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ヴェネツィア・ビエンナーレ通信
 
15 Ottobre 2015

Notizie dalla Biennale di Venezia

第22回  

第72回ヴェネツィア国際映画祭から









中山エツコ
●オーソン・ウェルズ生誕百年のオマージュも
ヴェネツィアはリド島で繰り広げられるヴェネツィア国際映画祭が9月上旬に行われた。公式オープニングの前の常例となった、とくにヴェネツィアの町の人を対象としたプレ・オープニング上映会では、オーソン・ウェルズ生誕百年のオマージュとして、1951年の『オセロ』、そして未完のまま公表されたことのない『ベニスの商人』(1969年)が上映された。  

トップの写真: @金獅子賞受賞のベネズエラのロレンツォ・ビガス監督
写真下左:A映画祭会場  写真下右:B映画祭会場屋上 オープニング前の大統領を迎えてのパーティ

『オセロ』はイタリア語の吹き替えで当時のヴェネツィア映画祭に参加予定だったが、直前のトラブルで辞退。のちにややシーンをカットした英語版がカンヌ映画祭に出品され賞を受けた。イタリア語版は一度上映されたきり忘れ去られていたが、今回フィルムが発見され、半世紀以上を経ての上映となった。『ベニスの商人』のほうは、ミュンヘン、ボローニャなどのシネマテークで発見されたフィルムの断片、アメリカの大学で発見された脚本、映画のため作曲された音楽の楽譜などをあわせ、ウェルズの構想した作品を再構築。いずれも映像のおもしろさ、ぴくりとも動かずに表現しきるウェルズの存在感に圧倒される。

写真下左:Cオーソン・ウェルズ『オセロ』    写真下右:Dオーソン・ウェルズ『ベニスの商人』 

●ラテン・アメリカの作品が主要な賞を獲得
さて、今年第72回のコンペ部門の審査委員長はメキシコ出身のアルフォンソ・キュアロン監督がつとめた。一昨年の映画祭のオープニングを飾り、その年のアカデミー賞監督賞を受賞した『ゼロ・グラビティ』の監督だ。イタリアでも人気の高いフランス人作家エマニュエル・カレールが審査員のひとりだったことも話題になった。カレールは、小説家として認められる前は映画評を書いていたり、その後も脚本を手がけるなど映画とは縁が深い作家だ。受賞結果は、おおかたの予想をすっかり覆して、ラテン・アメリカの作品が主要な賞を獲得することとなった。

●金獅子賞授賞はベネズエラのロレンツォ・ビガス監督の『From Afar』
金獅子賞をしとめたのは、長編映画はこれが初めてというベネズエラのロレンツォ・ビガス監督の『From Afar』だった。主人公はホモセクシュアルの中年男性。街中で気に入った青年を見つけてはお金をやって家に招き入れる。が、肉体的な接触は決して求めない。ある日、路上にたむろする青年のひとりを家に連れて行くが、暴力をふるわれ、財布を盗まれる。しかし、その後も青年とかかわるうちに、それなりの関係が築かれ、若者は心を開いて大胆な行動に出るが、主人公はそれを受け入れないで終わる。

写真下:E金獅子賞受賞作『From Afar』      

路上を主な生活の場とする若者と中年男性との心理的な駆け引きには惹きつけられた。人生の不測さを描いた作品ということだが、会場の反応は賛否両論で、評判の高かったアレクサンドル・ソクーロフ監督の『フランコフォニア』、アモス・ギタイ監督の『Rabin, the Last Day』などの巨匠の作品を退けての、これまた予想外の受賞となった。  

                                                  ●銀獅子賞はアルゼンチンのトラペロ監督の『エル・クラン』。
銀獅子賞はアルゼンチンのパブロ・トラペロ監督の『エル・クラン』。1980年代のアルゼンチンでほんとうにあった話を下敷きにしている。ごくふつうに見える一家が、実は身代金誘拐で財を蓄えていき、腐敗した権力に守られて繁栄する実態を描いている。

写真下:F銀獅子賞受賞の『エル・クラン』

審査員特別賞は、アニメーション作品が受賞。『アノマリサ』(チャーリー・カウフマン、デューク・ジョンソン監督)は、人形を使ったストップモーション・アニメーション。もとは戯曲として書かれたもののアニメ化で、モチベーション・マネジャーとして成功を収め、講演のために各地を飛びまわる主人公が、薄っぺらな自分の虜になっていることを次第に明らかにしていく人間ドラマ。セックスシーンのほとんどなかった今回の映画祭では、人形とはいえ、この映画がほぼ唯一だったのでは……。

