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北イタリア モザイクの旅
15 Luglio 2012
第8回
  ヴェネツィア
サン・マルコ大聖堂 その3

持丸 史恵 


●聖マルコの詳しい物語を表すモザイク
ヴェネツィア共和国の守護聖人、聖マルコ。その彼に捧げられた聖マルコ大聖堂において、聖マルコは、守護聖人として、また、新約聖書を書いた4人の福音書家の1人として、聖堂内外のモザイクの中に、そして彫刻にと、繰り返し登場しています。全部でいったい何回出場しているか、ちょっとしたクイズになりそうです。(私も実は数えたことはありません。)                              


写真トップ:@サン・マルコ大聖堂 洗礼堂にあるサロメのモザイク
写真左:Aサン・マルコ大聖堂内部  右の図:Bサン・マルコ大聖堂平面図(パドヴァ在住の建築家、板倉満代氏作成)    

この連載の第一回で、聖マルコ大聖堂のファサードには、聖マルコの遺体がエジプトのアレッサンドリアから運ばれ、ヴェネツィアで奉られるまでの様子が、モザイクで描かれていることをご紹介しました。同じエピソードを含む、聖マルコのさらに詳しい物語が、この本堂の中で繰り返されています。

まず、サン・ピエトロ礼拝堂(図P1)。ちなみにここは、通常の見学順路からはちょっと見えづらい位置にあります。次にご紹介するサン・クレメンテ礼拝堂(図P2)が、パラ・ドーロ(黄金の衝立)を見学するためのチケット売り場兼入口になっていますので、チケット代を払って中に入り、パラ・ドーロだけでなく、ぜひとも上を見上げて、このモザイクもじっくりご覧になってください。12世紀前半、この大聖堂の中でも、最も古いモザイクの1つです。

最初の場面は、マルコが、聖ペトロ(ピエトロ)から司教としての任務を受けるところ。そして、ハンセン病患者の治癒、などに続き、マルコはアレッサンドリアに到着します。そこで布教活動を続け多くの改宗者に洗礼を施します。
大きく帆のはった船が描かれているのは、マルコがアレッサンドリアに向かう場面です。
http://www.basilicasanmarco.it/ita/basilica_mos/patrimonio_marco.bsm?cat=1&subcat=2#

●死後、エジプトからヴェネツィアへ運ばれる聖マルコ
「パラ・ドーロ」見学の順路とは逆流する形になりますが、入口の方に戻って、サン・クレメンテ礼拝堂を見上げてみましょう。
同じく12世紀前半のモザイク、こちらは聖マルコの死後の物語です。アレッサンドリアで一旦、棺に納められた聖人ですが、ヴェネツィアの商人、トリブーノとルスティコの2人によって、(こっそり)運び出されます。もはやアラブ人の町となっていたアレッサンドリアから無事に運びだすために、「豚肉とキャベツで覆って隠した」というだけのことはあり、その遺体は、大きな籠のようなものに入れられて、2人の男性によって運ばれています。そして彼らの目をごまかし、船の上に運び出されるその物体は、まるで巨大なロール・キャベツ。アラブ人たちに、「早く出て行け」とばかりに追い出されています。

アレッサンドリアからヴェネツィアに向かう途中、船は嵐に遭遇しますが、乗っていた聖マルコの力添えで、奇跡的にその危機から免れます。ヴェネツィアでは、ドージェ(総督)や聖職者、一般市民まで、大歓迎でその一行を迎えました。
http://www.basilicasanmarco.it/ita/basilica_mos/patrimonio_marco.bsm?cat=1&subcat=2#


写真上:CDサン・マルコ大聖堂の聖マルコ遺体再発見を描くモザイク   

●聖マルコの遺体再発見を描くモザイク
聖マルコの奇跡は、これにとどまりません。これだけ恭しく、ありがたく受け入れたはずの遺体なのに、その聖人に捧げる立派な聖堂を建てている間に、どこへ安置されていたのか、行方不明になってしまいます。またもやドージェから一般市民まで、総出で遺体の再発見を祈る中、ある柱の中から、聖人自らの手がにょっきりと現れ、「ここだよ!」・・・と。

嘘か真か、そこは信仰。そんなおちゃめなエピソードは、本堂の南翼廊、サン・クレメンテ礼拝堂にちょうど背を向けた側の壁に描かれています。(図Q)(写真CD)
前回紹介した本堂の縦のライン、新約聖書の聖人や天使ばかりのマジメなモザイクと異なり、ここでは13世紀当時の市民たちが大勢描かれているので、女性や子供たちのその華やかな服装も見どころです。

http://www.basilicasanmarco.it/ita/basilica_mos/patrimonio_marco2.bsm?cat=1&subcat=2#


