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ヴェネツィア・ビエンナーレ通信
 
15 ottobre 2011
Notizie dalla Biennale di Venezia

第13回  
第68回ヴェネツィア国際映画祭から






中山エツコ
9月10日、ヴェネツィアのリゾート地リド島で、11日間にわたって繰り広げられた第68回ヴェネツィア国際映画祭が幕を閉じた。オープニングからハリウッドの大スターが次々に登場して華やいだが、質の高い作品がそろった非常に充実した映画祭だった。

       トップの写真: @金獅子賞を受賞したアレクサンドル・ソクーロフ監督『ファウスト』
写真下左:Aヴェネツィア映画祭 旧カジノ会場のイルミネーション   写真下右:Bマドンナ  


●ロシアのソクーロフ監督「ファウスト」が金獅子賞に輝やく
昨年は美しいイタリア人タレントの恋人を伴ってレッド・カーペットに現れたジョージ・クルーニーだが、今年はシングルに戻って女性ファンの歓声もいっそう高かった。例年のごとくたっぷり時間をかけてファンにサービス。今年は、映画祭のオープニングを飾るコンペ出品作『3月15日』(The Ides of March 古代ローマでユリウス・カエサルが暗殺されたことで有名な日)の監督としてセレモニーに出席、オハイオ州での民主党予備選挙の危うい内情を扱う社会的なストーリーで、高く評価された。

写真下左:Cジョージ・クルーニー  写真下右:Dジョージ・クルーニー監督『3月15日』

二日目にはマドンナが監督2作目の特別招待作品『W. E.』を引っさげて登場。ウォリス・シンプソン夫人と彼女のために王位を退位したイギリスのエドワード8世の物語が、寂しい結婚生活を送りながらこの「世紀の恋愛」に憧れる、現代の若い女性の物語と平行して展開する。兄エドワード公の退位のために王位に就いたジョージ6世の『英国王のスピーチ』がちょうど日本でも公開されたところ。見比べてみるのもおもしろい。

コンペティションは、続いて上映されたロマン・ポランスキー監督の『殺戮』、ユング、フロイト、そして女性の患者をめぐる実話にもとづくデヴィッド・クローネンバーグ監督の『デンジャラス・メソッド』と、早くからレベルの高い競い合いになった。演劇作品を映画化した『殺戮』は、子供同士のけんかの後始末に集まった二組の夫婦(ジョディ・フォスターとジョン・C・ライリー、ケイト・ウインスレットとクリストフ・ヴァルツ)が、マンションの一室で繰り広げる言葉の応酬だけからなる映画。四人の見事な演技にあっけにとられているうちに、階級の違い、男女の思惑の違いなどが浮かびあがり、敵味方がくるくる入れ替わる。下馬評では最後まで金獅子賞の有力候補だったが、結局受賞はならなかった。

写真下左:Eロマン・ポランスキー監督『殺戮』  写真下右:Fデヴィッド・クローネンバーグ監督『デンジャラス・メソッド』            

金獅子賞に輝いたのは、終盤になって上映されたロシアのアレクサンドル・ソクーロフ監督の『ファウスト』。ヒトラー、レーニン、昭和天皇を題材にした権力者をめぐる4部作の最後の作品になる。ファウスト博士が動きまわるドイツの町は、食べ物に餓え、汚らしくがさつで、不思議な活力に息づいている。スクリーンから埃が飛び散り、町の悪臭がこちらまで漂ってきそうだ。さまざまな欲望を抱えるファウストに付き添うメフィストフェレスも、姿からして怪しいことこの上ない不思議な存在。ついていくのが精一杯だった速いテンポの前半、ゆったりした経過のなかで最後には火を噴く大地に向かう後半と、2時間あまりの上映時間を魔法にかけられたように過ごした。審査員長のアロノフスキー監督(金獅子賞の『レスラー』、昨年のオープニング作品『ブラック・スワン』など)によると、審査員一同、満場一致の決定だったということだ。
そのほかの受賞は、銀獅子賞に香港の蔡尚君監督の『人山人海』、審査員特別賞にイタリアのエマヌエーレ・クリアレーゼ監督の『テッラフェルマ』、男優賞にイギリスのスティーヴ・マックイーン監督の『シェイム』でセックス依存症の男を演じたマイケル・ファスベンダーが、女優賞には香港の『桃姉』のディニー・イップが選ばれた。          

