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ヴェネツィア・ビエンナーレ通信
 
15 febbraio 2012
Notizie dalla Biennale di Venezia

第14回  
秋の現代音楽祭と国際演劇祭から






中山エツコ
今回は2011年秋に行なわれた第55回現代音楽祭と第41回国際演劇祭を紹介したい。現在では、美術、建築、映画、音楽、演劇、ダンスの7分野にわたるヴェネツィア・ビエンナーレだが、1895年に始まった2年ごとの美術展に加わった最初の部門は音楽だった(1930年)。さらに1932年には映画祭が、1934年には演劇祭が始まった。音楽祭の中で上演されてきたダンスが独立したフェスティバルとして催されるようになったのが1999年、美術展の行なわれない年に建築展が開かれるようになったのが1975年のことである。

        トップの写真: @センティエーリ・セルヴァッジ
写真下左:A1960年のコンサートのポスター   写真下右:B1976年雅楽コンサートのポスター 


●若い聴衆の溢れる国際現代音楽祭
国際現代音楽祭は、ストラヴィンスキープロコフィエフなどの作品の世界初演が行なわれたことでも知られる。ストラヴィンスキーはよくヴェネツィアを訪れ、音楽祭では自作の指揮もしている。ヴェネツィアで病死したディアギレフの近くに葬ってほしいという本人の願いで、サン・ミケーレ島の墓地にお墓があるのは周知の通り。かつては現代音楽以外の演奏も多く、トスカニーニ、カラヤン、バーンスタインら歴史的な指揮者も参加している。日本に目をむけると、1942年に「日本の歌」として、弘田龍太郎、藤井清水、中山晋平、山田耕筰、瀧廉太郎の作品をソプラノ歌手の長谷川敏子が歌ったのがいちばん古い記録。その後も松平頼則、武満徹、杉山洋一、藤倉大など、日本の作曲家の作品は演奏されている。1976年にはイタリアではじめて、宮内庁楽部による雅楽の演奏があった。

今回は、「ミュータント」というテーマのもと、文化の新しい形への発展・変化を問う趣旨とのことで、小説家で音楽についての著作もあるアレッサンドロ・バリッコと社会学者のマウロ・マガッティのトークショーもあった。わたしはコンサートをふたつ選んでいってみた。まず、作曲家のカルロ・ボッカドーロの率いる「センティエーリ・セルヴァッジ」(獣道の意)。メンバーには志村彩さんという日本人のチェロ奏者もいる。ボッカドーロは、フィリップ・グラス、マイケル・ナイマンら著名な作曲家へのインタビューを集めた一般向けの著作があるほか、衛星放送で音楽・ダンスのアーティストを招いて話を聞く番組をもっている人だ。このグループの結成も現代音楽を人々に近づけることが目的で、演奏の前に必ず演目について話すという。演奏曲の中には1920年代ジャズのヴァイオリン奏法を取り入れた自身の作品もあった。聞いた後で頭で反復できないのがつらいが、さまざまな音の展開、さまざまな音の緊張感を味わえた。

写真下左:Cイクトゥス・アンサンブル  写真下右:Dサン・ミケーレ島のストラヴィンスキーのお墓の前で

もうひとつは最終日のベルギーの「イクトゥス・アンサンブル」の演奏。エレキギターのための実験的な曲などは、どういうところが新しいのか、悲しいかな、わたしにはよくわからないが、若い聴衆は大喝采だった。実際、電子音楽への関心からか、ヴェネツィアや他の町の音楽院から学生が集まってくるのか、どのコンサートも若い人でいっぱい。この日、特に観衆を熱狂させたのは、ドイツの芸術家クルト・シュヴィッタースの1932年の音響詩、無意味な音の連続からなる ”Sonate in Urlauten”(「ウルソナタ」または「原ソナタ」)。フルート奏者でもあるマイケル・シュミットの息を呑むソロである。最後の曲は若い日本人作曲家、木山光さんの”KABUKI”。歌舞伎の華やかさと現代のサウンドが融合した力強い音楽。このどちらも、ビエンナーレのサイトでビデオを見ることができる(音楽部門のビデオ・ページ)。このコンサートのあと、聴衆は楽団を乗せたボートを追ってサン・ミケーレ島に向かい、ストラヴィンスキーにオマージュを捧げて音楽祭は終わった。

●論議呼ぶ作品で連日満員の国際演劇祭
音楽祭のすぐ後に開催された演劇祭は、昨年度からバルセロナの演劇監督アレックス・リゴラがディレクターをつとめる。過去のディレクターには、ルカ・ロンコーネ、マウリツィオ・スカパッロ、カルメロ・ベーネなど、イタリアの著名な演劇人がいる。上演される演劇数は格段に増え、ヨーロッパで活躍する演出家やイタリアの若手が呼ばれ、若い役者たちのためのワークショップも行なわれるなど、40を超える催しがあった。会場は連日満員で、観客総数は5千人を超えたそうだ。

写真下左:Eトーマス・オスターマイヤー演出(シャウビューネ劇場)『ハムレット』  
写真下右:Fヤン・ファーヴル演出(トルブレイン/ヤン・ファーヴル) “Prometeus Landscape II” 

