ローマ旧街道のなかでも最も美しいと言われるアッピア旧街道Via Appia Antica。この街道が作られた背景には、地中海制覇を夢見たローマ人たちのもくろみがあったようだ。大きな石材ブロックを敷き詰めて、走りやすくするために真っすぐにしたり、馬車がすれ違えるように道幅を広くとったり。堅牢強固な道作り、当時は、さぞかし苦労したことだろう。
街道の入り口には、ペテロがキリストと出会って殉教を決心した場所ドミネ・クォ・ヴァディス教会 Domine Quo Vadisがあるが、その下には死者の眠るカタコンベ(墓地)が広がり、全長12キロメートルにわたる。それ以外にも他教会のカタコンベをはじめとして、チェチリアメテッラの墓 Tomba di Cecilia Metellaやマクセンティウスの競技場跡Circo di Massenzioなど古代ローマの遺跡がめじろおしのこの旧街道。でも、私のとっておき散歩道は、街道からの寄り道にある。
遺跡巡りは、他のガイドブックにおまかせするとして、私がぜひご紹介したいのは、手作りチーズと出会える草原。ローマ人たちが休日に散歩したり、ピクニックしたりする道へとご案内しよう。
サン・セバスチャン教会を左手に過ぎるとカタコンベの入り口があるが、そこを挟んで二叉路になっている。左側の旧街道を行き、またすぐ左手にあるカファレッラ通りVia della Caffarellaの小道に入れば、草原へと続く。
写真トップ:思い思いに休日を楽しむローマの人たち 左下:ローマ旧市街から車で10分足らずのところにこんな草原が。 右下:水の小道の道しるべを辿ると草原へ
この道を知ったのは、ひょんなきっかけからだった。ある日曜日の朝、友人から電話があって、最近太り気味の愛犬の散歩につきあってくれという。コリー犬との雑種、チーコは、忙しい友人が近所の散歩にしか連れて行かないものだから、筋肉質の肢体が少したるみ初めているらしい。純粋コリーと違って、チーコは毛も短いし、小股が切れ上がった実にしまった体の凛々しい犬だったと記憶する。それは残念だ、ぜひ協力しようと散歩につきあうべく、家を出たのだった。
彼女の選んだリハビリコースは、アッピアの草原だという。旧市街から車で10分の近さらしいが、さて、そんなところが街道沿いにあっただろうか。いぶかしがりつつも出かけてみると、横道にちょっとそれただけなのに、信じられないような光景が目の前に広がった。その上、嬉しいことには、手作りチーズを作る農場まであるという。
Sentiero dell'acqua(水の小道)と書かれた道しるべを辿って行くと左右に気持ちのよい草原が広がり、人々が思い思いに腰を下ろして、持参したランチを開けている。休日ということもあって、ワインボトルの姿も見える。空腹を感じた私が、立ち止まってその光景を眺めていたら、手招きされた。 「君も一杯どうだい。良かったら食べて行かないか?」
願ったり、かなったり。恥も遠慮もすっかり忘れて、お相伴に預かる。
写真左下:美味しいお昼ごはんがたくさん。うっとりと眺めていたら、お相伴させてくれた。
右下:農場の経営者、アンナさんの手で風味豊かなリコッタやペコリーノチーズが作られる。
道草を食っていたら、チーコの散歩にならないと友人に横目でにらまれたので、散歩を続けることにした。少し青い香りのする草原の空気、ワインの酔いも手伝ってうっとりした気分。うらうらとした日差しの中を数分歩くと古びた農場の前に出た。
中をのぞくと、今まさにできあがったばかりのチーズが並んでいる。正真正銘の手作りペコリーノロマーノ(ローマ風、羊のチーズ)。
「さあ、帰ってこのチーズで美味しい赤ワインを飲み直そう」 チーコの頭を撫でると困り顔の友人を促していた。

■アッピア旧街道までのアクセス
地下鉄A線のサン・ジョヴァンニS.Giovanni駅から218番のバスがアッピア旧街道まで走っています。
街道入口まで所要時間約15分。
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