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ヴェネツィア・ビエンナーレ通信
 
15 ottobre 2009
Notizie dalla Biennale di Venezia

第7回
第66回ヴェネツィア国際映画祭から







中山エツコ
今年もヴェネツィア、リド島で世界で一番歴史の古い国際映画祭のヴェネツィア映画祭が行われた。再来年の新会場完成に向けて工事中のところもあり、やや不便もあったが、関係者や観客、そして未成年で上映は見られなくてもスター見たさにやってくる中学生たちなど、多くの人々でにぎわった。落ち着いたリゾートのリド島が唯一華やぎ、世界の注目を浴びる10日間だ。

今年は上映時から評判の高かったイスラエルの新人サミュエル・マオス監督の『レバノン』が金獅子賞を獲得した。監督自身の経験をもとにした作品で、1982年のイスラエル軍のレバノン侵攻を、戦車のなかの兵士たちを通して描いている。監督は「兵士は人を殺すために訓練され、戦場では自分が生き延びるために殺す。けれども、その経験は戦争から普通の生活に戻ってからも忘れられない傷として残る」と語った。「戦争には『真実』などない。ただカオスがあるだけ」とも。銀獅子賞は、日本でもヒロシマ賞の受賞などで知られるイランの女性映像作家シリン・ネシャットの初監督作品『女たち』("Women without Men")。石油国有化政策を進めるモサッデク政権がアメリカの指導するクーデターによって失脚した1953年のテヘランを舞台にした、男性支配の社会から逃れようとする四人の女性の物語だ。音楽には坂本龍一氏も参加している。印象的な映像美の作品だが、『レバノン』同様、強い社会性をもつ映画が評価される結果となった。

写真トップ:@ ジュゼッペ・トルナトーレ監督の『バアリア』  
写真左・中:A 金獅子賞受賞の『レバノン』 、右:B 銀獅子賞のシリン・ネシャット監督

●授賞を逃がしたトルナトーレ監督
四作の映画がコンペに出品され、入賞が期待されていたイタリアは、ジュゼッペ・カポトンディ監督の『対の時間』("La doppia ora")に出演したロシア出身の女優クセニア・ラパポルトが女優賞を得たのと、1968年の学生運動を描いたミケーレ・プラチド監督の『大きな夢』("Il grande sogno")のジャスミン・トリンカが新人賞に選ばれたのにとどまった。昨年同様、作品としての評価はなかったが演技者の力量に救われた形だ。
特にオープニングに上映された『ニュー・シネマ・パラダイス』で知られるジュゼッペ・トルナトーレ監督の『バアリア』は期待が大きかっただけに肩すかしの格好。なにしろ、予算は公称2500万ユーロ(3500万という噂も)。今はすっかり変わってしまった、監督の出身地であるシチリア島のバアリア(パレルモ近郊の町バゲリアの方言での呼び方)の1930年代の様子を再現するために、トルコの田舎にそっくり町のセットをつくったという、大がかりな作品だ。三代にわたる一家の物語をバアリアの、またシチリアの物語として見せる民衆のドラマで、シチリア出身の役者をそろえて方言で演じさせ、イタリア語字幕をつけるなど、大いにシチリア性にこだわっている。細部の見所は多いが、全体として大きなインパクトにつながらないのが受賞にいたらなかった理由だろうか。いずれにせよ、この作品はイタリアからのアカデミー賞候補に決まった。
コンペの結果はともあれ、今年はコントロカンポ・イタリアーノというイタリア映画部門が新設され、イタリア映画に力が入れられている。イタリア映画の新しい傾向を探るという部門で、8作品の中から33歳のスザンナ・ニッキャレッリ監督の『宇宙飛行士』が受賞した。共産主義を信奉しスプートニク号に熱中する15歳の少女を通して、1960年代の雰囲気を軽妙に描きだしたコメディで、批評家の間でも観客の間でも人気が高かった。

写真左:C 塚本晋也監督の『TETSUO THE BULLET MAN』、右:D りんたろう監督の『よなよなペンギン』

●生誕100年の黒澤明監督へのオマージュ
日本からは、コンペに塚本晋也監督の『TETSUO THE BULLET MAN』が、招待部門にりんたろう監督の『よなよなペンギン』が参加。塚本監督は、コンペは初めてとはいえ、ヴェネツィア映画祭にはお馴染みの監督。また、出世作『鉄男』がかつてローマ国際ファンタスティック映画祭でグラプリに輝いたこともあって、イタリアでの人気は根強い。今回の作品は賞向きではなかったかもしれないが、独特のリズムをもつ塚本作品をファンは十二分に堪能していた。アニメの世界のビッグネームであるりんたろう監督も、上映後は熱心な若者の群れに囲まれていた。
またヴェネツィア映画祭では、来年度が生誕百年にあたる黒澤明へのオマージュとして、どこよりも先駆けて黒澤明シンポジウムを開いた。黒澤監督とヴェネツィアの縁は深い。1951年に黒澤監督の『羅生門』が金獅子賞に選ばれ、日本映画が世界の舞台で注目されるようになったのだから。この名作は町の一般の観客にも大きな印象を残したと見えて、ヴェネツィアの年配の人と映画の話になって、「日本映画は素晴らしい。『ラッショモン』(…とこちらの人は発音する)がある」と言われたことが一度となくある。今回のシンポジウムでは黒澤監督と交友のあった批評家のピーター・コウィー氏、ドナルド・リチー氏らが思い出のエピソードを披露し、いかに黒澤監督が西洋の音楽や文学への造詣が深かったかなどが語られた。日本からは長年一緒に仕事をした野上照代氏が参加した。会場から「黒澤監督の日本の若い監督への影響は」という質問がでると、それまで奥の席でひっそりシンポジウムを聞いていた塚本晋也監督にマイクが向けられ、「高校生のときに見た『七人の侍』の観客のどよめきに感銘して映画監督になろうと思った」と語った。