●イタリアはヴァレリア・ゴリーノが二度目のヴォルピ杯女優賞
4作がコンペ部門に参加していたことで賞への期待が高かったイタリアだが、ジュゼッペ・ガウディーノ監督の『Per amore vostro(あなたたちへの愛のために)』の主演ヴァレリア・ゴリーノがヴォルピ杯女優賞を獲得した。19歳の若さで同賞を受賞し、抜群の演技力と存在感をもつゴリーノの30年後の再受賞。舞台はナポリ、夫がきたない仕事に手を染めていると知りながら、家族のため生活のために前向きに生きるアンナの物語だ。

写真下:G二度目のヴォルピ杯を手にするヴァレリア・ゴリーノ  

●日本はカレッジ・シネマ部門に唯一参加
三船敏郎を扱ったドキュメンタリー『最後の侍ミフネ』(スティーヴン・オカザキ監督)があったものの、今回、日本からの公式参加はなかった。十数年ぶりのことである。

写真下:H『最後の侍ミフネ』 

唯一参加した日本人監督は、ビエンナーレが若い才能を育成するために設けたカレッジ・シネマ部門で、制作指導と資金を得て『ブランカ』を撮った長谷井宏監督。フィリピンのスラム街でたくましく生きる少年少女たち、主人公ブランカと路上でギターを弾く目の見えない老人との心の通い合いを描いて、好評だった。

写真下左:Iカレッジ・シネマ部門で作品を披露した長谷井宏監督  写真下右:J『ブランカ』

今回の映画祭では路上に生きる子どもたちを扱う作品が目立ったことも印象的だ。金獅子賞受賞作でも、社会の縁に追いやられ路上でグループをつくって一日の多くをすごす少年・若者たちの姿が描かれていたし、前評判の高かった『Beasts of No Nation』(キャリー・ジョージ・フクナガ監督)も、内戦うずまくアフリカで、家族を失い、行き場を失った子どもたちがゲリラ部隊に組織され、人を殺すことを覚え、少年時代をはぎ取られていくさまを語っている。この映画の主人公アグを演じたアブラハム・アッタは若手俳優に与えられるマルチェッロ・マストロヤンニ賞を受賞した。
写真下:K『Beasts of No Nation』

●エベレスト遭難事故など実話にもとづく映画も多数
今回のもうひとつの特徴は、実話にもとづく映画が数多くあったこと。銀獅子賞受賞作もそうだが、オープニング作品の『エベレスト』(バルタザール・コウマウクル監督)も、1996年に起きた遭難事故を語る。猛吹雪のために、日本人登山家の難波康子さんも含めた8人もの登山家が命を落とした大事故だった。エベレスト登頂の裏にある大がかりな準備そしてビジネス、天候が荒れたときの高山の過酷さなど、ふだんではなかなか想像もできない世界最高峰の顔をかいま見ることができる。吹雪の場面は見ているだけでも体が辛くなってくる。

写真下:L『エベレスト』 

『博士と彼女のセオリー』でスティーヴン・ホーキング博士の役を演じ、アカデミー賞を受賞したエディ・レッドメイン主演の『ザ・デイニッシュ・ガール』(トム・フーパー監督)も実在したデンマークの画家で、最初の性転換手術を受けた男性のひとり、アイナー・ウェゲナーとその妻グレタの物語。自分のなかの女性に気づいていくエディ・レッドメインの演技は圧巻だった。          

写真下左:MN『ザ・デイニッシュ・ガール』主演のエディ・レッドメイン


同じくコンペ出品作の『マルグリット』(グザヴィエ・ジャノリ監督)は、あまりに音痴だったために有名になったアメリカのオペラ歌手フローレンス・フォスター・ジェンキンスの物語を、舞台をフランスに移して描いたもの。マルグリットを傷つけるのを恐れて、あるいは大金持ちの彼女を利用しようと、まわりはその突拍子もない音はずれを本人に悟らせず、マルグリットは舞台で歌う夢を抱く。不思議な爽快感のある映画。その一種の自由さ解放感が、彼女を有名にしたのだろう。

