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北イタリア モザイクの旅
15 marzo 2012
第6回
  ヴェネツィア
サン・マルコ大聖堂 その1

持丸 史恵 


●イタリア全てのモザイク美術の集大成
これまで、ローマ時代から、初期キリスト教時代、そして中世と、北イタリアに残る主なモザイクを見てきました。北部に限らず、イタリア全てのモザイク美術の集大成となるのがヴェネツィアのサン・マルコ大聖堂です。(写真A)初回ではかんたんな歴史と外側にあるモザイクを紹介しましたが、今回はいよいよ、大聖堂の中へ入って行きましょう。
表面積にして8,000平方メートルを超える金地のモザイクは文句なしに世界最大。唯一無二の世界遺産をすべて説明することはできませんが、いくつかの見どころを数回に分けてご紹介したいと思います。


写真トップ@サン・マルコ大聖堂内「天地創造」クーポラのモザイク:光と闇を作る1日目
写真左Aサン・マルコ大聖堂外観 右の図Bサン・マルコ大聖堂平面図(パドヴァ在住の建築家、板倉満代氏作成)    

●13世紀のモザイクで描かれた旧約聖書の物語
まず、正面中央の入り口から、行列に従って建物の中に入ります(図、矢印部分)。警備員の前を通って、普通はそのまま本堂の中へ入るのですが、あえてそこで足を止めてみましょう。
平面図を見ていただくとわかる通り、聖マルコ大聖堂は、本堂がやや縦に長い聖十字形をしており、その手前にL字型の廊下のような部分がくっついています(図、青の部分)。ナルテックス、またはアトリウムと呼ばれる部分で、キリスト教がローマ帝国公認の宗教となって初期の段階においては、教会の本堂の手前にこうした前室が作られました。閉じた空間の場合もあれば、中庭つきの回廊になっているところもあります。当時、教会の本堂には洗礼を受けた人しか入れなかったため、その前室は洗礼の準備のために教会に通ってくる人のための場所だったのです。

  この聖マルコ大聖堂が建立された頃には、そういった場は不要になっていたはずですが、古典的な構造をあえて踏襲したのはおそらく、ローマからビザンチンの流れをくむ、由緒正しき教会であることを強調する意図もあったと思われます。本堂が、中世イタリアのロマネスク、ゴシック建築に見られるラテン十字形(いわゆる十字架の形、縦のラインが長い)ではなく、ギリシャ十字形と呼ばれる縦横同じ長さの十字に近いのもこの聖堂の特徴で、残念ながら現存はしませんが、現イスタンブールにあった聖十二使徒教会に倣って建てられたとする説が一般的です。 このナルテックス全体の、壁と天井にモザイクで装飾されたのは13世紀のこと。 旧約聖書の物語が描かれています。


写真上Cサン・マルコ大聖堂「天地創造」クーポラ モザイク全体像    

●スタートは「天地創造」のクーポラから
最初は1番右側(図A)、「天地創造」のクーポラ。(写真C)物語は、3列のうち一番内側の輪から。海の上に鳩が飛んでいる場面、そこからスタートです。
「初めに、神は天地を創造された。地は混沌であって、闇が深淵の面にあり、神の霊が水の面を動いていた。神は言われた。『光あれ。』こうして、光があった。神は光を見て、良しとされた。神は光と闇を分け、光を昼と呼び、闇を夜と呼ばれた。夕べがあり、朝があった。第一の日である。」(新約聖書第1章1-5節、新共同訳)(写真@) 


写真左D「天地創造」クーポラのモザイク:大地と水を分ける2日目(1段目)、動物を作る6日目(2段目)、アダムとイヴの原罪  写真右E「天地創造」クーポラのモザイク:太陽、月、星を作る4日目、鳥と魚を作る5日目(2段目)、休息するアダムの肋骨をとり、イヴを作る


混沌と闇の上に飛んでいる鳩のようなものがつまり「神の霊」。その右隣では神が姿を表し、諸手を上げた天使の前で、光(赤い玉)と闇(青い玉)とを分けています。その隣が、大空と水を分ける2日目。地と海を分け、地に植物を芽生えさせた3日目。ここまでが一番内側の輪です。
2番目の輪に移って、太陽と月、そして星を作る4日目。空に鳥、水中に魚を作る5日目。動物を作り、自らの形に似せて人を作った6日目。(写真DE) なお、現在普及している聖書では、ここで「男と女」を創造するのですが、このモザイクは別の版に拠っており、7日目に神が休息を取ったあと、眠っているアダムの肋骨を取ってイブを作る様子が、1番外側の輪に描かれています。そこに続くのは、禁断の木の実を食べるアダムとイブの「原罪」の場面ですが、まるでアニメーションのように、一こま一こま、細かい動きの場面の連続になっています。

堂内撮影不可の上、ウェブサイトでの記事では写真を提供いただくことも不可能とあり、それぞれの絵を見ていただけないのは大変残念なのですが、キリスト教信者でない我々多くの日本人にとってとっつきにくい聖書の内容も、簡潔にわかりやすく図解されています。絵そのものの親しみやすさもさることながら、1日目は天使が1人、2日目は2人、3日目は3人・・・と、日数に合わせて天使の数が増えていくのも、まるで子どもに数字を教える絵本のよう。そして、この丸顔と3-4頭身のずんぐりむっくり体型は、ビザンチン様式として大きく普及したスタイルとは全く異なっており、むしろ、モデナの大聖堂のファサードに見られる「天地創造」の彫刻装飾などと相似点が指摘されています。
なお、この「天地創造」のクーポラは、この1月末に修復作業を終え、全体が非常に明るい色合いに生まれ変わっています。

