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ヴェネツィア・ビエンナーレ通信
 
15 Luglio 2011
Notizie dalla Biennale di Venezia

第12回  
ビエンナーレ美術展開催中のヴェネツィアから






中山エツコ
ヴェネツィアではこの6月4日から現代アートの祭典、ヴェネツィア・ビエンナーレ国際美術展が開かれている。1895年に始まり、二年ごとに開催されて第54回を迎えた。オープニングに先立つ3日間の内覧会には、今年も世界中から関係者や報道陣らが集まって華やいだ。この期間、会場近くの公園や道にはエキセントリックなパフォーマーたちも出現した。何気なくいるけれど、よく見ると変な人たち。水玉模様に身を包んでゆったり水玉新聞を読むエレガントな水玉レディがいたり、ひとりピンポンの紳士や、パンを棒に刺した不動の人物が立っていたりと、よくわからないけれど楽しい。
    トップの写真: @イタリア館 ガエターノ・ペーシェ作「十字架のイタリア」
写真下左:A「水玉レディ」  写真下右:Bイスラエルのペレス大統領を待って厳重な警戒   


映画や刑事ドラマ並みのものものしい水上警備という一場面もあった。潜水士に水上オートバイ、機関銃を手にした警官満載のモーターボート。イスラエル館のオープニングで、超重要人物を待っているのだった。ふと気づくと、対岸から眺めている私たち野次馬の半数近くは私服警官。ついにボートで到着してあっという間に何重ものボディーガードに囲まれたその人は、イスラエルのペレス大統領だった。そういえば、前日の6月2日はイタリア共和国記念日で、統一150周年の今年は、80カ国の代表が貴賓として参列してローマで盛大な式典が行われたばかりだった。

写真下左:Cジャルディーニ会場 中央館入り口 
写真下右:Dビエンナーレ代表パオロ・バラッタ氏とヴェネツィアのジョルジョ・オルソーニ市長

●ヴェネツィアの美術に縁深い「光」と「国々」が今回のテーマ
さて、美術展に話をもどそう。女性単独のディレクターは今回がはじめてという、スイスのビーチェ・クーリガー氏が選んだテーマは、”ILLUMInazioni / ILLUMInations”。歴史的にもヴェネツィアの美術に縁深い「光」と「国々」を結びつけている。ジャルディーニ会場の中央館とアルセナーレ会場の一部で、このテーマにもとづく企画展が、一方、各国パヴィリオンでは自由なテーマで、あるいはこのタイトルに関連したテーマでの展示が行なわれている。前回の参加国は77カ国だったが、今回は最多数の89カ国が参加している。

今回は異例にも、中央館で訪れる人を迎えるのは現代アートではなく、16世紀のヴェネツィア派の光の画家、ティントレット。展示されている三点のうち、真ん中の「最後の晩餐」は、サン・ジョルジョ・マッジョーレ教会のものだが、教会ではこんなに近くから、しかも明るい光のもとで見ることはできないから、この機会にじっくり見ておこう。

写真左:Eギリシャ館

光のテーマを取りあげている展示で印象深かったのは、ギリシャ館(Diohandiによる ”Beyond Reform”)。まわりをすっかり覆われて様変わりした館内に入ると、ただただ光と水の空間があるだけ。光にすっかり全身が洗われる。あっという間の短い距離も、この光の沐浴を貴重で濃密なものにする感じがした。その白い光の世界とは異なり、黒を強調したのが、今年はじめて国として参加したサウジアラビアの ”The Black Arch” (アルセナーレ会場。Stadia and Raja Alemによる)。作家とアーティストの姉妹のコラボレーションということだが、ビー玉を大きくしたようなたくさんの金属の球体に、さまざまに変わる光や映像があてられて、いろいろな記憶を呼び覚ます。ヴェネツィアとマッカ(メッカ)がイメージのもとになっているそうだ。素直に「きれい」という言葉がでてきてしまう。

写真下左:Fサウジアラビア館   写真下右:Gドイツ館 


●多彩な映像作品が出展
このテーマに関連してか、映像作品も多かった。パヴィリオンとして金獅子賞を受賞したドイツ館も、作家として受賞したクリスチャン・マークレーの作品も映像だ。ドイツ館の代表作家は映画監督・映像作家で、演出、パフォーマンスと幅広く活躍したクリストフ・シュリンゲンズィーフ。昨年8月に49歳で急死したため、回顧展の構成となった。パヴィリオンの中央部は、祭壇に病院のベッドなどが置かれた、ちょっとぞっとするゴシック教会の作りで、映像その他で自身の闘病を語っている(”A Church of Fear vs. the Alien Within”)。建物右は映写室になっていて、残酷、狂気、ナンセンスの入り混じる強烈な映画作品7本を上映。建物左のスペースでは、シュリンゲンズィーフが進めていたアフリカにオペラハウスをつくるプロジェクトが紹介されている。ずしんと重い暗黒ムードと、明るくからりとしたエネルギーの両方をもつ人だったようだ。

