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ヴェネツィア・ビエンナーレ通信
 
15 Ottobre 2014

Notizie dalla Biennale di Venezia

第20回  
第71回ヴェネツィア国際映画祭から





中山エツコ
●中身の濃さに重点がおかれた「社会性の強い映画祭」
ヴェネツィアはリド島の夏の終わりを飾る映画の祭典、ヴェネツィア国際映画祭が幕を閉じた。開始前から、「社会性の強い映画祭」などと言われ、派手さよりも中身の濃さに重点がおかれた内容という前評判だったが、はたして人間の生の根源的なあり方を問うような作品が目立った。  

トップの写真: @男優賞・女優賞ダブル受賞したイタリア映画『ハングリー・ハーツ』  
写真下:A金獅子賞受賞のロイ・アンダーソン監督

●人の営為の愚かさを淡々と描く、金獅子賞受賞作
金獅子賞を獲得したスウェーデンのロイ・アンダーソン監督の『実在を省みる枝の上の鳩』も、アイロニーとユーモアいっぱいのシュールなシーンの連続で、人の営為の愚かさを淡々と描いている。人の死に様につきまとう笑うしかない状況のショートショートに始まり、ドラキュラの牙に怪物マスクという、売れないお笑いグッズのセールスマン二人組の道中につきあって、わたしたちも様々な人の営みをのぞいて歩く。

  写真下:B『実在を省みる枝の上の鳩』    

タイトルは、ピーター・ブリューゲルの絵画『雪中の狩人』に描かれた木の上の鳥からきている。この鳥の眼下で村の人々の営みが繰り広げられるように、わたしたちも悲喜こもごもの人の行為を見るわけだ。スウェーデン王カール12世の散々なロシア遠征軍が現代の地味な喫茶店になだれ込む、奴隷たちの断末魔の叫びで音楽をつくりだすなどの愚行のほかに、酒代の代わりにキスでOKという女主人の前に長い列をなす若者たち、靴から小石をとる女性の意外なまでのエレガンスと、人生の小さいながら美しいひとコマにも立ち会う。

ロイ・アンダーソン監督は1970年のデビュー作『スウェディッデュ・ラブ・ストーリー』で国際的な評価を得るも二作目の興行不振で長編映画から遠ざかり、短編やCMを作成してきた。25年ぶりに撮った長編『散歩する惑星』がカンヌで受賞、続く『愛おしき隣人』も数々の賞を得ており、ヴェネツィア映画祭でも注目されていた。

今回の受賞作は三部作リヴィング・トリロジーの最後の作品になる。ちなみにアンダーソン監督のデビュー作、はじめはタイトルを見てもピンとこなかったが、サイトでDVDのカバー写真を見てあっとびっくり。シニア世代のわたしは、これを『純愛日記』という邦題で見ていたのだった。当時日本でも話題になった、スウェーデンの少年少女の寡黙で美しい恋物語である。

●ロシア映画『白夜と配達人』が銀獅子賞に
銀獅子賞のロシア映画『白夜と配達人』も、ロシア北部の湖畔に生きる人々の生の営みを描き、それを住民自身が演じている。モーターボートで家々を回る郵便配達人が主人公の、美しい映画だった。審査員特別賞のジョシュア・オッペンハイマー監督『ルック・オブ・サイレンス』は、衝撃のドキュメンタリー『アクト・オブ・キリング』に続いて、1965年にインドネシアで起こった大量虐殺を扱い、兄を虐殺された若者が、同じ村に住む加害者たちに当時のことを聞いて回る。若者は、加害者が罪を認め謝罪したあと、和解したいという気持ちでこの対話に取り組んでいたが、それはかなわなかった。加害者である父と一緒に対話に臨んだ娘が、「まったく知らなかった」と言って涙を流したのが、唯一の、印象的な弔い。観る人の心を揺さぶり続けるドキュメンタリーだった。揺さぶり続けるドキュメンタリーだった。

●戦争の極限状態の人間を描く作品の迫力
今回の映画祭で印象に残ったのは、戦争の極限状態に追いつめられた人間を描いた作品の迫力である。世界で現に戦争が起こっている今、戦争とは人間の存在をこんなにも様々な形で巻きこんでしまうものなのだと、改めて実感させられた。

まず、ヴィゴ・モーテンセン主演の『Far From Men』(ダヴィド・オールホッフェン監督)。アルベール・カミュの短編(短編集『追放と王国』中の「客」)を原作としている。1954年、アルジェリアの山中でフランス語教師をしていたダリュのもとに、殺人を犯したモハメッドなる人物が預けられ、ダリュは長い道のりを超えてこの男を警察まで連れて行かざるを得なくなる。アルジェリア戦争のさなか、過酷な気候、フランスからの独立のために武器を取った男たちとの遭遇と戦いながら、二人は砂漠をひたすら進んでいく。スペイン人を親にもち、フランス植民地に生まれ育ってアラビア語も自然に話すダリュにとって、アルジェリアは「どちらの側につく」という問題もない自由の地だったが、戦争によってそれもすっかり変わってしまう。