●鳥や動物たちが生き生きと描かれている「ノアの方舟」
鳥や動物がさらに生き生きと美しく描かれているのは「ノアの方舟」のボールトです(図のB1)。大洪水を予言されたノアが、大きな方舟を作って、空や海、陸の動物を一組ずつ舟に乗せる場面、大洪水のあと、飛ばした鳩がオリーブの枝を持って帰ってきたことから、水がひいたことを確信する場面・・・と、それぞれが色鮮やかに、リアルに表現されています。また、「バベルの塔」(図のB2)では、当時の建築現場の様子が、生き生きと描かれています。
続くルネッタと、隣のクーポラ(図のC)で描かれているのは神に選ばれた者、「アブラハムの物語」。ここでは、「天地創造のクーポラ」と違い、輪の輪郭に沿って、時間の区切りのないまま、絵巻のように物語が繋がっています。

●縦に並んだ3つのクーポラは「夢占い師ヤコブの物語」
続けて、縦に並んだ3つのクーポラ(図のD1、D2、D3)を占めているのは「夢占い師ヤコブの物語」。(写真F)夢占いの能力を持つ幼い弟ヤコブをうとむ兄たちは、弟を騙して商人に売り払ってしまいます。エジプトに売り飛ばされたヤコブですが、頭角を発揮し、執事にまで取り立てられます。ところがファラオの妻に誘惑され、断ると、怒った妻は逆にヤコブを姦淫の罪で訴えます。牢屋に入れられたヤコブは、得意の夢占いでエジプトを大飢饉から救い、再びファラオの側近に戻ります。そのころ、ヤコブの生まれた国ではやはり深刻な飢饉に悩まされており、ヤコブの父は、ヤコブの兄たちにエジプトへ食糧調達に向かわせます。それと知らずにやってきた兄たちに対し、ヤコブはふんだんな小麦を分け与え、最後に名乗り出て、めでたし、めでたし・・・。
旧約聖書の中でも、このお話が聖堂内の装飾に用いられることは非常に珍しく、しかもわざわざクーポラ3つを埋めるほどの理由が何かあるはず。聖マルコのゆかりの地、エジプトにからむ物語だから、とも言われていますが、はっきりしたことはわかっていません。


写真上F出口から「ヤコブ」のクーポラのある方向をのぞきこんだところ


●動きがダイナミックな「モーゼのクーポラ」 最後、1番奥が「モーゼのクーポラ」(図のE)。 モーゼは旧約聖書の中でもとくに、救世主キリストの前身として、キリスト教会の中でも好んで描かれてきました。建築物や風景、人物配置などが複雑化し、「天地創造のクーポラ」とは、ずいぶん違っていることにも注目しましょう。人々ももはや3頭身、4頭身ではなく、顔も体もぐっと細長く、動きもダイナミックになっています。
このころにはすでに、古代ローマ建築を思わせるロマネスク様式から、北方で生まれたゴシック様式へと時代が移りつつあったのです。

それぞれのモザイクについては、聖マルコ大聖堂公式サイトをぜひご参照ください。

「天地創造のクーポラ」:
www.basilicasanmarco.it/gallery/mosaici/antico_test/genesi/gallery.bsm
「カインとアベル、ノアの箱舟など」:
www.basilicasanmarco.it/gallery/mosaici/antico_test/lunette/gallery.bsm
「アブラハムのクーポラ」:
www.basilicasanmarco.it/gallery/mosaici/antico_test/abramo/gallery.bsm
「ヤコブのクーポラ」1, 2, 3:
www.basilicasanmarco.it/gallery/mosaici/antico_test/cup1_giuseppe/gallery.bsm
www.basilicasanmarco.it/gallery/mosaici/antico_test/cup2_giuseppe/gallery.bsm
www.basilicasanmarco.it/gallery/mosaici/antico_test/cup3_giuseppe/gallery.bsm
「モーゼのクーポラ」:
www.basilicasanmarco.it/gallery/mosaici/antico_test/mose/gallery.bsm


著者プロフィール
持丸 史恵(Mochimaru Fumie)

ヴェネツイア在住。横浜市出身。通訳、コーディネート業など。
2000年秋より1年ペルージャで過ごしたあとヴェネツィアへ。日本では縁もゆかりもなかった美術史を楽しくも苦しみつつ学び、ヴェネツィア大学を卒業。在学中より、美術史の中でもとくに古代から中世にかけてのモザイク美術にハマる。イタリアを中心に、各地に点在するまだ見ぬモザイクをいつか制覇したいと夢見ている。
日々の様子は、ブログをどうぞ: 「ヴェネツィア ときどき イタリア」 http://fumiemve.exblog.jp


北イタリア モザイクの旅 データ

ヴェネツイアのラグーンのモザイク
ヴェネト州 ヴェネツイア県 

■アルティーノAltino
アルティーノ国立考古学博物館
Museo Archeologico Nazionale di Altino

Via S. Eliodoro, 37 - 30020 Altino VE
Tel/fax 0422/829008
URL: http://sbmp.provincia.venezia.it/mir/musei/altino/home.htm
開館時間:8.30 - 19.30 
休館:1月1日、5月1日、12月25日
入場料:2.00ユーロ

■トルチェッロ
サンタ・マリア・アッスンタ教会
Basilica di Santa Maria Assunta

Isola di Torcello
Tel. 041 2702464
開館時間:10:30-18:00 (11-2月は10:00-17:00)
入場料:4ユーロ

■ムラーノ島
サンティ・マリア・エ・ドナート教会
Chiesa di Santi Maria e Donato

Campo San Donato, Murano
Tel. 041- 739056
開館時間:8:00-18:00(日曜は13:00-18:00)
入場料:無料

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