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ヴェネツィア・ビエンナーレ通信
 
15 Giugno 2013

Notizie dalla Biennale di Venezia

第18回  
第55回ビエンナーレ美術展





中山エツコ
●企画展のテーマは「エンサイクロペディック・パレス」
世界でもっとも歴史の古い国際美術展のビエンナーレ美術展が、二年ごとに開催されて今年で第55回を迎えた。今回の総合ディレクターはイタリア人の現代美術評論家・キュレーター、マッシミリアーノ・ジオーニ氏。若い世代がなかなかトップに立てないイタリアで、40歳のジオーニ氏の抜擢は話題になった。氏の選んだ企画展のテーマは「エンサイクロペディック・パレス」。イタリア系アメリカ人のマリーノ・アウリーティが1955年に発案してアメリカで特許申請した、あらゆる人知を集めた博物館エンサイクロペディック・パレスの企画にちなんでいる。  

トップの写真: @特別表彰を受賞したロベルト・クオギの巨大なモニュメンタル作品「ベリンダ」   
写真下:A企画展のテーマ「エンサイクロペディック・パレス」 


この壮大な計画は実現しなかったが、彼が年月をかけてつくった136階建てのパレスのモデルが残っていて、アルセナーレ会場に展示されている。この架空博物館のように、現代アートと歴史的な作品、アートの分野に限らないさまざまなオブジェを通して、「世界を体験すること」を形にしようというのが今回の企画だ。

 写真下左:Bユング『赤の書』  写真下右:C大竹伸朗 「スクラップブック #65」    

ジャルディーニ会場の中央館は、ユングが自身の夢やヴィジョンを綿密に絵に描いた『赤の書』の展示で始まる。これがイタリアでは初めての手稿本公開となる。心的イメージと夢をめぐる熟考、不可視のものを表現する試み、宇宙を前にした驚き、想像力のもたらす力などが、全体を流れるテーマになっているということで、現代アート作品と一緒に神秘思想家・教育者のシュタイナーの黒板書きや、作家ロジェ・カイヨワの石の蒐集なども見られる。日本からは大竹伸朗さんのずらっと居並ぶ「スクラップブック」、写真家の吉行耕平さんの「公園」、澤田真一さんのトゲトゲに覆われた幻獣のような陶芸作品(アルセナーレ会場)が出品されている。                               

●英国のティノ・セーガルが革新的活動で最優秀アーティストに
この企画展の最優秀アーティストに与えられる金獅子賞は、イギリスのティノ・セーガルが受賞した。物質的なものをいっさいつくらず、観客の前に一種尋常ではない状況をつくりだすことで知られるアーティストで、革新的な活動が評価されての受賞となった。今回の作は、セーガルさんの与えた指示をもとに、床にすわったさまざまな年齢層の二人組のパフォーマーが、一方の出す声に反応して体を動かすというものだ。また、アルセナーレ会場のひときわ巨大なモニュメンタルな作品、イタリアのロベルト・クオギの3Dプリントによる「ベリンダ」は特別表彰を受けた。

写真下左:Dティノ・セーガルのパフォーマー   

この企画展でわたしが心を惹かれたものには、たくさんの作品でひとつの世界をつくっているものが多かった。大竹伸朗さんの、ページから色やパワーが飛び出す激しい手作り本のシリーズ、澤田真一さんの怪獣たち、そして、スイスのフィッシュリ&ヴァイス(ペーター・フィッシュリ、ダヴィッド・ヴァイス)の180もの粘土の彫刻「突然の啓示」。一見なんということもないシンプルな粘土と素朴なタイトルの組み合わせが抜群におかしい。巨大な(パスタの)ペンネ、生まれ故郷のヴァルカン星を眺めて何の感情も湧かないのが悲しいミスター・スポック、天才を受胎した直後のアインシュタイン夫妻……いくら見ていても飽きない。

写真下左:E澤田真一 「無題」   写真下右:Fアンゴラ館 Luanda, Encyclopedic City (Edson Chagas)      


●88ケ国が国別参加しアンゴラ館が金獅子賞
国別参加のほうを見ると、町なかの館などを自国パヴィリオンとして使った国々をあわせて、全体で88か国もの参加があった。パヴィリオン部門で金獅子賞を受賞したのは初参加のアンゴラ館(“Luanda Encyclopedic City”)。ドルソドゥーロ地区のチーニ館で行われている(開館は午後2時から)。

かつては壊れたからといってモノを捨てたりしなかった、アンゴラの首都ルアンダ。「それだけ貧しく、戦争に疲れていた。が、外国で10年過ごして戻ってみたら、モノが捨てられている。豊かになって壊れたものは捨てることができるようになった」とは出品作家のエドソン・チャガスさんの言葉。その捨てられた無用のものをフォトルポルタージュのように記録し、ポスター化した。それが、豪華な隠れ家のようなチーニ館のルネサンス美術コレクションと不思議な対話をつくりだしている。