アーティスト・音楽家ローリー・アンダーソンの型にはまらない作品は、愛犬との日々、死をめぐる考察を映像と言葉の日記にしたようなもの(『ハート・オブ・ア・ドッグ』)。愛しぬいて最期を看取った犬だが、それはアンダーソンひとりのことではなく、傍らには姿は見せない夫がいた。登場しない「わたしたち」の片割れの存在が、映画終盤で次第に強く感じられるようになる。2年前に亡くなった夫のルー・リードに捧げられた映画だ。

写真下左:O『ハート・オブ・ア・ドッグ』  写真下右:Pローリー・アンダーソン   

●一気に華やかさを添えたジョニー・デップの登場
公式上映前日の夜中からレッド・カーペットの前でファンが陣取って待ち続けていたのはジョニー・デップ。額のはげ上がった凶悪犯に変身したデップ主演のコンペ外作品、『ブラック・スキャンダル』(スコット・クーパー監督)も、FBI 史上最高の懸賞金をかけられたボストンの伝説のギャング、ジェームズ・ホワイティ・バルジャーの実話がもとになっている。

写真下:Qジョニー・デップ主演の『ブラック・スキャンダル』   

非情に人は殺しても、地元のおばあさんには親切なギャング。FBIとの微妙な関係、速いテンポの展開など、見ていて引き込まれる。17年間の潜伏の末2011年に逮捕されて終身刑に。現在本人は86歳ということだ。

写真下左:Rジョニー・デップを待つファン   写真下右:Sジョニー・デップとアンバー・ハート     

やや華やかさの欠けたレッド・カーペットもジョニー・デップの登場で一気に歓声が高まった(とはいえ、やや太った姿に、ツイート上ではファンからの文句も……)。今年2月に結婚したばかりの新婚の妻アンバー・ハートも『ザ・デイニッシュ・ガール』に出演しており、夫婦そろってお互いの出演作品のレッド・カーペットに姿を現した。容姿が少々緩んだデップとは裏腹に、アンバー・ハートはまばゆいばかりにきらきら輝いていた。

著者プロフィール
中山エツコ (Etsuko Nakayama)
東京都出身。ヴェネツィア在住。日本語を教えるかたわら、文芸翻訳に携わる。訳書にピエーロ・カンポレージ著『風景の誕生-イタリアの美しき里』(筑摩書房)、トンマーゾ・ランドルフィ著『月ノ石』エルサ・モランテ著 『アルトゥーロの島』、ブルーノ・ムナーリ著『ムナーリの機械』、ティツィ アーノ・スカルパ著『スターバト・マーテル』(以上、河出書房新社)、その他。


第71回ヴェネツィア国際映画祭データ
主催:ラ・ビエンナーレ・ディ・ヴェネツィア
日程:9月2日 - 9月12日
場所:ヴェネツィア、リド島
サイト:www.labiennale.org

受賞:
金獅子賞(作品賞)=ロレンツォ・ビガス監督『From Afar』(英題)(ベネズエラ、メキシコ)
銀獅子賞(監督賞)=パブロ・トラペロ監督『エル・クラン』(アルゼンチン、スペイン)
審査員大賞=チャーリー・カウフマン、デューク・ジョンソン監督『アノマリサ』(アメリカ合衆国)
ヴォルピ杯 女優賞=ヴァレリア・ゴリーノ(『Per amore vostro』、イタリア、フランス)
ヴォルピ杯 男優賞=ファブリス・ルキーニ(英題『Courted』、フランス)

マルチェッロ・マストロヤンニ賞(新人俳優賞)=アブラハム・アッタ(『Beasts of No Nation』、アメリカ合衆国)
最優秀脚本賞=クリスチャン・バンサン(英題『Courted』、フランス)
審査員特別賞=『Frenzy』(英題)(エミン・アルバー監督、トルコ、フランス、カタール)
ヴェネツィア・クラシック賞(映画についてのドキュメンタリー)=イヴ・モンマユール監督『The 1000 Eyes of Dr. Maddin』(フランス)
ヴェネツィア・クラシック賞(最優秀修復映画)=ピエル・パオロ・パゾリーニ監督『ソドムの市』(1975年、イタリア、フランス)
栄誉金獅子賞=ベルトラン・タヴェルニエ(映画監督・脚本家、フランス)

ヴェネツィア・ビエンナーレ情報
www.labiennale.org
-第56回ビエンナーレ国際美術展が開催中(5月9日 - 11月22日) 
-第59回ビエンナーレ国際現代音楽祭が行われた(10月2日-10月11日)

写真提供  La Biennale di Venezia


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