ミラノの南東80キロに位置するクレモナCremonaは、バイオリンの街として知られるが、イタリアの音楽史上最も重要な街の一つだ。「クレモナCremona」というのは中世の木管楽器クルムホーンに由来するという説とケルト語の「クレムCrem」が語源とも言われている。現在歴史的建造物が集中している地域の周囲を、以前ポー川が流れていた。「クレム」とはその川を見晴らせる高くなった土地を意味する。詳細はわからないが、既に紀元前218年には古代ローマの植民都市がこの地に築かれていた。その後1098年にはコムーネComune(自治都市)になり、発展を遂げ、現在見られる記念建造物が次々と建立された。
16世紀から17世紀にかけてこの街にアントニオ・ストラディヴァリAntonio Stradivali(1644〜1737)、ガルネリ・デル・ジェスGuarneri
del Gesu(1698〜1744)、二コラ・アマティNicola Amati(1596〜1684)などのバイオリン製作の名工が現れ、クレモナはバイオリンの街として有名になった。またこの街にはイタリアバロック期の最大の作曲家クラウディオ・モンテヴェルディClaudio
Monteverdi(1567〜1643)が生まれ、クレモナ郊外のパデルノ・ポンキエッリPaderno Ponchielliには、ヴェネツィアを舞台にしたオペラの傑作「ラ・ジョコンダLa
Gioconda」を作曲したアミルカーレ・ポンキエッリAmilcare Ponchielli(1834〜1886)が生れている。
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★テアトロ・アミルカーレ・ポンキエッリ・クレモナ Teatro Amilcare Ponchielli
Cremona
現在のテアトロ・アルミカーレ・ポンキエッリの建物は、改築、増築などが繰り返されてきたが、劇場の歴史は18世紀に遡る。古い劇場は存在していたが、1747年クレモナの貴族のグループが市の建てる新しい、よい劇場を建設するための資金援助を決定した。その後色々な案が提出されたが、しかし全て消えてしまい、最終的に劇場の建設はクレモナの建築家のジョヴァンニ・バッティスタ・ツァイストiovanni
Battista Zaistoと、一部は有名な建築家のビビエナBibienaに委ねられた。古い劇場は1785年ごろオーナーの名前をとってテアトロ・ナザリNazariと呼ばれていた。その劇場は1806年の火事で焼失し、すぐに再建されたのが現在の劇場で、建築家のルイジ・カノ二カLuigi
Canonicaがスカラ座を建設した建築家のピエルマリーニPiermariniから着想を得て建設した。この劇場は当時最も優れた劇場といわれ、馬蹄形で4層のパルコとガレリアがあり、テアトロコンコルディアConcordiaと呼ばれた。1824年には再び火事に見舞われたがすぐにファウスティーノ・ローディFaustino
Rodiとルイジ・ボゲラLuigi Vogheraに寄って再建された。この時のこけら落としにはロッシーニの「湖上の美人」が上演された。1890年代には、地元出身の作曲家ポンキエッリの作品が多く上演され、1892年に現在の名前Teatro
Amilcare Ponchielliに改称された。
通常のオペラシーズンは秋から冬にかけてで、去年の公演は既に終了しているがモンテヴェルディの「ウリッセの帰還」、ヴェルディ「ラ・トラヴィアタ」マスネー「ウェルテル」、ドニゼッティ「愛の妙薬」、ジュルダーノ「アンドレア・シェニエ」など有名な作品が上演された。この劇場では数年前から春にクレモナ出身の大作曲家モンテヴェルディに因んでモンテヴェルディ音楽祭Festival
di Cremona Claudio Monteverdiが行われ、プログラムが発表になっているので紹介します。
クレモナ・モンテヴェルディ音楽祭プログラム
●2005/5/13(金)21:00 Teatro A.Ponchielli
Philippe Daverio 「Bach e Haendel, due vite parallele」 Conversazione
Musiche di Haendel e Bach
●5/14(土)21:00 Chiesa di San Marcellino
The Tallis Scholars 指揮:Peter Phillips モンテヴェルディ作曲「Messa a 4 voci」
●5/15(日)11:15 Sala San Domenico della Pinacoteca
Orfei Farnesiani 「15,16世紀のパダナ地方の楽器と歌によるコンサート」
●5/17(火)21:00 Chiesa San Marcellino
アムステルダム・バロック・オーケストラと合唱団コンサート モーツァルト作曲「ハ短調ミサ」K467 指揮:Ton Koopman
●5/18(水)21:00 Chiesa di Sant'Omobono
「Settimana Organistica Internazionale」 オルガン:Gustav Auzinger、Broberger,Muffat
e Bachなどの作品
●5/20(金)21:00 Chiesa San Sigismondo -Chiostro
「Magnificat in canto piano e per organo」 Schola Gregoriana di Cremona 指揮:Antonella