●「共有」の可能性さぐる日本館が特別表彰受賞
日本館は、あの大震災後の日本はもう前と同じではあり得ないのだと改めて感じさせる、田中功起さんの「抽象的に話すこと -不確かなものの共有とコレクティブ・アクト」。特別表彰を受賞した。一緒に一台のピアノを弾く5人のピアニスト、ひとりの女性の髪のカットに取り組む9人のヘアドレッサー、一緒にひとつの詩を仕上げる5人の詩人、非常階段を昇り降りする一群の人たち…など、複数の人々が共同でひとつの課題に取り組むプロジェクトを映像と写真で見せる。

写真下左:G日本館「特別表彰」授賞式    写真下右:H日本館 「抽象的に話すこと」(田中功起)     


他者の経験、ひとつの経験の共有の可能性を探る試みだ。「懐中電灯を振りながら夜の街を歩く」、修学旅行のように所狭しと布団が敷かれた「夢を共有し、物語にする」などの「不安定なタスク」と呼ばれるコレクティブ・アクトの写真を見て、参加の人々のなかに紛れ込む自分を想像してみた。これも一種の共有になるだろうか。震災は確かに、見知らぬ人とも物理的・心的につながりをもつという、これまであまり考えなかった体験を意識させるようになった。

●外国人アーティスト起用のフランス館・ドイツ館
さて、今年は独仏友好条約の締結50年を記念して、向かい合って建つフランス館とドイツ館が建物を交換している。内覧会中は両館とも長蛇の列で、はじめはやや混乱した。列の長さ、待ち時間が尋常ではなかったフランス館(建物はドイツ館)は、アルバニア出身のビデオアーティスト、アンリ・サラの “Ravel Ravel Unravel” 。ラヴェルの「左手のためのピアノ協奏曲」を弾くふたりのピアニストの微妙なスピードの違いがつくりだす音の効果、その録音をリミックスするDJを撮った三部からなるビデオで、ラヴェル好きの人は必見。長い列がなかったら、もう一度見たかった作品だ。

    写真下左:Iフランス館 Ravel Ravel Unravel (Anri Sala)    写真下右:Jドイツ館 “Bang” (艾未未) 


ドイツ館は中国の艾未未(がい・みみ Ai Weiwei)のインスタレーション “Bang” を中心にしている。両館とも自国のアーティストにこだわらず作家を選んでいるのが印象的。“Bang” は、今でも中国のどこの家庭にも必ずあるという三脚椅子を、まるで爆発的に増殖して森になったように組み立てている。艾未未さんは、このほかにも町の二か所で関連企画展 “Disposition” を開いている(ジュデッカ島の Zuecca Project Space とカステッロ地区のサンタントニン教会 Chiesa di S. Antonin)。

●「カネ」をテーマとしたギリシャ館・ロシア館
興味深かったのは、経済問題に喘ぐギリシャと石油ガス・マネーで潤うロシアがおカネをテーマとしたこと。ギリシャ館の “History Zero” (出品作家 Stefanos Tsivopoulos)は、お金の価値を問う三部の映像作品。鉄くずやガラクタを集めて、なんとか食べる足しにしようとするアフリカ移民の青年。iPadで町を撮りつづける身なりのいいアーティスト。そして、美術品に囲まれて優雅に暮らすぼけた老婦人。その老婦人がユーロ札で折りつづける美しい花束。三人の短いストーリーが絡み合い、お金の価値、モノの価値のあいまいさが浮き彫りにされる。

写真下左:Kギリシャ館 History Zero (Stefanos Tsivopoulos, 2013)    写真下右:Lロシア館 「ダナエ」(Vadim Zakharov )


ロシア館は「ダナエ」(出品作家 Vadim Zakharov )。ギリシャ神話のダナエの物語を読み替えたもので、ダナエと交わるためにゼウスが姿を変えた黄金の雨は、金貨となってパヴィリオンの天井から降り注ぐ。世にも珍しい1ダナエ硬貨だが、冷徹な美しさの番人が厳しく管理していて館外への持ち出しはまず不可能だ。

●初参加した教皇庁のパヴィリオンも注目の的に
そのほか、特におもしろかったものを挙げると、太古と近未来の空気を共存させているようなエジプトの “Treasuries of Knowledge ”、船で海を進むような感覚を味わうアラブ首長国連邦 “Walking on Water”、鐘の音と増幅されたその振動が館内を満たしてサウンド・スカルプチャーをつくりだすポーランド館の “Everthing Was Forever, Until It Was No More”(Konrad Smolenski、毎時演奏)、ヴェネツィア伝統の織物に焦点をあてたヴェネツィア館の “Silk Map”、そしてジャルディーニ前の水辺に停泊した船をパヴィリオンとした、ポルトガルの “Trafaria Praia”。

写真下:M教皇庁パヴィリオン Creazione (Studio Azzurro) 


