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北イタリア モザイクの旅
15 Aprile 2011
第1回
ヴェネツイア、サン・マルコ大聖堂 
  

持丸 史恵 


サン・マルコ大聖堂。ヴェネツィアを訪れた方なら、一度はその前に立ったことがあるでしょう。色大理石と彫刻で豪華に飾り付けられたファサード、その正面に向かって一番左側、カーブのついた半円蓋の中のモザイク「行列で大聖堂内へ運ばれる聖マルコの棺」(写真@A)。クーポラつきの大きな建物の前に、豪華に着飾った人々がたくさん集まっている様子が描かれています。真ん中に掲げられている棺の中にいるのは、聖マルコ。そして、背後に見えているのは、この聖堂そのものです。


写真トップ@モザイク「行列で大聖堂内へ運ばれる聖マルコの棺」
写真左A同モザイクのあるファサード  写真右Bサン・マルコ大聖堂を同名広場から眺める

●サン・マルコ大聖堂建立の由来
それは西暦828年、ヴェネツィア共和国という海の上に人工的に作られた小さな国が国際社会へうって出る、その布石のようなできごとでした。ヴェネツィア共和国では当初より東方貿易がさかんでした。そうしてエジプトに出かけていたヴェネツィア商人2人がその年、アレキサンドリアから聖人マルコの遺体を運んできたのです。聖マルコが生前、布教に努めたアレキサンドリアは、ローマやコスタンティノポリス(現イスタンブール)などと並んでキリスト教の中心地の1つでしたが、616年にペルシア、続けて640年にアラブ人に制覇されてからは、聖マルコの墓地なども荒らされていた、といいます。

もともと東ローマ帝国の管轄下にあったヴェネツィアは、テオドーロという東方由来の守護聖人を崇めていました。が、9世紀には既に、実質独立国家となっていたヴェネツィアは、ステップアップをもくろみました。
たくさんいる「聖人」の中でも、イエスから直接「教会を建てるよう」指示を受けたピエトロは別格として、その次に重要なのが、イエスの言葉をまとめた4人の福音書家、すなわち、マルコ、ルカ、ヨハネ、そしてマタイ。新興国ヴェネツィアは、 そのうちの1人、マルコの遺体を所有し、守護聖人とすることによって自らにハクをつけたい、と考えたのです。

聖遺骸を運び出すにあたり、商人たちはその上にキャベツと豚肉をかぶせ、中身を隠しました。豚肉を不浄なものとして忌み嫌うアラブ人たちが、よく確認せずに通関させてしまうことを狙っての作戦です。
運んできたのは商人たちですが、その大それた行動の裏には、ヴェネツィア政府のバックアップもあったとされています。

その聖マルコの遺体を安置するために、サン・マルコ大聖堂が建てられました。現在の建物はその当初から数えて3代目、11世紀のもの。もともとはレンガ作りのファサードでしたが、1204年、ヴェネツィア主導の第4回十字軍がコスタンティノポリスを陥落、そこから運んできた大量の「戦利品」で豪華に飾り付けられました。


写真左Cサン・マルコ大聖堂のファサードを飾るモザイク群
写真右Dモザイク「アレッサンドリアから運ばれる聖マルコの遺体」  

●聖マルコのエピソードにまつわるモザイク
モザイクの話に戻りましょう。
最初に見たモザイクは、聖マルコの遺骸を掲げ、大聖堂前を行列している場面。同じ段のほかの3つの半円蓋もこのエピソードにまつわる場面が描かれています。
右から「アレッサンドリアから運ばれる聖マルコの遺体」(写真D)、「聖マルコ遺体のヴェネツィア到着」(写真E)、「ヴェネツィア総督および市民の聖マルコ遺体歓迎」(写真F)。


写真左Eモザイク「聖マルコ遺体のヴェネツイア到着」
 写真右Fモザイク「ヴェネツイア総督および市民の聖マルコ遺体歓迎」


「行列」とほかの3つとは、見るからに絵のスタイルが違います。なぜなら、この3つは17-18世紀に作り替えられたもの、1番左だけは、13世紀に作られたオリジナルだからです。現在とほとんど同じファサードが、そのときにすでに完成していたのがよくわかります。このモザイクの図柄は、現在、アッカデミア美術館に所蔵されている、ジェンティーレ・ベッリーニによる「サン・マルコ広場での宗教行列」(1496年)の中にもはっきり描かれています。1496年に描かれたこの作品の中では、ほかの3つは、同じ主題のはずながら、絵は明らかに異なっています。当時はどんなモザイクだったのか、今の私たちには、この絵を眺めながら想像するしかありません。

なお、ほかよりも少し大きな、中央のアーチの中のモザイクは、19世紀に入って作りなおされたもの。テーマは「栄光のキリストと最後の審判」、ここだけ聖マルコのエピソードから離れます。が、上を見上げれば、もともとは聖マルコのシンボルで、やがてヴェネツィアのシンボルとなっていた有翼のライオン。そしてその上、とんがりアーチの頂上には、やはり聖マルコの彫像が君臨しています。