●今年は日本映画の当たり年に
日本から唯一コンペに参加していた『ヒミズ』は、熱演した二人の若い主人公、染谷将太さんと二階堂ふみさんが新人俳優賞を獲得した。古谷実の漫画を原作とする園子音監督のこの作品は、家庭の崩壊、震災による土地と生活の破壊のなかで、当たり前に生きることが当たり前ではなくなってしまっている中学生の物語。撮影に被災地を取り込み、荒廃した土壌と絶望の底の主人公の心情が切迫感をもって伝わってきた。

写真下左:G園子音監督『ヒミズ』    写真下右:Hオリゾンティ賞受賞の塚本監督 


また、オリゾンティ部門に出品していた塚本晋也監督の『KOTOKO』が、この部門の最高賞であるオリゾンティ賞を受賞して、日本映画にとっては当たり年となった。イタリアで絶大な人気を誇り、ヴェネツィア映画祭にも何度も参加している塚本監督の作品は、現実と幻覚の境が曖昧になる中で子育てに苦心する母親を、シンガーソングライターのCoccoさんが演じる。この作品も主人公の置かれた厳しい状況を描いているが、『ヒミズ』同様、最後にはちらりと希望がのぞかれる。

この2作のほか、日本からはコンペ外の特別招待作品として、清水崇監督のホラー・ファンタジー『ラビット・ホラー3D』が上映されたほか、オリゾンティ部門のオープニング作品、イランのアミール・ナデリ監督の『CUT』が日本を舞台とし、資金がなくて映画が撮れない監督を西島秀俊さんが主演している。これらすべての作品に共通しているのが、絶望あるいは狂気と戦う主人公を描いていること。どん底にあって、それでも明日のためにもがき続ける姿に、ふと日本の今が重なった。

●注目を集めた移民問題をテーマとしたイタリア作品
イタリアからは3作品がコンペに参加していたが、エマヌエーレ・クリアレーゼ監督作『テッラフェルマ』(本土)で久々の受賞を果たした。作品は、漁業の島からリゾート地へと変わりつつある南の島に、アフリカからの難民船が到着して混乱をきたすという、とても今日的なテーマを扱っている。クリアレーゼ監督には『新世界』という映画があるが、これはシチリアの羊飼いの一家がアメリカにたどり着くまでを描いた、かつては新世界への移民であったイタリア人の物語だった。この『テッラフェルマ』は、アメリカのアカデミー賞外国映画部門へのイタリアからの候補作にも選ばれた。

写真下:Iエマヌエーレ・クリアレーゼ監督作『テッラフェルマ』 


移民をめぐる不協和音と言えば、映画作家協会が主催する「映画作家の日」部門にも、中国からの移民の女性を主人公にした佳作があった(アンドレア・セグレ監督『私はリー』)。中国出国からイタリアでの仕事まで、すべて面倒を見て移民を斡旋する組織の指示に従って、ヴェネツィアのお隣のキオッジャにやってきたシュン・リー。子供を呼び寄せるために、漁師たちの集うバールで身を粉にして働きながら、もう若くない漁師ベーピと心を通わせる。キオッジャの海を背景にした詩情豊かな映画である。

    写真下:Jアンドレア・セグレ監督『私はリー』


3年前にイタリア映画のためのコントロカンポ部門が創立されてから、良質のイタリア映画がたくさん見られるようになったのは嬉しい。今年コントロカンポ賞を獲得したのは、脚本家のフランチェスコ・ブルーニの初監督作品『シャラッ!』(Scialla! ローマの若者言葉で「のんびりやりなよ」のような意味)。独り身で、ゴーストライターや家庭教師で生計をたてている中年の元教師(人気俳優のファブリツィオ・ベンティヴォリオ)が一人の高校生を預かることになるが、それが実は自分の息子と知って大慌て。しかもこの息子、気はいいものの勉強はさっぱりだし、何もかもちゃらんぽらん。にわか父親の奮闘を描いて愉快だが、それでいて心を打つ作品だった。

