●北部の小さなまちに誕生した近現代美術館
イタリア北東部,トレンティーノ・アルト・アディジェ州の小さなまち,ロヴェレートに,2002年冬,新しい近現代美術館が誕生した。イタリアには,ルネッサンス芸術の美術館は数限りなくあるが,近現代アート専門の美術館は少ない。ミラノからロヴェレートへ,日帰りの小旅行をすることにした。
ミュンヘン行きの列車に乗り,2時間半ほどで,ロヴェレートの駅に到着。アルプスの山々に囲まれた,自然豊かな小さなまちだ。
オーストリアと接しているトレンティーノ・アルト・アディジェ州は,オーストリアから文化的な影響を色濃く受けている。まちの向こうにはアルプスの山並みが連なり,頂上に残る白い雪と真っ青な空の対比が,目にまぶしく映る。
穏やかで風光明媚な現在の姿からは想像しにくいが,中世の昔から城塞都市となり,戦争が繰り返された場所であったと言う。第一次世界大戦でも多くの戦死者を出し,まちのあちこちが爆撃で破壊された。戦争博物館となっているヴェネト城や,丘の上にそびえ立つ第一次世界大戦の納骨堂が,その歴史を静かに物語っている。
写真キャプション
上:エントランス広場のガラスの大屋根
左下:街中の噴水の向こうにアルプスを望む
右下:エントランス広場に並ぶ彫刻
(撮影 柳沢陽子)
●時空を切り替えるエントランス広場
目指すトレント・ロヴェレート近現代美術館(MART)は,住宅群の後ろにひっそりと隠れるように佇んでいた。美術館の入口というイメージからはほど遠い路地のような通路に導かれていくと,目の前にぽっかりとエントランス広場が現れた。円形の広場の上部には,ガラスの大屋根がかかっており,そのスケールに圧倒される。
広場中央には水盤を取り囲むように,20体の彫刻が静かに並ぶ。広場に足を踏み入れた途端,それまでのまちの喧噪から切り離され,アートの世界へと導かれる。彫刻をながめる黒いドレスの女性や,水盤に足を浸して遊ぶ子供達までもが芸術作品のように見え,思わず目をこすった。エントランス広場は,時空を切り替えるスイッチの役割を果たしている。
●時の移り変わりを感じる美術館
館内には1900年代のイタリア未来派の絵画や彫刻が展示され,静かな時間が流れる中,対話をするような気持ちでゆっくりと鑑賞できた。
再びエントランス広場に戻り,ガラスの大屋根に切り取られた真っ青な空を見上げる。広場に落ちる影は時間の経過と共に形を変えていく。空や影の変化や,アートと戯れる人々の姿を眺められる広場のカフェは,私たちのお気に入りの場所のひとつとなった。
|
データ
Dati
|
■アクセス
電車で,ミラノから約2時間半,ヴェネツィアから約2時間10分。
■データ
トレント・ロヴェレート近現代美術館 Museo d’Arte Moderna e Contemporanea di Trento e Rovereto (MART)
開館時間:月休,火水木土日 10:00-18:00,金 10:00-21:00
住所:corso Bettini, 43 - 38068 Rovereto
電話:(国番号39)0464-438887
HP: http://www.mart.trento.it/
|
|
 |
| 【著者プロフィール】
柳沢伸也(やなぎさわしんや)&柳沢陽子(やなぎさわ ようこ)
ミラノを拠点に、建築設計、建築・都市研究を行う。共に一級建築士。二人三脚で、各地を飛び回っている。自身のHP「イタリア建築通信」(http://www010.upp.so-net.ne.jp/architurismo/)で、建築行脚をレポート中。
柳沢伸也:大手設計事務所勤務後、妻と共に独立を決意。趣味の剣道を通じ、イタリアでも文化交流を行っている。
柳沢陽子:地方自治体勤務後、夫と共に独立を決意。建築行脚が、いつのまにか食べ歩きの旅になっていることも。
|
|
|