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ヴェネツィア・ビエンナーレ通信
 
15 Giugno 2015

Notizie dalla Biennale di Venezia

第21回  

第56回 ヴェネツィア・ビエンナーレ国際美術展  









中山エツコ
●1895年の第一回から今年で120年
世界でもっとも歴史の古い国際美術展、二年に一度のヴェネツィア・ビエンナーレ展が1895年の第一回から今年で120年を迎えた。各国パヴィリオンが建ち並ぶ木々の緑豊かなジャルディーニ会場、かつての巨大な造船所跡を使ったアルセナーレ会場のほか、町のさまざまなサイトがナショナル・パヴィリオンや関連企画展会場になって、例年よりひと月早い5月から11月まで約7か月、現代美術の祭典がヴェネツィアじゅうで繰り広げられる。  

トップの写真: @中央館のイタリアのファビオ・マウリの作品
写真下左:Aジャルディーニ会場  写真下右:Bアルセナーレ会場

●テーマは「すべての世界の未来」
今回のディレクターは、ナイジェリア出身のキューレーター、オクウィ・エンヴェゾー氏、テーマは“All the World’s Futures”(すべての世界の未来)。不穏な出来事も多く、人々が未来への不安を抱いている現代にあって、アートと人間社会の進展の関係を探ろうというもの。とくに今回は、1974年のビエンナーレが前年にクーデターの発生したチリにオマージュを捧げたことを思い起こし、アートの社会性を強く意識している。

  写真下:Cジャルディーニ会場の中央館    

中央館には「アリーナ」と称するスペースが設けられ、作家、音楽家、俳優、ダンサーらのパフォーマンスでさまざまなジャンルのアートが交差する場として機能する。とりわけ、現代社会の不安は「資本」なるものの性質にかかわり、「資本」が現代の諸悲劇のもとにあるとして、マルクスの『資本論』全四巻の長大なる朗読が7か月に渡って続けられる。

●不穏な世界と紙一重な日常生活を表す中央館
中央館はイタリアのファビオ・マウリ(1926-2009)に始まり、新旧のアーティストの作品がひしめく。日本から唯一企画展に選ばれているのは石田徹也さん(1973-2005)。何気ない日常生活の一シーンがこの上なく不穏な世界と紙一重であることを思わせる。人々の不穏な日常といえば、世界各地のデモ風景を百もの小さな絵にして壁をいっぱいにした、アルゼンチン生まれのタイのアーティスト、リクリット・ティラヴァニの『デモンストレーション・ドローイング』も。人が集まるところに見られる千差万別の抗議のさまを描いている。

写真下:D日本から唯一企画展に選ばれているのは石田徹也の作品      

中央館の迷路のような会場には、人間の小さな歴史から大きな自然の歴史までがアート化されている。ランド・アートで知られるロバート・スミッソン(1938-1973)の10メートルもの “Dead Tree”は横たわり、鏡にその姿を反射させながら日々ますます死んでいく。映画監督のジョン・アコムフラーによる“Vertigo Sea”(眩暈の海)は、三つのスクリーンで大洋を語る。力強くも恐ろしい自然の力であり、奴隷船、海戦、難破などの凄惨な人間ドラマの舞台でもあった海。ありとあらゆるものを生み、運び、あるいは破壊する大洋の、目眩く物語に圧倒される。

●自然に目を向ける作家の多い各国パヴィリオン
ナショナル・パヴィリオンでも自然に目を向ける作家は多かった。「世界の未来」は自然との関係を回復することにあるということだろう。オランダ館は農業・園芸との関わりで知られるヘルマン・デ・フリースの植物や土・鉱物を使った作品。自然界の標本は優美でありながらこちらの想像力を刺激する。

写真下左:Eオランダ館    写真下右:Fフランス館

フランス館(代表作家セルスト・ブルシエ-ムジュノ)はパヴィリオンの内外に根こそぎ大地から移動したような三本の樹木を置く。木々の多いジャルディーニに惹かれて、どこからか歩いてやってきたみたいだ。どのようなテクノロジーかわからなかったが、生きた木と連動した振動が各部屋の床に伝わり、寝そべって木のかもす微かな振動を体に感じながら、天窓から太陽を浴びて屋内に居座る木を眺める。さまざまな感覚が微妙な形で木や空間とつなげられる。  

●地球規模の環境危機への強い問題意識
自然と人為が融合して生まれる世界のなかでも、息をのむのがオーストラリア館。リニューアルされたパヴィリオンのお披露目は、フィオナ・ホールによる“Wrong Way Time”。地球規模の政治・経済そして環境の現状を、狂気と悪意をはらんだ世界と見る作品群は、おぞましさのなかにも愛嬌がのぞくヴンダーカンマー(驚異の部屋)になっている。パフォーマンス、ヴィデオ、ヴィジュアル・アートの統合の先駆的なアーティストとして知られるジョーン・ジョナスによるアメリカ館の“They Come to Us Without a Word”(彼らは無言でやってくる)も、絵とヴィデオ、舞台道具のようなオブジェのつながりを通して、急速な変化のなかにあって傷を負う自然を示唆している。国別パヴィリオンの特別表彰を受けた。