●ガラス片でつくられた「モザイク」の技法
そもそもこの「モザイク」というのは、どういったものなのでしょうか?モザイクの種類や歴史については、追々紹介させていただくとして、このサン・マルコ大聖堂のファサードおよび堂内で使われているのは、ガラスのモザイクです。

ガラスの1つ1つの片、これをテッセラと呼びますが、テッセラを作るにはまず、ガラスの薄い板を作ります。赤や青、黄色と色のついたガラス板を用意し、それを細かく、一種の「のみ」を使って小さな四角に割っていきます。壁や天井のものは、細かいものなら2-3ミリ四方、荒いものなら1センチ四方以上のものも。
金色のテッセラの場合は、初めに透明のガラスで板を用意し、上に金箔を載せます。その上にさらに、透明のガラスを薄くかけていきます。冷めて固まったところで、細かく切っていくのは他の色と同じ。
こうして、いろいろな色ガラスでテッセラを用意し、それを天井や壁の装飾に使うのですが、そのためにはまず、壁に下地となる荒い漆喰を塗ります。たいていはもう一層、漆喰を重ねて、さらに、薄くて目の細かい漆喰を塗ったところが、モザイクのための「キャンバス」になります。まだ生乾きのやわらかいところへ、型紙の絵に合わせてテッセラを埋めていきます。

テッセラの作り方とモザイクの手法については、このサン・マルコ大聖堂の中にある、サン・マルコ博物館(Museo di San Marco)の中で詳しく展示されています。修復工事中に発見された、11-12世紀のものとされるモザイクなどもあるほか、モザイクで飾られた本堂の壁の一部を目の前で見ることができます。ガラス片という平面的な素材を使って、人や衣服、風景などの丸みや立体感を出すのにどんな手を使っているのか、ぜひ、その目で確かめてください。


 写真Gサン・マルコ広場の二つの円柱(左がライオン、右が聖テオドーロ)


一番左の「行列」のモザイクと、ほかの3つのモザイクの手法はまったく同じです。ただ、昔のものを修復・保存するという概念のなかった何世紀もの間、壊れたところは新しいもので作りかえ、あるいは古いものは時代遅れだとして捨てて新しいものにすげかえていました。「行列」とほかの3つが、違ってみえるのは、その絵のスタイルの違いのためです。

13世紀のモザイクは、顔も姿もぎこちなく、デフォルメされた人形のよう。一方、ほかの3つは、ふつうの絵のように、より自然に描かれています。これは、当時の画家が下絵をデザインしているためですが、見比べると、絵に力がありません。油彩やフレスコ画など、筆で描く絵のための下絵は、残念ながらモザイクという手法のよさを最大限に引き出せていないのです。こうして、手間ひまとコストのかかる割に、時代の好みに合わなくなったモザイクは、使われることがなくなっていくのです。このサン・マルコ大聖堂が、世界最大、そして最後の本格的なモザイクであるのはそのためにほかなりません。

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ところで、ヴェネツィアは、最初の守護聖人テオドーロを、決して捨てたわけではありません。サン・マルコ大聖堂から水辺の方へ目を移すと、海の玄関口を示す2つの円柱のてっぺんには、一方には聖マルコのシンボルである有翼のライオン、そしてもう一方には、ドラゴンを倒す聖テオドーロが並んで立っているのです。(写真G)


著者プロフィール
持丸 史恵(Mochimaru Fumie)

ヴェネツイア在住。横浜市出身。通訳、コーディネート業など。
2000年秋より1年ペルージャで過ごしたあとヴェネツィアへ。日本では縁もゆかりもなかった美術史を楽しくも苦しみつつ学び、ヴェネツィア大学を卒業。在学中より、美術史の中でもとくに古代から中世にかけてのモザイク美術にハマる。イタリアを中心に、各地に点在するまだ見ぬモザイクをいつか制覇したいと夢見ている。
日々の様子は、ブログをどうぞ: 「ヴェネツィア ときどき イタリア」 http://fumiemve.exblog.jp


北イタリア モザイクの旅 データ

サン・マルコ大聖堂 
Basilica di San Marco
ヴェネト州 ヴェネツィア市

■サン・マルコ大聖堂 
Basilica di San Marco,
所在地:Piazza San Marco, Venezia
Web: www.basilicasanmarco.it
開館時間 9.45-17.00
サン・マルコ博物館(Museo di San Marco)
時間 9.45-16.45
入場料 4ユーロ

■交通アクセス
ヴェネツィア・サンタ・ルチア駅(Venezia S.Lucia、水上バスの停留所名はFerrovia)、またはローマ広場(Piazzale Roma、バス・ターミナル)から、水上バス1, 2番でサン・マルコ(San Marco)下車。
ACTV社サイト www.actv.it (水上バス時刻表など)

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