Soana オルガン:Marco Fracassi
●5/21(土)21:00 Chiesa di San Mercellino
「I Baroccchisti」 指揮:Diego Fasolis ソプラノ:Gemma Bertagnolli ヘンデルとモーツァルトの作品
●5/24(火)21:00 Chiesa di Sant'Omobono
「Settima Organistica Internazionale」 オルガン:Claudio Astronio、Ensemble
di ottoni 16,17世紀のヴェネツィアの音楽とJ.S.バッハの作品
●5/27(土)Teatro Ponchielli
Hilliard Ensemble Madrigali di Marenzio e Gesualdo San Marcellino-
Musiche di Arvo Part
●5/28(土)21:00 Chiesa di Sant'Omobono
指揮:Ton Koopman アムステルダム・バロック・ソリステンオーケストラ、バッハ作曲 「音楽の捧げもの」
●5/29(日)10:30 Sala San Domenico della Pinacoteca
Delitiae Musicae 指揮Marco Longhini モンテヴェルディ作曲「I Madrigali del Pastor
Fido」
●6/01(水)21:00 Cortile del Museo Civico Trio Stradler,corni di bassetto
Trio vocale モーツァルト作曲「I Notturni」
●6/02(木)
Crociera sul Fiume Po, ore 10:30/Ensemble di Fiati della Banda
Civica di Soncino, ore 16:00/Torricella del Pizzo
●6/03(金)21:00 Chiesa di San Marcellino
Coro Costanzo Porta Accademia Bizantina、モンテヴェルディ作曲「Vespro della
Beata Vergine」
●6/04(土)21:00 Chiesa di San Marcellino
ヴェネツィアバロックオーケストラと合唱団 指揮:Andrea Marcon バッハ作曲「ロ短調ミサ」
♪♪テアトロ・アミルカーレ・ポンキエッリ財団♪♪
Fondazione Teatro A.Ponchielli
Corso Vittorio Emanuele II,52
26100 Cremona
♪♪チケットオフィス Biglietteria (Ore: 16:00〜19:00) ♪♪
Tel:0372 022 011 0372 022 002 Fax:0372 022 099
info@teatroponchielli.it
www.teatroponchielli.it
★トラッツォ Torrazzo
1267年頃に建設された111メートルの高い鐘楼、1284年から14世紀にかけて追加建築された大理石製8角形の上部装飾を持っている。487段の階段があり、上まで登る事が出来る。上からはポー川流域の素晴らしいパノラマが楽しめる。
★ドゥオーモ Duomo
ロンバルジア地方を代表する建築の一つ、ロマネスク様式で12世紀に建設された。玄関正面の浮き彫りはアンテーラミ派の作品で、農作業による月暦を表している。柱廊式小玄関の上部にあるニッチには、マルコ・ローマノ作の彫像が3体ある。内部の中央後陣内には「キリストと聖母の生涯」が描かれている。その他にもロンバルジア、ヴェネツィア派の画家ボッカチョ・ボッカチーノ、ポルデノーネなどのフレスコ画がある。
★市庁舎 Palazzo del Comune
13世紀のイタリアでは皇帝派(ギッベリー二)と教皇派(グエルフィ)の2つの派の抗争が激しかった。この市庁舎は皇帝派の貴族のために建設された。見所は内部のバイオリン展示室Salettadei
Violiniで、この部屋にはクレモナを代表するバイオリンの名作、アントニオ・ストラディヴァリ作「クレモネーゼil Cremonese」(1715年)、二コロ・アマティ作「ハンメルレl'Hmmerle」(1658年)、グァルネリの「キリストGesu」(1734年)などの作品が展示されている。(注:本文トップの写真が市庁舎)
★アラ・ポンツォーネ市立博物館 Museo Civico (Ala Ponzone)
16世紀のアファィターティ館Palazzo Affaitai内に各種の博物館、絵画館、工芸館(テラコッタ、ガラス製品、彫刻)などがある。その中で最も重要なのは絵画館で、中世の宗教的なフレスコ画、15世紀から18世紀のクレモナ派の画家達の作品ボニファッチョ・ベンボ、ベネデット・ベンボ、ボッカチョ・ボッカチーノ、ベルナルディーノ・ガッティなどのものが見られる。他にカラヴァッジオ、ベルナルド・ストロッツィの絵画なども展示され、大きなコレクションになっている。
★ローマ広場 Piazza Roma
クレモナ市民の憩いの場であるこの広場には16世紀から18世紀頃アントニオ・ストラディヴァリ、隣に彼の弟子ベルゴジが、その隣にはグアルネーリ・デル・ジェズなどクレモナのバイオリン製作の黄金時代を飾った巨匠達が住んでいた。公園は花が咲き乱れ、園内にはストラディヴァリの墓やポンキエッリの銅像も立っている。
★ストラディヴァリ博物館
