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南イタリア モザイクの旅
15 Giugno 2013

第5回
  パレルモの王宮礼拝堂と提督教会


持丸 史恵


●多くの文化の入り交じってつくられた町、パレルモ
強烈な太陽の下、煤けた黄色っぽい壁の旧市街を歩くと、ところどころに突然現れる教会の広場にはヤシの木。ああ、ここはシチリアだったのだと意識させられる瞬間です。 三角形をしたシチリア島の北岸にあるパレルモは、古くはフェニキア人の町として生まれ、ローマの支配を経て、西ローマ帝国崩壊後は、東ローマ帝国の支配下へ。9世紀にアラブ人に征服され、10世紀にはシチリア全土を支配したイスラム王朝の首都として繁栄します。 

写真トップ:@ノルマン宮、パラティーナ礼拝堂の「原罪」「楽園追放」のモザイク  
写真上:Aノルマン宮外観 

ところが、11世紀にはノルマン人がパレルモ、ついでシチリア全土を征服。今度はノルマン・シチリア王国の首都となります。その後、神聖ローマ帝国(ドイツ)のホーエンシュタウフェン家、13世紀にはフランスのシャルル・ダンジュー、さらにスペインのアラゴン家へと支配が次々と移っていきます。 18世紀には一時オーストリア、再びスペイン、そしてナポレオンのフランスを経て、1860年に(ようやく)、統一イタリア王国に併合されるに至ります。

●今も存在を主張する「ノルマン時代」
したがってこのパレルモの町は、イタリアの中でも類い稀なほど多くの文化の入り交じって作られてきたのですが、決して多く残されているとはいえないそれらの遺産の中で、奇跡のように今もしっかりと存在を主張しているのが、ノルマン時代です。

 写真上:Bパラティーナ礼拝堂、後ろ正面(玉座と天井のムカルナス)   


1.ノルマン宮

旧市街の中心地から、ヴィットリオ・エマヌエーレ通りという一本道を上がったところにある「ノルマン宮Palazzo dei Normanni」 (写真A)、見学には、城門を出た外側、インディペンデンツァ広場側の入口から入ります。ここは現在も、シチリア州議会堂として使われているため、建物内は写真撮影禁止なので要注意。階段を上がって2階の、回廊に沿って左側に「パラティーナ礼拝堂(宮廷付属礼拝堂)Capella Palatina」があります。(写真B)

●パラティーナ礼拝堂(宮廷付属礼拝堂)
入ったとたんに、そのきらびやかな堂内に思わずくらくらしてしまうかもしれません。礼拝堂とはいっても、ちょっとした教会くらいの大きさ、ところがさすが宮廷付属とあって、小さな町の小さな教会ではとても考えられない、徹底的な豪華な装飾で覆われています。床と壁の下半分は、色大理石の象嵌による幾何学模様。中央廊の天井はムカルナスと呼ばれ、イスラム建築でよく使われていたもので、蜂の巣のような、複雑な形に彫り込まれた木材は、よくよく目をこらしてみると、その表面全てにさまざまな絵や模様が描き込まれています。

写真下左:C主祭壇の奥、半円蓋にある「祝福を与えるキリスト」   写真下右:D「キリスト生誕」
写真上左:Eクーポラ 天使に囲まれるキリスト   写真上右:F「キリストの生涯」

そして、壁の上半分と、主祭壇、クーポラを埋めつくしているのが色ガラスのモザイク。(写真B) 主祭壇の奥、半円蓋には「祝福を与えるキリスト」。手前のアーチには、左側に大天使、右に聖母マリアがいて、「受胎告知」の場面です。(写真C)上を見上げると、クーポラの中央のキリストは、天使たちに囲まれています。(写真E)
すぐ近くに寄れないので見づらいのですが、ちょうど「受胎告知」のアーチをはさんで右奥には、「キリスト生誕」(写真D)。そこから右側の壁に続くようにして、キリストの生涯が描かれています。(写真F)

●「旧約聖書」の「創世記」の描かれているモザイク
主祭壇から一歩離れ、中央廊に戻りましょう。側廊と中央廊とを隔てるアーチの上の壁には、旧約聖書の「創世記」が描かれています。祭壇に向かって右側の壁、一番左端が、神が地球を作った第1日目。地と水を分けるところ、太陽と月と星を作るところ、鳥と魚たち、動物たちを創造していきます。(写真G)

写真上:G中央廊右壁、「創世紀」より

私がとくに気に入っているのは、ビビビビーとアダムを誕生させたあと、神が座って休んでいるシーンです。第7日、安息の日。(写真H)これだけの仕事をした神様も、さぞお疲れになったことでしょう、井戸のふちのようにも見える豪華な椅子に座って、やれやれといった表情に見えるのは気のせいでしょうか?
その段の最後は、うたた寝をするアダムの脇腹から、イヴが生まれてくるシーン。(写真I)

写真上左:H第7日。「安息の日」  写真上右:I「イヴの創世」ほか

同じ場面を描いたモザイクを、以前「北イタリアの旅」のヴェネツィアのサン・マルコ大聖堂で紹介しましたが、絵のスタイルがずいぶん違うことにもぜひご注目ください。ヴェネツィアのアダムとイヴは、丸顔でごろっとした体つき。ビザンツ風のモザイク美術を継承しつつも、すでに北イタリアのロマネスク文化が融合していたためです。ところがこちらのパレルモでは、アダムもイヴも、神も天使もみな、長身でやせ形、一様に厳しく固い表情をしています。これは、ギリシャなど東ローマ帝国内から呼ばれた職人達が、伝統そのままに描いていったためもありますが、ノルマン人がまさに、ビザンツ(東ローマ)帝国の伝統そのもののスタイルを望んだためと思われます。

