目が均一なので音の伝達に抜群に優れているのです。夫が勤めているこの谷のパイプオルガン工房アンドレア・ゼーニ社ももちろん、木管パイプや鍵盤などに使用しています。また楽器に限らず、家具や建築材としても広く使われており、そのためこの谷ではこれらの木に従事した職業が大半を占めています。また、木彫りの伝統工芸も有名です。

写真下:F冬には森の中をカントリースキーで楽しむコースが人気。  

ヴェネツィアの造船業やその島を支えている大量の杭に使われた木材はここドロミテ地方から運ばれ、「ヴェネツィアをひっくり返すと森になる」とも言われていますが、当時は川を伝って木材が運ばれました。今では大型のトラックが世界中に向けて巨木を運搬しています。

写真下左:G背の高い赤モミの木の足元には、夏にはポルチーニが生える。   
写真下右:Hオルガン工房で作られている木管のパイプ。

●間伐されたモミの木も最後まで活用
さて、クリスマスを迎える12月になると、間伐された山のモミの木を村の森林管理局が破格で譲ってくれます。2メートルで10ユーロ程度です。間伐材なので形が良くないものもありますが、資源活用にも一役買えますし、あっち見せてこっち見せてといいながら管理局のおじさんとやりあうのも私にとっては毎年のちょっとした楽しみの一つ。クリスマスが終わると、この木は暖炉にくべて燃やします。

写真下左:I森林管理局が配る間伐材のモミの木。色々な大きさがある   写真下右:J赤モミの端材を暖炉サイズに裁断する夫。

●どの家にも伝統的な暖炉が設置
暖炉といえば、この地方にはどの家にも伝統的な蓄熱式暖炉 (Stufa a Olle)が設置されています。これは密閉された炉の中で一気に木を燃やし、その余熱で表面のタイルが熱を帯びて部屋を温めるという、トレンティーノ・アルトアディジェ州の伝統的な暖炉です。軽トラックを持っている村人の多くは村の管轄内の山で薪を切り出してきます。木を勝手に切り倒すことは禁止されていますが、森林管理局が許可しているものや落ちている枝などは持ち帰ることができます。

写真下左:K我が家の蓄熱式暖炉。右横に移っている小さな扉から薪を入れて一気に燃やすと、タイルが温まる。ここに背中を当てて座るのが冬は気持ちが良い。   写真下右:L工房の木屑を圧縮した玉。火付けに便利。  

●赤モミに生かされている私たちのくらし
秋になると村のあちこちの庭先から、暖炉のサイズに木を裁断する斧やチェーンソーの音が響きます。私は軽トラックがないので、大家さんでもある木材店から赤モミの端材を買っています。赤モミは一気に燃えやすいので蓄熱式暖炉に適しています。ちなみに暖炉の火付けには、オルガン工房で出る木屑を圧縮して作られた玉を使っています。木もここまで大切に最後まで使われたら幸せですよね。

写真下:MN村でよくみかける薪。夏の間もこうやって日に当ててしっかり乾燥させる。  

毎日、工房から帰宅した夫の木の匂いのついた作業着を嗅ぎながら部屋の暖炉に火を入れるとき、私たちもこの赤モミに生かされているんだなと感じるのでした。  


著者紹介
吉田 愛  Yoshida Ai
東京都出身。武蔵野音楽大学、ドイツ・リューベック音楽大学にて、パイプオルガン、チェンバロ、教会音楽を学ぶ。7年間のドイツ生活を経て帰国し、盛岡市民文化ホール専属オルガニストとしてオルガンの普及活動に勤めた。2006年、パイプオルガン制作に携わるイタリア人夫との結婚を機にトレンティーノ州ドロミテ山塊の麓フィエンメ渓谷に移り住み、北イタリアを拠点にヨーロッパ、日本で演奏活動を行う他、毎夏日本人のためのドロミテ・オルガンアカデミーを開催している。CD「バッハとイタリア」「4手の対話」(大阪、ワオンレコード)は各音楽誌で特選盤。南チロル州エーニャ市サン・ニコロ教会オルガニスト。
ブログ http://organvita.exblog.jp
ホームページ http://www.aialexorgano4mani.com





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