Museo Stradivariano
Via Palestro 17 Tel:0372 4461886
現在世界の一流バイオンリンニストの殆どが、今から260年以上も
前に製作されたストラディヴァリ、アマティ、グァルネリを使用している。
100人以上の編成のオーケストラに対抗して輝かしい音を出すのは、バイオリンニストのテクニックは勿論だが、いい楽器でなくてはオーケストラのボリュームに負けてしまう。19世紀最大のバイオリニストといわれたニコロ・パガニーニはグァルネリを駆使して、一世を風靡した。この3人以外のバイオリン製作者もこの時代のクレモナには沢山いたと思われるが、現在残っているのは彼らの製作したバイオリンだけである。
そのクレモナにはストラディヴァリ博物館があり、庭にはストラディヴァリの胸像があり、ストラディヴァリ自筆の設計図、模型、仕事道具、ポンキエッリの手書きの原稿などもある。
ストラディヴァリは生涯に約3000のバイオリンを製作したといわれ、現在残っているもので彼の真作と思われているのはバイオリン600、ヴィオラ12、チェロ50、ギター3である。この博物館には彼の作った楽器が数点展示されている。
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お薦めスポット
☆ポンキエッリ博物館 Museo Amilcare Ponchielli☆
via Amilcare Ponchielli 21 Paderno Ponchielli: Tel:0374367200
Biblioteca e Museo Tel:037467467 担当:Sig. Sergio Noci
http://www.rbscom.it/Castelleonese_Soresinese/paderno/museo.html
イタリア人の凄いところは、郷土出身の音楽家をとても大切にする事だ。
その為私のように音楽史跡を訪ね歩く人間にとっては地方都市でも素晴らしい博物館に遭遇する事が出来る。マスカー二の生れたリヴォルノにはマスカー二博物館、ドニゼッティの生れたベルガモ、ロッシーニの生れたペーザロなどにもそれぞれ博物館があり、その他数え上げたら限がない。
クレモナの郊外のパデルノ・ポンキエッリは19世紀に活躍した音楽家ポンキエッリの故郷で、彼の生れた家が博物館になっている。ポンキエッリの生れた土地は当時別の名前(パデルノ・ファゾラーロ)で呼ばれていたが。ポンキエッリは1834年に生まれ、9歳の時にミラノ音楽院に入学し、その後彼はこの学校で教鞭を取り、プッチーニとトスカー二を指導した。彼はオペラを数曲作曲したが、現在も上演されるのは「ラ・ジョコンダLa
Gioconda」だけである。彼は器楽曲やまたオルガニストとして宗教音楽にも身を捧げた。ポンキエッリの作風は後期ヴェルディとヴェリズモオペラの中間に位置し、両者の橋渡し的役割を果たしたが、1886年52歳という若さで、ミラノで他界した。この博物館には彼の自筆の原稿、手紙、マリア・カラスが出演した「ラ・ジョコンダ」のポスター、1876年4月8日スカラ座で「ラ・ジョコンダ」が初演された時のポスターなどが展示されている。時間があったら是非一度訪れる事をお薦めします。
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● パスティチェリア ドゥオーモ、ランフランキ&スペラーリ
クレモナは甘党の人たちが喜びそうな美味しいパスティチェリアの店やアイスクリームなどが美味しい店が沢山ある。また伝統あるカフェやイタリア中世の最も美しい広場といわれるコムーネ広場を見ながらコーヒーを飲むのも素敵な気分に浸れる。クレモナ内の数軒のお店を紹介しましょう。
☆Bar Pasticceria Duomo
Via Boccacino 6 Tel:0372 22273
創業は1883年、室内は木彫りが美しく、ドルチェや飲み物が楽しめる。奥に「可愛い女性の部屋」と呼ばれる部屋がある。
☆Pasticceria Lanfranchi
Via Solferino 30 Tel:0372 28743
1890年に創業されたパスティチェリアで、手作りの生ケーキ、チョコレート、お菓子などが自慢。内部はベルエポック調の優雅な内装で2階には素敵なサロンもある。
☆Sperlari
Via Solferino 25 Tel:0372 22346
クレモナで一番古い菓子店で、ランフランキの向かいにある。色々な種類のお菓子、チョコレートなどを販売している。クレモナらしいお菓子「ストラディヴァリウス」という名前の菓子などもある。
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ミシュランの3ツ星レストランといえば、最高の料理と最高のサービスが受けられると私は信じていた。しかし数年前フランスのミシュランの3ツ星レストランを全部食べて見てこれが如何に間違いであるかわかった。日本のマスコミはいつも賞賛するだけだし、料理専門家も真実は言わない。私はこれを小説仕立てにして本当のミシュランのレストランの姿を書いたつもりです。現在インターネットで公開しています。長いので読むのは骨が折れるかも知れませんが、時間のある方は是非お読み下さい。料理を勉強される方は特に参考になると思います。(http://www.geocities.jp/joschuajp)
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