今年初参加の教皇庁(ヴァチカン市国)も評判が高かった(“In Principio”)。宗教ではなく「人間」を中心にした作品を選んだということだが、なかでも、スタジオ・アッズッロの観客と相互作用する映像が注目の的だった。画面のなかからこちらに近づいてくる人物の姿に手を触れると、映像がイタリア語または手話で自分のことを語りだす。等身大だから、ほんとうに向き合っているような思いにとらわれる。偶然とはいえ、このパヴィリオンの場所は、新教皇フランシスコのお国アルゼンチン館の隣りである。

●「太平洋ゴミベルト」のインストレーションも
ビエンナーレ美術展開催中のヴェネツィアは、町のありとあらゆるところでアートが展開されて、有料・無料のさまざまな催しがある。例年、もっとも優れた展覧会をすると評判のパラッツォ・フォルトゥーニ (Palazzo Fortuny) ではアントニ・タピエス展を開催中。ヴェネツィア・カ・フォスカリ大学 (Universita Ca’ Foscari) 中庭では、“The Garbage Patch State Venice” 展のインスタレーションが見られる。海洋を浮遊するプラスチックが集まってできた太平洋ゴミベルトが、この4月にゴミベルト国として独立し、ユネスコに正式に認められた。この巨大なプラスチックゴミの集積に対する意識を高めることが目的だ。

写真下左:NThe Garbage Patch State Venice (Maria Cristina Fiucci)  写真下右:OCosmico 2013 (三嶋りつ恵)  


最後に、16世紀の優雅な館パラッツォ・グリマーニ (Palazzo Grimani) では、日本人のガラス作家、三嶋りつ恵さんの個展が開かれている。流動感のある透明の器はどれも、ついさっきまで溶けて形を変えていたガラスの動きを、今まさに止めたところ、というように力強い。近年の大きな作品だけではなく、かつての小ぶりの器もたくさん並んで、まさにガラスの楽園のようだ。

著者プロフィール
中山エツコ (Etsuko Nakayama)
東京都出身。ヴェネツィア在住。日本語を教えるかたわら、文芸翻訳に携わる。訳書にピエーロ・カンポレージ著『風景の誕生-イタリアの美しき里』(筑摩書房)、トンマーゾ・ランドルフィ著『月ノ石』エルサ・モランテ著 『アルトゥーロの島』、ブルーノ・ムナーリ著『ムナーリの機械』、ティツィ アーノ・スカルパ著『スターバト・マーテル』(以上、河出書房新社)、その他。


第55回ヴェネツィア・ビエンナーレ国際美術展データ
主催:ラ・ビエンナーレ・ディ・ヴェネツィア
日程:6月1日 - 11月24日(午前10時 - 午後6時、月曜休)
場所:ヴェネツィア、ジャルディーニ会場、アルセナーレ会場
サイト:www.labiennale.org
入場料:普通券25ユーロ(2会場に1回ずつ入場できる。離れた別々の日の入場も可)、特別券30ユーロ(2日間有効のパス)
受賞:
生涯功績への金獅子賞=マリア・ラスニック(オーストリア)、マリーザ・メルツ(イタリア)
国別パヴィリオン部門 
-最優秀パヴィリオン 金獅子賞=アンゴラ館(“Luanda Encyclopedic City”  
出品作家エドソン・チャガス) 
-特別表彰=キプロス館・リトアニア館 グループ展
“Oo”(キプロス)“oO”(リトアニア)、 日本館「抽象的に話すこと -不確かなものの共有とコレクティブ・アクト」(出展作家 田中功起)
エンサイクロペディック・パレス展 
-金獅子賞=ティノ・セーガル (イギリス)
-期待される若手作家 銀獅子賞=カミーユ・アンロ(フランス)
-特別表彰=シャロン・ヘイズ(アメリカ)、ロベルト・クオーギ(イタリア)


ヴェネツィア・ビエンナーレ情報

www.labiennale.org

-第55回ビエンナーレ国際美術展 2013年6月1日 - 11月24日
-ダンス・ビエンナーレ 2013年6月28日 - 6月30日
-第42回ヴェネツィア国際演劇祭 2013年8月1日 - 8月11日
-第70回ヴェネツィア国際映画祭 2013年8月28日 - 9月7日
-第57回ヴェネツィア国際現代音楽祭 2013年10月4日 - 10月13日

  写真クレジット
@A © Francesco Galli
B  © 2009 Foundation of the Works of C.G. Jung, Zurich. First published by W.W. Norton & Co., New York 2009
C  Courtesy of the artist and Take Ninagawa, Tokyo
E  © Masumi Takada
FG  © Italo Rondinella
I  © Marc Domage
K  Courtesy: the artist, Kalfayan Galleries, Prometeogallery di Ida Pisani
M  Foto Francesca Boschetti © Studio Azzurro
O  Foto Francesco Barasciutti
DHJLN  著者撮影


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