アルセナーレ会場のクリスチャン・マークレーの ”The Clock” は古今東西の映画の中から、時計が時を刻む場面をつなぎ、それを実際の24時間の流れと一致させるという、考えるだけで目眩を起こしてしまいそうな、時間を映像化した作品。どうがんばっても開場している8時間分、つまり作品の3分の1しか鑑賞できないというのもすごい。ビエンナーレでは、24時間版の特別鑑賞日を何日かもうけたが、9月にもまた行なう予定。この作品は横浜トリエンナーレにも出品されるということだが、日本ではどのような形で上映されるのだろうか。

●束芋氏による日本館は独特の映像世界を展開
日本館も独特の映像の世界を展開して、イタリアのメディアでも評価されていいる。日本を代表する作家は「日本の台所」などのアニメーションで知られる束芋さん。2007年のビエンナーレに招待出展していた”dolefullhouse”も印象的だったが、今回は日本館内部がそっくり「井戸の中」に変貌、一歩足を踏み入れれば、観客も鏡の効果でどこまでも増殖していく水の世界に巻き込まれる(「束芋:てれこスープ」”TABAIMO: teleco-soup”)。じとじとに湿った中から浮上してくる細胞、キノコ、ぬばたまの髪、浮世絵を思わせる手指。すべてを生みだし、すべてを押し流す水や湿気に日本の風土を感じる。

写真下左:H日本館   写真下右:Iアメリカ館 ’Track and Field’ 


ジャルディーニ会場を歩いていると、ときどきギシギシ、ガラガラと騒音が聞こえてくる。音の出所はアメリカ館(アローラ&カルサディーアによる”Gloria”)。パヴィリオン前で戦車がひっくり返り、その上のランニングマシーンでトレーニング中のスポーツ選手が戦車の履帯を空回りさせている(’Track and Field’)。館内でも、ワシントンの国会議事堂を飾る自由の女神像が日焼けマシーンに横たわっていたり(’Armed Freedom Lying on a Sunbed’)、航空機の座席のモデル上で体操選手のパフォーマンスが行なわれたり(’Body in Flight’)、健全なる体の鍛錬と攻撃性がマッチしているようなズレているような、皮肉なおもしろさがある。攻撃性の曖昧さと言えば、韓国館(イ・ヨンベクによる”The Love is gone but the Scar will heal”)でも、花模様の迷彩服を使った’Angel Solders’や、鑑賞者の姿が映る鏡が弾丸で割られる’Broken Mirror’などに感じられた。

内覧会中、1、2時間待ちの長蛇の列ができたのはイギリス館(マイク・ネルソンによる ”I, Imposter”)。内部がすっかり作り変えられて天井の低い迷路のような住処に様変わりし、入れる人数が制限されるため。どこか懐かしい感じやアジトのような怪しさもある込み入った構造になっている。その閉所的な作りとは異なり、宙に浮いた迷路構造の中に肖像画、彫刻、ヴィデオが置かれているのがオーストリア館(マルクス・シンヴァルド展)。19世紀風の美しい肖像画は、どれも病的に隠された部分があって不気味だ。

●統一150年を記念しアート事情を網羅的に見せるイタリア館
アルセナーレ会場のイタリア館は、論議を巻き起こすのが常の美術史・美術批評家で政治家のヴイットリオ・ズガルビ氏がコミッショナーを務める(オープニングにはポルノ女優がヌードで登場!)。”Arte non e Cosa Nostra”(アートはマフィアではない)というタイトルは、「アートは専門の批評家たちが独占するべきものではない」という意味で、美術専門家ではない200名を超える知識人の推薦するアーティスト、合計260名が参加している。ダリオ・フォー、アントニオ・タブッキ、ティツィアーノ・スカルパらの作家、哲学者のジョルジョ・アガンベン、写真家のオリヴィエーロ・トスカーニ、指揮者のリッカルド・ムーティ、映画監督のベルトルッチやオルミ、ポップスのルーチョ・ダッラ等々、知っている名前はアーティストより推薦者のほうに断然多い。ノーベル物理学賞の小柴昌俊さんの名も。ともあれ、メイン入り口から館内に入ると、これだけの数のアーティストの作品がぎっしり並ぶさまに、しばし呆然と立ち尽す。バザールのようなにぎわい。その辺もやはりイタリア的なのだろうか。さらに、イタリア館の企画として各州でもそれぞれ百数十人のアーティストの展覧会を展開することになっている。統一150年にあたり、イタリアのアート事情を網羅的に見せるのがズガルビ氏の狙い。それは国内に留まらず、東京も含めて世界89か所のイタリア文化会館でも、海外のイタリア人アーティスト展を行なっている。

