初夏と呼ぶにはまだ早い4月のとある日曜日。穏やかな陽気に誘われて郊外へと出かけたくなる季節の到来である。全国各地でサグラと呼ばれる村祭りが盛んに行われるようになると、長かった冬もようやく終わりシーズン到来。一年で最も美しい季節がいよいよはじまる。
ここ数年、イタリアでは小規模かつテーマをしぼりこんだイベント列車の企画が盛んに行われている。サグラの時期にあわせて、地元ローカル線が企画するもの。廃線をSLで旅するもの。郷土料理を食べ歩く食い倒れ列車、などなど。これまでこうしたイベント列車に参加する機会が何度かあったが、現在最も活発に活動しているのがフェッロヴィエ・トゥリスティケ・イタリアーネ(http://www.ferrovieturistiche.it/)という、NPO組織である。
これはロンバルディア州のバッソ・セビーノ鉄道、トスカーナ州のヴァルドルチャ鉄道、同じくコッレ・ヴァルデルサ&ポッジボンシ鉄道という小さなローカル線が協力し合い、地元の美しい自然を列車で再発見することをその目的としている団体で、現役路線、廃線、復活途中など各路線の事情はさまざまだが、なにより熱心なボランティアによって運営されていることが最大の特徴である。
2005年の4月末、そのヴァルドルチャ鉄道が運営する「トレーノ・ナトゥーラ」に乗る機会があった。これはOBや鉄道ファンが中心となって復活させたヴァルドルチャ鉄道が企画し、自然世界遺産ヴァルドルチャ渓谷をSlで旅する特別イベントである。
出発は早朝のフィレンツェ・サンタ・マリア・ノヴェッラ駅。2番線のホームにはすでに家族連れや鉄道ファンが集い、出発を待ちこがれている。この日の編成は1900年代初頭の客車、食堂車などの4両編成。
途中幾つかの駅で停車し地方からの乗客を乗せた後、シエナ駅に到着。ここからいよいよヴァルドルチャ鉄道の路線を走り、SL機関車を接続してトスカーナの緑の中へと旅立つ。
一路南下を始めたトレーノ・ナトゥーラはモンテ・アンティーコでスイッチバックした後ワインで有名なモンタルチーノの南斜面をぐるりと周り、ヴァルドルチャ渓谷にさしかかる頃、本日の目的地サン・ジョヴァンニ・ダッソに着く。ここからさらに専用プルマンに乗り換え、丘の上にある小村キウズーラへと総勢百名で大移動。実はこの日キウズーラでは「カルチョーフィのサグラ」が行われていたのである。
地味な村の広場には村の人々による手作りの出店が幾つも並ぶ、まさに村祭り状態。フレッシュなリコッタや名物のペコリーノを売るチーズ屋台、地元産のプロシュートやサラミをパニーノにしてくれる屋台、さらにサグラといえば欠かせない豚の丸焼き、ポルケッタを売る店にはトレーノ・ナトゥーラ組数十人のイタリア人が殺到してまさに飛ぶようにポルケッタの小皿が売れてゆく。
地元産の赤ワインのプラカップ片手に、ポルケッタをつまみ、揚げたて熱々のカルチョーフィのフリットをつまむ。キウズーラのカルチョーフォは4月がほぼシーズンの最後。来冬までしばしの別れを惜しむかのように丁寧に揚げたカルチョーフィに塩をぱらり。シンプルな素材をごくシンプルに食べる。見上げれば頭上はどこまでも続く青い空。ため息つきつつ再び赤ワインを口に運ぶ。
帰りは再びサン・ジョヴァンニ・ダッソからクレタ・セネーゼと呼ばれる独特の雄大な風景の中を走り、今日のゴール、シエナを目指す。夕闇訪れる頃、この日の最大の主役だったSL機関士たちに盛大な拍手。小さな出会いが大きな思い出を生む、ワンデイトリップ。懐かしい仲間たちに再会できるのも、もうすぐである。
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モンテ・アンティーコでの機関車付け替えは最大の見どころ。

ヴァルドルチャ鉄道OB機関士たちも昔の制服でボランティア参加。

ヴァルドルチャ渓谷にさしかかる頃、車窓からの眺めはため息の連続。

村のレストランでの食事、村祭りなど毎回趣向を凝らした食事も楽しみ。
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