最後に、二人の有名なイタリア人についてのドキュメンタリーを紹介したい。まず、若者から中年まで、幅広い層の熱烈なファンをもつロック歌手、ヴァスコ・ロッシを追った特別招待作品『この話』(Questa storia qua、アレッサンドロ・パリス/シビル・リゲッティ監督)。80年代に”Vita spericolata” (無鉄砲な人生)などでイタリアの代表的な歌手となって以来、59歳の今まで人気を保ち続けるカリスマ的存在の素顔や、自由ラジオをつくってDJをしていた70年代などが語られる。高校時代の8ミリ映像がたくさん残っているのには驚いた。

もうひとつは、2009年に92歳で亡くなった翻訳家・作家のフェルナンダ・ピヴァーノについての『ピヴァーノ・ブルース。ナンダの道に』(テレーザ・マルケージ監督、コントロカンポ部門)。ピヴァーノは高校時代の教師だった作家のチェーザレ・パヴェーゼに与えられた原書を読んでアメリカ文学に目覚めた。ヘミングウェイ作品を訳し、ケルアック、ギンズバーグらビート・ジェネレーションをイタリアに紹介した人物である。イタリアのシンガーソングライターたちとの交流でも知られている。老いても素直に物事に熱中し、若者と多くを共有しようとするフェルナンダ・ピヴァーノの姿は、見る人に元気をわけてくれる。


著者プロフィール
中山エツコ (Etsuko Nakayama)
東京都出身。ヴェネツィア在住。日本語を教えるかたわら、文芸翻訳に携わる。訳書にピエーロ・カンポレージ著『風景の誕生--イタリアの美しき里』(筑摩書房)、トンマーゾ・ランドルフィ著『月ノ石』(河出書房新社)、その他。

ヴェネツィア・ビエンナーレ情報

www.labiennale.org
■第68回ヴェネツィア国際映画祭データ
主催:ラ・ビエンナーレ・ディ・ヴェネツィア
日程:8月31日 - 9月10日
場所:ヴェネツィア、リド島
サイト:www.labiennale.org
金獅子賞=アレクサンドル・ソクーロフ監督『ファウスト』(ロシア)
銀獅子賞(監督賞)=蔡尚君監督『人山人海』(中国・香港)
審査員特別賞=エマヌエーレ・クリアレーゼ監督『テッラフェルマ』(イタリア)
ヴォルピ杯 男優賞=マイケル・ファスベンダー(『シェイム』、イギリス)
ヴォルピ杯 女優賞=ディニー・イップ(『桃姉』、中国・香港)
マルチェッロ・マストロヤンニ賞(新人俳優賞)=染谷将太、二階堂ふみ(『ヒミズ』、日本)
オゼッラ賞(撮影賞)=ロビー・ライアン(『嵐が丘』、イギリス)
オゼッラ賞(脚本)=ヨルゴス・ランティモス、エフティミス・フィリッポウ(『アルプス』、ギリシャ)
オリゾンティ賞=塚本晋也監督『KOTOKO』(日本)
コントロカンポ・イタリアーノ賞=フランチェスコ・ブルーニ監督『シャラッ!』
栄誉金獅子賞=マルコ・ベッロッキオ監督

■ヴェネツィア・ビエンナーレ情報
www.labiennale.org
第54回ビエンナーレ国際美術展 2011年6月4日 - 11月27日
第55回ヴェネツィア国際現代音楽祭 2011年9月24日 - 10月1日
第41回ヴェネツィア国際演劇祭 2011年10月10日 - 10月16日


写真クレジット
@ABCEFGHI :写真提供:La Biennale di Venezia, ASAC)
Dジョージ・クルーニー監督『3月15日』  © Saeed Adyani
Jアンドレア・セグレ監督『私はリー』 © Simone Falso

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