写真下:C『Far From Men』      

ファティ・アキン監督の『カット』は、1915年、トルコのマルディンから物語が始まる。オスマン・トルコ帝国内に居住する少数民族が突如敵と見なされ、豊かに暮らしていたアルメニア人の主人公も家族から引き離されて強制労働を強いられる。アルメニア人虐殺に生き残った主人公は、娘たちも生き残っていると聞き、砂漠を超え、際どい状況を何度も生き延び、これでもかこれでもかという試練を乗り越えて、娘の跡を追ってアメリカにまで渡る。

写真下:D『カット』    

●日本兵の凄まじい生存の様を描く塚本晋也監督の『野火』
大岡昇平の小説を原作とする塚本晋也監督の『野火』も、ジャングルという、こよなく美しく、読み取りがたい世界に放り出され、見えない敵と恐るべき飢餓と戦う日本兵の凄まじい生存の様を描いている。
写真下:E塚本晋也監督の『野火』    

「敵」といえども、相手に対して悪意も敵意もなく、殺そうという気などない普通の人間が、殺人を犯さざるを得ないという不条理が戦争なのだ。戦争の生み出す極限状況を生きることの緊迫感、敵・味方の境界線の微妙さなども、これらの作品に共通して感じた。どれも見終わってどっと疲れたが、それだけ見応えがあった。

●イタリア映画『ハングリー・ハーツ』が男優賞・女優賞ダブル受賞
今回はイタリア映画も健在という印象で、受賞を期待する作品はいろいろあったのだが、『ハングリー・ハーツ』(サヴェリオ・コスタンツォ監督)の男優賞・女優賞ダブル受賞という快挙のほかは、残念ながら受賞はならなかった。

  写真下:F女優賞のアルバ・ロルヴァケル  

我が子を愛するばかりに過剰なまでに子供を保護し、狂気の域に踏み込んでしまう若い母親を熱演した女優賞のアルバ・ロルヴァケルはともあれ、オープニング作品『バードマン』(アレハンドロ・ゴンザレス・イニャリトゥ監督)のマイケル・キートン、『パゾリーニ』(アベル・フェッラーラ監督)のウィレム・デフォー、そしてイタリアのマリオ・マルトーネ監督『Il giovane favoloso』主演のエリオ・ジェルマーノと、男優賞候補と考えられる俳優は何人もいたので、こちらは意外な結果だった。

●イタリア国民的詩人レオパルディの伝記映画も
マルトーネ監督の作品は、直訳すると「すばらしい若者」、「驚くべき若者」などとなるが、イタリアの国民的詩人、ジャコモ・レオパルディ(1798-1837年)の伝記映画である。

写真下:GH『Il giovane favoloso』レオパルディ役のエリオ・ジェルマーノ 

日本でも詩と散文の代表作を訳した『カンティ』が出ているが、残念ながら一般にはまだあまりなじみがないだろう。マルケ州の小さな町レカナーティの貴族の家に生まれ、一家の豊かな蔵書を幼い頃から読みつくして視力も健康も損なったが、早熟な知性と詩作で早くから知られ、他都市の知識人と交流したレオパルディ。狭く保守的な故郷を脱出してフィレンツェそしてナポリに暮らし、39歳の若さで亡くなるまでを描いている。

詩情だけではなく、思うようにならない自身の環境や体、時代の窮屈さと戦った詩人の反骨の精神を前面に押し出して、共感を呼んだ。レオパルディの言葉が古びず、今日も生き続けていることが心から納得できる映画だった。

●『パゾリーニ』最後の日々を描く伝記映画
イタリア映画ではないが、イタリア系アメリカ人のアベル・フェラーラ監督の『パゾリーニ』も、時代に警告を発し続けた詩人・映画監督の伝記映画。1975年に惨殺死体で発見されたパゾリーニの死についてはいまだ謎の部分が多いが、映画では新たな真相を追ったりはせず、詩人の最後の日々を描いている。未完に終わった小説『石油』と、まだ計画中だった映画『ポルノ・テオ・コロッサル』を映像化しているのが興味深い。主演のウィレム・デフォーはまさにパゾリーニを彷彿させた。

写真下:I『パゾリーニ』のウィレム・デフォー  

イタリアからコンペに出品されていたもう一作、フランチェスコ・ムンツィ監督の『Anime nere』(英題 Black Souls)も評判が高かった。カラブリア州の因習的な氏族対立の根深さを語る、ずしんと重たい映画だ。