写真下:J、Kウクライナ出品作


●町中のスペースでも意欲的な展覧会が沢山
ヴェネツィアではこれから11月まで、町なかのスペースを利用した国別パヴィリオンはもちろん、有料・無料の展覧会が町中で150ぐらいある。最後にいくつか紹介しておこう。ヴァポレットからも見えるのは、サン・スタエ乗り場近くのウクライナの展示(Oksana Masによる “Post-vs-Proto-Renaissance”)。カラフルな絵付け卵(木製)をモザイクのように並べてファン・エイク兄弟の絵を再現。離れて見ないと何の絵だかわからない。近寄ってみると、楽しくなるほど個性さまざまな卵たちである。また、新しくオープンしたスペースもある。プラダ財団は18世紀の館カ・コルネール・デッラ・レジーナを修復して、財団のコレクションを中心とした展覧会を行っている(Ca’ Corner della Regina 10 ? 18時、10ユーロ、火曜休)。2年前にも大がかりな展覧会を行ったヤン・ファーブルの ”Pietas” 展も見ものである(Scuola Grande di Santa Maria della Misericordia 10 ? 18時、月曜休)。金箔を模したような壇上に置かれたミケランジェロのピエタ像を思わせる彫刻。近づいて見ると、聖母ならぬ「死」の腕に抱かれる死者の体には虫たちが育っていて、慈悲深く生命が循環していくかのよう(『昆虫記』のファーブルの曾孫だけあって虫は好きらしい)。

写真下左:Lアニッシュ・カプーア “Ascension”   写真下右:Mボルヘスの迷宮庭園


最後にサン・ジョルジョ島へ。端正なパッラーディオの大教会の中ではアニッシュ・カプーアのインスタレーション “Ascension” が見られる。うっすらと白い煙が、精神を上昇させるように高い天井へと上っていく。上昇よりも、さまよい迷うほうが好きという人、そしてボルヘスのファンには、隣りのチーニ財団をお勧めする。この6月、ボルヘスにちなんだ迷宮庭園がつくられたばかりである。ここは元修道院の建物にある静かな学究の場だが、中を見学することができる(ガイド付き土・日のみ、英語は午前11時、午後1、3、5時、10ユーロ)。迷宮都市ヴェネツィアの中の小さな迷宮はボルヘスの名前をかたどっている。

著者プロフィール
中山エツコ (Etsuko Nakayama)
東京都出身。ヴェネツィア在住。日本語を教えるかたわら、文芸翻訳に携わる。訳書にピエーロ・カンポレージ著『風景の誕生--イタリアの美しき里』(筑摩書房)、トンマーゾ・ランドルフィ著『月ノ石』(河出書房新社)、その他。

ヴェネツィア・ビエンナーレ情報

www.labiennale.org
■第54回ヴェネツィア・ビエンナーレ国際美術展データ
主催:ラ・ビエンナーレ・ディ・ヴェネツィア
日程:2011年6月4日 - 11月27日(午前10時 - 午後6時、月曜休)
場所:ヴェネツィア、ジャルディーニ会場、アルセナーレ会場
サイト:www.labiennale.org
入場料:20ユーロ(2会場に1回ずつ入場できる。別々の日の入場も可)
受賞:
生涯業績部門 金獅子賞=ストゥートバント、フランツ・ウェスト
最優秀パヴィリオン 金獅子賞=ドイツ館(出品作家クリストフ・シュリンゲンズィーフ) 
ILLUMInations展 最優秀作家 金獅子賞=クリスチャン・マークレー (アメリカ合衆国)”The Clock”
ILLUMInations展 期待される若手作家 銀獅子賞=ハルーン・ミルザ(イギリス)
■ヴェネツィア・ビエンナーレ情報
www.labiennale.org
第54回ビエンナーレ国際美術展 2011年6月4日 - 11月27日
第68回ヴェネツィア国際映画祭 2011年8月31日 - 9月10日
第55回ヴェネツィア国際現代音楽祭 2011年9月24日 - 10月1日
第41回ヴェネツィア国際演劇祭 2011年10月10日 - 10月16日


写真クレジット
Fサウジアラビア館   © Andrea Avezzu
Lアニッシュ・カプーア “Ascension” : © Oak Taylor Smith
Mボルヘスの迷宮庭園  写真提供 Fondazione Cin
@ABCDEGHIJK:筆者撮影

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