●「楽園追放」や「バベルの塔」のモザイク
大きな、玉座のキリストの絵をはさんで、そのまま左壁にうつると、アダムとイヴが蛇にそそのかされて禁断の木の実を食べてしまう場面、楽園追放、そしてカインとアベルの人類最初の兄弟殺し・・・と続いていきます。(写真@)
もう一度右側の壁に戻って、今度は2段目を見ていきましょう。ノアの方舟(写真J)やバベルの塔(写真K)とおなじみの場面が続きます。

写真上左:J「ノアの方舟」  写真上右:K「バベルの塔」

一番外側、側廊の壁は、聖ピエトロと聖パウロの物語が描かれています。 礼拝堂を作らせたのは、ノルマン王ルッジェーロ2世。1140年に完成しています。

●当時のものが宝物のように残されている「ルッジェーロの間」
このノルマン宮でもう1つ見逃してはならないのは、その上の階にある「ルッジェーロの間Sala di Ruggero」です。ここは州議会が現在も使用している部屋なども含め、ガイドにしたがっての見学になります。案内される部屋はいずれもノルマンよりずっと後の時代のものですが、1つだけ当時のものが宝物のように残されています。

   写真上左:Lルッジェーロ2世の間、狩猟の場面  写真上右:Mルッジェーロ2世の間、天井

ルッジェーロ2世が私室の一部として作らせたもので、礼拝堂と同じ金地のモザイクながら、ここでは宗教的な要素は一切排除され、3方の壁には狩猟の場面(写真L)、天井は獅子やグリフォン(獅子の体と鷲の翼を持つ想像上の動物)が、装飾的なつる模様の中に王国のシンボルとして描かれています。(写真M)

2.海軍提督教会サンタ・マリア・デッラミラーリオ教会
旧市街に戻ったらぜひ、「サンタ・マリア・デッラミラーリオ教会Chiesa di Santa Maria dell’Ammiraglio」も訪ねてみてください。(写真N)

      写真上:Nアンミラーリオ教会、外観

礼拝堂の直後、1143年に海軍提督(アンミラーリオ)が建てさせたもの。残念ながらこちらはその後の度重なる改装工事のため、当時の姿そのままではありません。(写真O)

     写真上左:Oアンミラーリオ教会、内部  写真上右:Pキリストに戴冠されるルッジェーロ2世

主祭壇の手前のアーチ型内側(写真Q)の、「キリスト生誕」と対になっているのは「聖母の御眠り」。安らかな眠りについた聖母マリアを見守るキリストが抱いているのは、聖母の魂。キリスト正教では非常に重要とされる場面で、ビザンツ美術の中ではよく見られます。

 写真上:Qアーチ型内側の「イエス生誕」と「聖母の御眠り」

もう1つ特筆すべきは、入口の柱の、2枚のパネルでしょう。1つは、キリストから冠を受けるルッジェーロ2世(写真P)。もう1つがこの教会の寄進者である海軍提督ジョルジョ・ディ・アンティオキアが聖母マリアの前にひざまずく姿で、こちらはひざまずきすぎて、まるで亀のようになっています。これもまた、ビザンツでよくみられる表現です。

ほぼ同じ時期に、王室でなく、海軍提督がこれだけのモザイク装飾の教会を建てさせたのですから、いかに当時のパレルモ、ノルマン王国の力が強大であったかをしのばせる、貴重な歴史遺産といえるでしょう。


著者プロフィール持丸 史恵(Mochimaru Fumie)
ヴェネツイア在住。横浜市出身。通訳、コーディネート業など。
2000年秋より1年ペルージャで過ごしたあとヴェネツィアへ。日本では縁もゆかりもなかった美術史を楽しくも苦しみつつ学び、ヴェネツィア大学を卒業。在学中より、美術史の中でもとくに古代から中世にかけてのモザイク美術にハマる。イタリアを中心に、各地に点在するまだ見ぬモザイクをいつか制覇したいと夢見ている。
日々の様子は、ブログをどうぞ: 「ヴェネツィア ときどき イタリア」http://fumiemve.exblog.jp


南イタリア モザイクの旅 データ
Dati
■ノルマン王宮(パラティーナ王宮付属礼拝堂、および王宮)
Palazzo dei Normanni (Cappella Palatina, Palazzo Reale)


Palermo
シチリア州 パレルモ県 パレルモ市
所在地
Palazzo dei Normanni
Pilazza dell’Indipendenza, Palermo

開館時間
月-土 8.15-17.40(入場は17.00まで)
ただし、火-木は、州議会業務のため、ルッジェーロの間など王宮部分に入ることはできません。 日 8.15-13.00(入場は12.15まで)
ただし、日曜および祝日は宗教行事のため、礼拝堂は9.45-11.15の間入れません。

入場料 8.50ユーロ(火-木は、7ユーロ)

交通アクセス ローマなどより飛行機、パレルモ旧市街内
http://www.federicosecondo.org/it/complesso-monumentale.html

■海軍提督教会(サンタ・マリア・デッラミラーリオ教会)
Chiesa di Santa Maria dell’Ammiraglio (Chiesa della Martorana)

Palermo
シチリア州 パレルモ県 パレルモ市
所在地
Piazza Bellini, 3 Palermo

開館時間
月-土 9.15-13.00, 15.30-17.30
日・祝 8.45-10.00, 12.00-13.00
宗教行事等のための変更あり

入場無料

交通アクセス
同上



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