●最大のビッグスターは熟年のアル・パチーノとカトリーヌ・ドヌーヴ
硬い映画が多かったものの、むろん華やかな話題にも事欠かなかった。コンペ外の招待作品、ピーター・ボグダノヴィッチ監督の『シーズ・ファニー・ザット・ウェイ』は、新進のハリウッドスターがインタビューに答えてコールガールから女優への転身を語る、抱腹絶倒の軽快なコメディで、存分に楽しませてくれた。

写真下:J『シーズ・ファニー・ザット・ウェイ』のオーウェン・ウィルソンとイモージェン・プーツ   

そして、今年リドを訪れた最大のビッグスターは、コンペ外の『ザ・ハンブリング』とコンペ出品作『マングルホーン』二作に主演のアル・パチーノ。ボートから島に降り立つや、あたりは興奮のるつぼに。若い恋人同伴の74歳、なにもかもがカッコよすぎる。          
写真下:KLアル・パチーノ   


艶やかさでは、熟年といえどもやはりカトリーヌ・ドヌーヴの右に出るスターはなかった。実の娘キアラ・マストロヤンニとシャルロット・ゲンズブールとの共演でコンペ出品作『トロワ・クール』に出演した。近年、ジョージ・クルーニーに次いで例年映画祭に登場しているのは、俳優業のみならず、映画監督、作家と多才ぶりを発揮しているジェームズ・フランコ。今年は、ジャガールクルト・グローリー・トゥ・ザ・フィルムメーカー・アワードの受賞のために現れたが、授賞式を自作の映画の一場面として撮影するというハプニングでまわりを驚かせた。

写真下左:Mカトリーヌ・ドヌーヴ、キアラ・マストロヤンニ、シャルロット・ゲンズブール   
写真下右:N授賞式をそのまま映画の一シーンにしてしまったジェームズ・フランコ。映画祭ディレクターのアルベルト・バルベーラ氏と。   

余談になるが、ジョージ・クルーニーのほうは今年は映画祭には姿を見せなかったが、9月末に国際的な弁護士のアマル・アラムディンとヴェネツィアで挙式。ハリウッドスターたちもお祝いに駆けつけ、世界中のマスコミも殺到して、三日間にわたって町は大騒ぎになった。これからは映画祭にも妻同伴で現れることだろう。

著者プロフィール
中山エツコ (Etsuko Nakayama)
東京都出身。ヴェネツィア在住。日本語を教えるかたわら、文芸翻訳に携わる。訳書にピエーロ・カンポレージ著『風景の誕生-イタリアの美しき里』(筑摩書房)、トンマーゾ・ランドルフィ著『月ノ石』エルサ・モランテ著 『アルトゥーロの島』、ブルーノ・ムナーリ著『ムナーリの機械』、ティツィ アーノ・スカルパ著『スターバト・マーテル』(以上、河出書房新社)、その他。


第71回ヴェネツィア国際映画祭データ
主催:ラ・ビエンナーレ・ディ・ヴェネツィア
日程:2014年8月27日 ? 9月6日
場所:ヴェネツィア、リド島
サイト:www.labiennale.org

受賞:
金獅子賞(作品賞)=ロイ・アンダーソン監督『A Piegon Sat on a Branch Reflecting on Existence』(スウェーデン)
銀獅子賞(監督賞)=アンドレイ・コンチャロフスキー監督『The Postman’s White Nights』(英題)(ロシア)
審査員特別賞=ジョシュア・オッペンハイマー監督『The Look of Silence』(デンマーク)
ヴォルピ杯 男優賞=アダム・ドライバー(『Hungry Hearts』、イタリア)
ヴォルピ杯 女優賞=アルバ・ロルヴァケル(『Hungry Hearts』、イタリア)
マルチェッロ・マストロヤンニ賞(新人俳優賞)=ロメイン・ポール(『The Last Hammer Blow』、フランス)
最優秀脚本賞=ラフシャーン・バニーエッテマード、ファリド・ムスタファビ(ラフシャーン・バニーエッテマード監督『Tales』、イラン)
審査員特別賞=『Shivas』(カーン・ミュデジ監督、トルコ、ドイツ)
栄誉金獅子賞=セルフ・スクーンメーカー(編集技師、アメリカ合衆国)、フレデリック・ワイズマン(ドキュメンタリー映画監督、アメリカ合衆国)

その他のヴェネツィア・ビエンナーレ情報 (www.labiennale.org
-第14回ビエンナーレ国際建築展が開催中(2014年6月7日 - 11月23日) 
-第58回ビエンナーレ国際現代音楽祭(テーマ Limes)が行われた(2014年10月3日?10月12日)

写真クレジット:すべて © La Biennale di Venezia


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