幕開けは栄誉金獅子賞を受賞したトーマス・オスターマイヤー(ベルリン、シャウビューネ劇場芸術監督)演出の『ハムレット』。舞台を現代に移し、母ガートルードと叔父クローディアスの結婚式では、母はマイクをもって歌い、みなプラスティックの皿で食事をしている。チープな長いテーブルからなる宮廷、その全面に敷き詰められた土の上をダイナミックに動きまわる、デフォルメされた体のハムレットは、悩める王子というより狂気を演じる優柔不断の現代の若者になっている。そのほか、前評判の高かったヤン・ファーヴルの “Prometeus Landscape II” 、銀獅子賞受賞のリミニ・プロトコルの “Bodenprobe Kasachstan” 、ロメオ・カステッルッチ率いるソチエタス・ラッファエッロ・サンツィオの “Sul concetto di volto nel figlio di Dio” を見た。ベルギーのマルチなアーティスト、ヤン・ファーヴル演出の舞台は、人類に火を与えたことでゼウスの罰を受けるプロメテウスの物語だが、ファーヴル流の挑発的な演出で、火を手にしたことで進歩するどころか堕落に堕落を重ねる人間たちを描く。とても身体的なパフォーマンスが迫力だった。「ドキュメンタリー劇」で知られるリミニ・プロトコルの舞台は、カザフスタンからドイツへの石油パイプラインを追うもの。原油の採掘、輸出などの経験を経て、ドイツに移住したカザフスタンの素人の人たちが舞台に立って自分のストーリーを語る。映像とともに、重たかったり運命的だったりする現実が淡々と披露される、印象的な舞台だ。

写真下左:Gリミニ・プロトコル演出 “Bodenprobe Kasachstan”より    
写真下右:Hオロメオ・カステッルッチ演出(ソチエタス・ラッファエッロ・サンツィオ) “Sul concetto di volto nel figlio di Dio”


9月に日本公演があったばかりのカステルッチの演劇は、直訳すると『神の子における顔の概念について』。舞台には年老いた父と息子。下痢が止まらない父、息子は献身的にその体を拭き、おむつを替える。息子も父も絶望し、それが延々と続く。背後にはアントネッロ・ダ・メッシーナの巨大なキリストの顔があり、その神秘的な表情は優しくも見えるし無関心にも見える。いろいろな思いが浮かんだ。ふつう見せるものではない現実が舞台の上に載せられていること、腹をたてそうになりながらぐっと堪える息子もいつかは老いた父になること、そして途方もない無力感。見ているほうも絶望的になり、泣きたくなってくる。汚臭まで漂う日常的な悲劇を通しての神への問いかけ、あるいは祈りのような無言劇だった。この作品はその後、フランス上演のときに狂信的なカトリック信者たちの攻撃の的になり、今年1月にはミラノ公演をひかえてヴァティカンからも抗議の声があがった。実際に見もしないで「冒涜」と決めつけ、暴力的な反応まで見せている宗教的過激派の攻撃や教会の批判は、今も論議を呼んでいる。


著者プロフィール
中山エツコ (Etsuko Nakayama)
東京都出身。ヴェネツィア在住。日本語を教えるかたわら、文芸翻訳に携わる。訳書にピエーロ・カンポレージ著『風景の誕生--イタリアの美しき里』(筑摩書房)、トンマーゾ・ランドルフィ著『月ノ石』(河出書房新社)、その他。

ヴェネツィア・ビエンナーレ情報

www.labiennale.org
■第68回ヴェネツィア国際映画祭データ
主催:ラ・ビエンナーレ・ディ・ヴェネツィア
日程:8月31日 - 9月10日
場所:ヴェネツィア、リド島
サイト:www.labiennale.org
金獅子賞=アレクサンドル・ソクーロフ監督『ファウスト』(ロシア)
銀獅子賞(監督賞)=蔡尚君監督『人山人海』(中国・香港)
審査員特別賞=エマヌエーレ・クリアレーゼ監督『テッラフェルマ』(イタリア)
ヴォルピ杯 男優賞=マイケル・ファスベンダー(『シェイム』、イギリス)
ヴォルピ杯 女優賞=ディニー・イップ(『桃姉』、中国・香港)
マルチェッロ・マストロヤンニ賞(新人俳優賞)=染谷将太、二階堂ふみ(『ヒミズ』、日本)
オゼッラ賞(撮影賞)=ロビー・ライアン(『嵐が丘』、イギリス)
オゼッラ賞(脚本)=ヨルゴス・ランティモス、エフティミス・フィリッポウ(『アルプス』、ギリシャ)
オリゾンティ賞=塚本晋也監督『KOTOKO』(日本)
コントロカンポ・イタリアーノ賞=フランチェスコ・ブルーニ監督『シャラッ!』
栄誉金獅子賞=マルコ・ベッロッキオ監督

■ヴェネツィア・ビエンナーレ情報
www.labiennale.org
第54回ビエンナーレ国際美術展 2011年6月4日 - 11月27日
第55回ヴェネツィア国際現代音楽祭 2011年9月24日 - 10月1日
第41回ヴェネツィア国際演劇祭 2011年10月10日 - 10月16日


写真クレジット
@ABCEFGHI :写真提供:La Biennale di Venezia, ASAC)
Dジョージ・クルーニー監督『3月15日』  © Saeed Adyani
Jアンドレア・セグレ監督『私はリー』 © Simone Falso

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