 写真上EF:サン・マルコ大聖堂の聖母マリア伝、受胎告知のモザイク


●聖母マリア伝と受胎告知
見学順路に従うと一番最後、照明が暗いせいもあって、忘れられがちですが大切なモザイクがもう1つあります。
北翼廊の西側のヴォールトの聖母マリア伝。(図R)たくさんの候補者の中から、一段と老いたヨセフがマリアの夫として選ばれる場面から、受胎告知、そして洗礼者ヨハネの母となるエリザベトとの出会い、ヨセフとの再会。ヨセフの夢に従って彼らは、ベツレヘムへ向かいます。

ここの受胎告知でマリアは、ルネサンス以降に流行するように書物を持つ姿ではなく、井戸で水を汲む姿で描かれています。聖なる受胎を告げる大天使も、なんだかまるでキューピッドのよう。(写真EF)
http://www.basilicasanmarco.it/ita/basilica_mos/patrimonio_maria.bsm?cat=1&subcat=2#

対称の位置にある、南翼廊下に、その続きがあるのですが、こちらは16世紀に直されてしまったモザイクなので、ここでは紹介を割愛します。

●洗礼堂にある冷徹の美女サロメのモザイク
あと、ふだんは閉まっていることが多い洗礼堂ですが、開いていたらぜひ、覗いてみていただきたいのが洗礼堂(図S)。本来は、あくまでも信者のみの立ち入りなので、くれぐれも静かに、邪魔にならないように。
洗礼堂だけあって、クーポラを飾るのは、いろいろな聖人が、ほかの聖人や世界中のいろいろな人々を洗礼する場面。

ですが、この洗礼堂の中でとくに知られているのは、「サロメ」。教会本堂へ向かう扉の上のルネッタです。ヘロデ王の前で踊ったダンスが気に入られ、「何でも好きなものを褒美に取らす」と言われて、それならば、と牢獄につながれていた、洗礼者ヨハネの首を所望した冷徹の美女は、体にぴったりとしたドレスを纏っていますが、まさにこれと同じ金糸で水玉模様を入れた深紅のビロードが、13世紀実際に存在していたことがわかっています。白灰のリスの毛皮をアクセントに使ったスタイルといい、当時の流行の最先端でした。(写真@)

●世界最大、唯一無比のモザイクを誇るサン・マルコ大聖堂
全部で8000平方メートルにもわたるサン・マルコ大聖堂のモザイクは、ビザンチン様式からスタートし、ロマネスク、ゴシックそしてルネサンスと時代に合わせそのスタイルも変化しながらおよそ8世紀に渡り、現在の形に作り上げられました。
石やガラスの小片を並べて絵や模様を作り上げる、手間も時間も、コストも莫大にかかるモザイクという手法は、やがて時代の流れに合わなくなりなりました。壁の漆喰にそのまま絵を描くフレスコ画、キャンバスに絵の具で描きそれを壁や天井にはめ込む油彩が、教会建築の装飾でも主流を占めるようになったのです。
ヴェネツィア共和国の隆盛とともにあったこのサン・マルコ大聖堂が、世界最大、唯一無二のモザイクを保有しているのは決して偶然ではありません。
そのサン・マルコ大聖堂に至るモザイクの歴史を、北イタリアを中心にご紹介してきたこの連載も、今回、これで幕を閉じることにします。


著者プロフィール
持丸 史恵(Mochimaru Fumie)

ヴェネツイア在住。横浜市出身。通訳、コーディネート業など。
2000年秋より1年ペルージャで過ごしたあとヴェネツィアへ。日本では縁もゆかりもなかった美術史を楽しくも苦しみつつ学び、ヴェネツィア大学を卒業。在学中より、美術史の中でもとくに古代から中世にかけてのモザイク美術にハマる。イタリアを中心に、各地に点在するまだ見ぬモザイクをいつか制覇したいと夢見ている。
日々の様子は、ブログをどうぞ: 「ヴェネツィア ときどき イタリア」 http://fumiemve.exblog.jp


北イタリア モザイクの旅 データ

サン・マルコ大聖堂 
Basilica di San Marco
ヴェネト州 ヴェネツィア市

■サン・マルコ大聖堂 
Basilica di San Marco,
所在地:Piazza San Marco, Venezia
Web: http://www.basilicasanmarco.it
開館時間 9.45-17.00
サン・マルコ博物館 (Museo di San Marco)
時間 9.45-16.45
入場料 4ユーロ

■交通アクセス
ヴェネツィア・サンタ・ルチア駅(Venezia S.Lucia、水上バスの停留所名はFerrovia)、またはローマ広場(Piazzale Roma、バス・ターミナル)から、水上バス1, 2番でサン・マルコ(San Marco)下車。
ACTV社サイト www.actv.it (水上バス時刻表など)

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