写真下左:Gオーストラリア館のフィオナ・ホール  写真下右:Hツバル館  

また、アルセナーレ会場にパヴィリオンのあるツバル(代表作家は台湾のヴィンセント・J・K・ホアン 黄瑞芳)は、南太平洋の小さな島国。海抜が低いため、気候の変動による海面の上昇に歯止めがかからなければ国が消滅する危機にさらされる。水位の変化で足下も危うくなる環境を、同じ不安を抱える水都ヴェネツィアにつくり出し、この大問題への取り組みを世界に呼びかけている。

●圧倒的な赤と光の世界で包み込む日本館
塩田千春さんによる日本館は、“The Key in the Hand”(掌の鍵)。在住のドイツや日本、アメリカなどで多くの人から託された5万もの鍵を赤い糸でつなぎ止めている。その下の小舟が、鍵にこもる人の物語や記憶を乗せて海の旅に出るかのようだ。包み込むような圧倒的な赤と光の世界で、イタリアでも多くのメディアで紹介されていた。

写真下:IJ日本館

●金獅子賞はアルメニア共和国のパヴィリオンに
最後になったが、パヴィリオンとして金獅子賞を得たのは、アルメニア共和国。パヴィリオンがあるのは、サン・ラッザロ・デリ・アルメーニ島(アルメニア人のサン・ラザッロ島)といって、メヒタール会の修道院の島である。18世紀のトルコの侵略で国外へ逃亡した修道僧にヴェネツィア共和国がこの島を与えて以来、世界におけるアルメニア文化の中心地のひとつになっている。
写真下左:Kサン・ラッザロ島 後ろに見えるのはリド島    写真下右:Lアルメニア館 

今年はオスマン・トルコ帝国内で起こったアルメニア人虐殺から100年の節目でもある。アルメニアはそれ以前にも、他民族の侵入により人々が故国を捨てることを余儀なくされた歴史があり、世界中にディアスポラ(離散)したアルメニア人がいる。今回の展示は「離散アルメニア人の現代作家」によるもの。レバノン、シリア、エジプト、イスタンブール、アルゼンチン、パレスチナ、ギリシャ、アメリカ、フランス……と、作家の出生地はさまざまだ。暴力、虐殺、離散などの暗い歴史を秘めながらも、繊細な作品群が印象的だった。

著者プロフィール
中山エツコ (Etsuko Nakayama)
東京都出身。ヴェネツィア在住。日本語を教えるかたわら、文芸翻訳に携わる。訳書にピエーロ・カンポレージ著『風景の誕生-イタリアの美しき里』(筑摩書房)、トンマーゾ・ランドルフィ著『月ノ石』エルサ・モランテ著 『アルトゥーロの島』、ブルーノ・ムナーリ著『ムナーリの機械』、ティツィ アーノ・スカルパ著『スターバト・マーテル』(以上、河出書房新社)、その他。


第71回ヴェネツィア国際映画祭データ
主催:ラ・ビエンナーレ・ディ・ヴェネツィア
日程:5月9日 - 11月22日(午前10時 - 午後6時 月曜休 9月26日までアルセナーレ会場は金・土に限り午後8時まで)
場所:ヴェネツィア、ジャルディーニ会場、アルセナーレ会場
サイト:www.labiennale.org

入場料:普通券25ユーロ(2会場に1回ずつ入場できる。離れた別々の日の入場も可)、特別券30ユーロ(2日間有効のパス)
受賞:
栄誉金獅子賞=エル・アナツイ(彫刻家 ガーナ)、スザンヌ・ゲッツ(ルネッサンスソサエティ・ディレクター アメリカ合衆国)
国別パヴィリオン部門 
-最優秀パヴィリオン 金獅子賞=アルメニア館(“Armenity” 国内外のアルメニア系作家16人) 
-特別表彰=アメリカ合衆国館(“They Come to Us Without a Word” 出展作家 ジョーン・ジョナス)
“All the World’s Futures” 企画展参加アーティスト部門
-金獅子賞=エイドリアン・パイパー(“The Rules of the Game #1-3” アメリカ合衆国)
-期待される若手作家 銀獅子賞=イム・フンスン(韓国)
-特別表彰=ハルーン・ファロッキ(ドイツ)、映像制作集団アブナダラ(シリア)、マッシニッサ・セルマーニ(アルジェリア)

ヴェネツィア・ビエンナーレ情報 (www.labiennale.org
-第56回ビエンナーレ国際美術展 2015年5月9日 - 11月22日
-ダンス・ビエンナーレ 2015年6月25日 - 6月28日
-第43回ヴェネツィア国際演劇祭 2015年7月30日 - 8月9日
-第72回ヴェネツィア国際映画祭 2015年9月2日 - 9月12日
-第59回ヴェネツィア国際現代音楽祭 2015年10月2日 - 10月11日

写真クレジット
@ Photo by Alessandra Chemollo, Courtesy by la Biennale di Venezia
B Photo: Andrea Avezzu,Courtesy: la Biennale di Venezia
F Photo: Laurent Lecat
G Photo: Angus Mordant
I Photo by Sara Sagui,Courtesy: la Biennale di Venezia
ACDEHJKL 著者撮影


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