写真左:E 公式上映に現れたヴェネズエラのチャヴェス大統領、右:F エリック・ガンディーニ監督の『ヴィデオクラシー』

●ドキュメンタリー作品への高い評価
最後に今年の映画祭で目立ったことはといえば、話題性の高いドキュメンタリー作品の参加だろう。公式受賞はなかったものの、コンペ出品のアメリカのマイケル・ムーア監督の『キャピタリズム』は前評判通り、大好評だった。また、招待作品のオリヴァー・ストーン監督の『South of the Border』は、ヴェネズエラのウーゴ・チャヴェス大統領を中心に、ブラジルのルーラ大統領、ボリヴィアのモラレス大統領、アルゼンチンのクリスティーナ・キルチネル大統領ら、ラテン・アメリカの指導者たちを取材したもの。公式上映のために50人もの護衛を連れてリド島に上陸した「主役」のチャヴェス大統領、出演者としてレッドカーペットに登場し、サインや写真の求めに応じて愛嬌をふりまいた。
しかし、この二巨匠以上にイタリア国内で話題を呼んだのが、批評週間部門に出品されたエリック・ガンディーニ監督の『ヴィデオクラシー』だ。ガンディーニ監督はイタリアのベルガモ出身だが、80年代にスウェーデンに移住。外からだとイタリアのことがいっそうよく見えるとつくったこのドキュメンタリーは、イタリアで随一の民営テレビ局(ベルルスコーニ首相の会社)の発展をその誕生から追いながら、テレビやイメージに過剰な重きをおく現在のイタリア社会を描いている。ひたすらテレビに出ることを夢見る若者、女性の露出度の高い番組、バラエティショーの司会者の横で体をくねらせるだけのアシスタント役に憧れる少女たちなど、シュールとしか言えない場面の数々……が、すべてリアルな映像なのだ。改めてテレビの影響力について考えさせられた。

映画祭の開催中はイタリアのみならず世界からのマスメディアが集まるリド島。映画に関係なくても、話題の人がモーターボートでホテル・エクスチェルシオルのボート着き場に到着すれば、それだけでフラッシュを浴びる。奇しくも、首相とのスキャンダラスな話題でマスコミをにぎわした二人の女性も最終日近くになってリド入りした。「目立つが勝ち」というような空気を感じるイタリアだが、ここは映画人のみならず、目立ちたい人にも格好の舞台なのだ。


著者プロフィール
中山エツコ (Etsuko Nakayama)
東京都出身。ヴェネツィア在住。日本語を教えるかたわら、文芸翻訳に携わる。訳書にピエーロ・カンポレージ著『風景の誕生--イタリアの美しき里』(筑摩書房)、トンマーゾ・ランドルフィ著『月ノ石』(河出書房新社)、その他。
ヴェネツィア・ビエンナーレ情報

www.labiennale.org
■66回ヴェネツィア国際映画祭データ
主催:ラ・ビエンナーレ・ディ・ヴェネツィア
日程:9月2日〜9月12日
場所:ヴェネツィア、リド島
サイト:www.labiennale.org
受賞:
金獅子賞=サミュエル・マオス監督『レバノン』(イスラエル・フランス・ドイツ合作)
銀獅子賞(監督賞)=シリン・ネシャット監督『女たち』(ドイツ・オーストリア・フランス合作)
審査員特別賞=ファティ・アキン『ソウル・キッチン』(ドイツ)
男優賞=コリン・ファース(『ア・シングル・マン』、アメリカ)
女優賞=クセニア・ラパポルト(『対の時間』)、イタリア)
マルチェロ・マストロヤンニ賞(新人俳優賞)=ジャスミン・トリンカ(『大きな夢』、イタリア)
オゼッラ賞(美術)=シルヴィー・オリヴェ(『ミスター・ノーボディー』、フランス)
オゼッラ賞(脚本)=トッド・ソロンズ(『戦時下の生活』、アメリカ)
コントロカンポ・イタリアーノ賞=スザンナ・ニッキャレッリ監督『宇宙飛行士』
栄誉金獅子賞=アニメーション作家・プロデューサーのジョン・ラセター、及びラセターの率いるディズニー・ピクサー・スタジオの監督たち(アメリカ)

■第53回ビエンナーレ国際美術展が開催中 2009年6月7日〜11月22日 

本号掲載写真はすべて La Biennale di Venezia 提供

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