ヴェネツィアのあるヴェネト州といったような、どちらかというとヴェネツィア以外はおまけのような印象もあるが、実は豊かな小都市が点在する富裕な州である。ヴェネツィアから一気にミラノやフィレンツェに行ってしまうのでなく、鉄道で一都市一泊ずつのんびり旅をするというのもまた楽しいものだ。
ヴェネツィア・サンタ・ルチア駅からスタートしてまずはパドヴァへ向かう。ユーロスター(ES)あるいはインテルシティ(IC)で30分、鈍行でも40分という近さである。ヴェネツィア−パドヴァ間は西ヘ向かうミラノ方面行きと南下するボローニャ方面行きが重複する区間でもあるため、本数は多い。例えば午前10時台で6本もある。日本でいえば通勤列車のようなものだ。パドヴァの中心地は圧倒的な存在感を見せるラジョーネ宮とその前にあるエルベ広場。大学の街としても歴史あるパドヴァには今も多くの学生が集まっているが、彼らの待ち合わせ場所がこの広場だ。そして回りの路地にはそんな学生相手のアングラな雰囲気のバールや食堂も多く、壁に学生演劇のポスターなどがべたべたと貼ってあるところなど、ちょっと東京の早稲田に似ている。大学の街はパドヴァにしてもボローニャにしても同じでどこか反体制的な空気が漂う。とはいっても別に危険なことはない。若さがもたらす熱気とデカダンがこの街を制しているような印象があるのだ。パドヴァでは他にサンタントニオ聖堂が有名だが、ヨーロッパでも有数の規模を誇る楕円形のプラード・デッラ・ヴァッレ広場もなかなかユニークである。運河と78体の彫刻、そこにローラーブレードの若者が通り過ぎる光景が不思議と脳裏に焼き付いている。
パドヴァから次に向かうは建築家アンドレア・パッラーディオによるところ大きいヴィチェンツァ。これまたESやICなら15分ちょっと、各駅停車で30分弱の短い旅で到着する。この街はイタリアでも最も生活水準の高い街として知られ、通りには洒落たセレクトショップやインテリア小物の店が連なり、裏道に入るとワインバーもちらほら。イタリアでは珍しいオリーブオイル専門店もある。街の要はなんといっても新古典主義の建築家パッラーディオの手になるバジリカ。古典的な要素で構成していると言われるが、不思議と斬新な印象で圧倒される。このほかにも街にはいろんなパラッツォが妍を競うように立ち並んでいる。ヴィチェンツァとその周辺に点在するパッラーディオの建築はユネスコ世界遺産だが、郊外のパッラーディオ作品を見に行けずともこの街をそぞろ歩くだけで充分に楽しいだろう。
ヴィチェンツァを発って次はヴェローナ方面へ向かう。ESで30分、ICでも35分、各駅停車で45分。1世紀に遡るアレーナで行われる夏の野外オペラとロミオとジュリエットの舞台となったことで知られる街だが、実を言うとツーリスティックに過ぎる嫌いもある。悲しいのはジュリエットの家の荒廃ぶり。落書きやガムや名刺などでびっしりと被われた壁を見ただけで落ち込みそうになるので、心ある人にはおすすめしない。それよりも街の北東カステロ・サン・ピエトロの高台からアディジェ川が取り巻くように流れるヴェローナの街を眺めるほうがいい。それからヴェローナはレストランの水準が意外と高い。ミシュランの二つ星レストランもあるように本来食文化が豊かな街なのだ。
ヴェローナまで来てまだ余裕がある人はさらに30分あまり列車に乗ってガルダ湖まで足を伸ばしてもいいだろう。イタリア最大の湖、ゲーテがオーストリアとの国境を超えて初めてイタリア的陽光を感じたガルダ湖は、北イタリアにも関わらず温暖な気候で古くから避寒地として外国人に人気があった。山があって光があって穏やかな気候、まさにドイツ人好みのガルダ湖周辺には驚く程ドイツナンバーの車を見かける。彼らの行くところ必ずリーズナブルな料金の宿があるから湖畔に一泊するのもまた一興。ヴェネト内の列車の旅はひとまずこの湖が最終地点である。
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