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ヴェネツィア・ビエンナーレ通信
 
15 settembre 2008
Notizie dalla Biennale di Venezia

第1回
今年のヴェネツィア映画祭から







中山エツコ
約十日間にわたって開催されたヴェネツィア映画祭が終わり、世界中から訪れる映画関係者でにぎわっていたリド島に静けさが戻ってきた。授賞式のある最終日のもう翌日には、メイン会場の飾りつけやまわりの設備を取りのぞく作業が驚くほどのスピードで進められ、すべてがあっけなくかたづけられていく。映画祭が終幕すると、じきにリゾートのシーズンも終わり、夏のあいだは華やぎのあったこの細長い島も、おっとりとした住宅地の姿をとり戻す。

ヴェネツィア国際映画祭は、1895年に始まったヴェネツィア・ビエンナーレ国際美術展の映画部門として発足したもの。二年に一度開かれる(ビエンナーレ)この美術展の第18回にあたる1932年のことで、国際映画祭としては世界で最も歴史が古い。映画祭は1935年から毎年行われるようになり、今年で第65回を迎えた。大マーケットをもち、商業性の高いカンヌ映画祭に較べ、高い芸術性を求めるのがヴェネツィアの特徴とされているけれども、世界中に映画祭がいくつも出現し、映画祭の役割も変化した今、もっとマーケット的な側面を充実させることも要求されている。メイン会場である「パラッツォ・デル・チネマ」の新しい建設もひかえて、ヴェネツィア映画祭も新たな展開の時期にきているようだ。

写真トップ:公式上映に向かいつつ、ふりむいてファンに手をふってくれた宮崎駿監督

●ダントツの人気と評価の宮崎駿
そんな第65回映画祭、日本から三作品がコンペティションに参加するという快挙に、日本での関心も増したことと思う。残念ながら入賞は逃したけれども、これだけの日本映画がそろうなど、はじめてのことだったし、『崖の上のポニョ』がみなの心を動かし(会場ではため息やら笑いやら息をのむ気配やら、観客の感情移入のさまが手にとるようにわかった)、中盤までダントツの人気と評価を得ていたことは、日本人として、宮崎駿監督のファンとして、とても嬉しかった。本国イタリアも、カンヌ映画祭での成功に力を得て、四作がコンペ部門に選ばれていたことで大きな期待を寄せていたけれども、作品としての受賞はなく、演技派俳優として定評のあるシルヴィオ・オルランドが男優賞を獲得するにとどまった。映画祭後半に秀作が集中し、最後の最後になってアロノフスキー監督の『ザ・レスラー』が、ミッキー・ロークの胸を砕くような圧倒的な演技でみなの心を揺さぶったのだった。


●きらきらとした老人パワー
今年の映画祭の全体を通して印象的だったのは、きらきらした老人パワーに触れられたこと。まず、開幕のセレモニーではポルトガルの大巨匠、12月に百歳を迎えるマノエル・ド・オリヴェイラ監督が登場して開幕宣言をしたのだが、百歳のお祝いに、「新鮮な映画をこれからも撮りつづけてください」と、フィルムを贈られた。このセレモニーのすぐあとに上映されたオリヴェイラ監督の短編は、携帯電話に依存してまっとうなコミュニケーションができなくなっている現代人を軽妙に皮肉った、若々しい作品だった。

『ブランカレオーネ軍』(1965年)、『アミーチ・ミエイ』(1982年)など、「国民的」ともいえる人気イタリアン・コメディを数多く手がけたマリオ・モニチェッリ監督は、今年で93歳。イタリア人監督の最長老だが、今は忘れられた幻の名作を集めた回顧特集、「イタリア映画再発見(1946-1975年)」で1969年の『あっ、おばあちゃんが死んだ!』が上映されたほか、今年2008年制作のローマについての短編映画をもってコンペ外の部門に参加、バリバリの現役として健在のようすを見せた。

●オルミ監督に栄誉金獅子賞
映画界での優れたキャリアに敬意を評して贈られる栄誉金獅子賞は、今年は日本でも人気の高いエルマンノ・オルミ監督(77歳)が受賞、授賞式では 1950年代から人気を保つイタリアのポップスター、アドリアーノ・チェレンターノ(70歳)から金の獅子が手渡された。

老人パワーは超高齢監督ばかりではない。若く美しいナタリー・ポートマンがはじめて監督し、短編部門で招待上映された『イヴ』も、ボーイフレンドとのデートにわくわくする「おばあちゃん」を描いたものだった。そして、『フェッラゴスト(聖母被昇天祭)の昼食会』出演の四人ものおばあさまたちが到着すると、にぎやかな存在感にリド島は騒然と(?)した。プロの女優ではない、普通のイタリアのおばあさんたちだ。我の強い母親に辛抱強くつき合うジャンニが、都会がもぬけの殻になる真夏の8月15日、聖母被昇天祭の祝日に、ひょんなことから知人のお母さんたちを抱え込んでしまう話だ。家族からどこか「重荷」扱いされている年老いた母親たち。それぞれにクセがあり、とんでもないところも、かわいらしいところもある四人の老人パワーにふりまわされていくジャンニの、あきらめの表情がとても優しい。これは、毎年映画祭内でイタリア批評家組合が行う「批評週間」部門の参加作品だが、映画祭のすべての部門を通じて最もすぐれたデビュー作に与えられる「デビュー作賞」を受賞した。いわゆる「未来の獅子」。監督兼主演のジャンニ・ディ・グレゴーリは、監督作品ははじめてだが、主に脚本を書いてきた人で、カンヌ映画祭でグランプリを受賞した『ゴモラ』の脚本家でもある。当年59歳、「初老の新人」とはご本人の言葉だ。

左:12月に百歳を迎えるポルトガルの巨匠、 マノエル・ド・オリヴェイラ監督
右: 新人賞を受賞したジャンニ・ディ・グレゴーリオ監督の
Pranzo di Ferragosto(8月15日、聖母被聖天の祝日の昼食会)

著者プロフィール
中山エツコ (Etsuko Nakayama)
東京都出身。ヴェネツィア在住。日本語を教えるかたわら、文芸翻訳に携わる。訳書にピエーロ・カンポレージ著『風景の誕生--イタリアの美しき里』(筑摩書房)、トンマーゾ・ランドルフィ著『月ノ石』(河出書房新社)、その他。
第65回ヴェネツィア国際映画祭データ

主催:ラ・ビエンナーレ・ディ・ヴェネツィア
日程:8月27日-9月6日
場所:ヴェネツィア、リド島
サイト:www.labiennale.org
受賞:
金獅子賞=ダーレン・アロノフスキー監督『ザ・レスラー』(アメリカ)
銀獅子賞(監督賞)=アレクセイ・ゲルマン・ジュニア監督『ペーパー・ソルジャー』(ロシア)
審査員特別賞=ハイル・ゲリマ『テザ』(エチオピア)
男優賞==シルビオ・オルランド(『ジョヴァンナの父』、イタリア)
女優賞=ドミニク・ブラン(『ロートル(他者)』、フランス)
マルチェロ・マストロヤンニ賞(新人俳優賞)=ジェニファー・ローレンス(『バーニング・プレーン』、アメリカ)
新人監督賞=ジャンニ・ディ・グレゴリオ監督『フェッラゴスト(聖母被昇天祭)の昼食会』(イタリア)
栄誉金獅子賞=エルマンノ・オルミ監督

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