写真上左Eヴォルテッラの司教座聖堂ファサード 写真上右F「十字架降下」の木彫像群
この作品は大聖堂に設置されたものの中で最も古く、1228年1月3日に司教が競作を提案した文書が残っている。何人の彫刻家がコンクールに参加したのかは分からないが同年9月24日には披露された。ルネサンスに入ると見られなくなってしまう、素朴な線、自然主義的ではなく神学的に彩色された原色に近い色使い、素直な信仰心が現れた悲しげな表情が際立つ、中世の木彫蔵の持つ魅力溢れる作品だ。作品というのが気がひけるほど、それは芸術のためではなく信仰のために彫られた。今は修復され、設置場所は違うが当時の姿がかなり再現されている。
●八角形のロマネスクの洗礼堂
ゆっくり大聖堂見学しながら、入り口とは違った後方の出口から出ると目の前に洗礼堂がある。イタリアらしい8角形の見るからに洗礼堂らしいロマネスクの建物だ。
写真上G八角形のロマネスクの洗礼堂
ジェノヴァ、シエナ、ピストイアなどを思い出す人もいるだろう。白と緑がかった黒の横縞のデザイン。ロマネスク特有の、隅切りの細い窓からさす光が、シンプルだが力強い堂内を照らす。
●石棺が一杯のエトルリア博物館
博物館にもぜひ行こう。最も有名なのはマニエリスムのスター、ロッソ・フィオレンティーノの「十字架降下」だが、中世初期から後期ルネサンス頃の作品まである。エトルリア博物館は広場とは別の方角だが、何しろ町は小さいので全然問題ない。
写真上Hエトルリア博物館の夫婦の石棺
飽きるほど石棺がある。ジェコメッティが研究した、針のように細長い人物や、ローマのヴィッラ・ジュリアの様式的で穏やかな夫婦のお墓とは正反対の、自然主義的な怖い夫婦の石棺に目が止まる。死んだ後も楽しめるように色々用意周到にしていたのが健気だ。
●聖大修道院長アントニオ聖堂
エトルリア博物館の近くの道の分かれ目に聖大修道院長アントニオ聖堂 Oratorio Sant’Antonio Abateがある。誰も見向きもしない小さな教会だが私には重要な聖堂で、ルッカのヴォルト・サントを描いた祭壇(写真トップ)がある。
巡礼たちが立ち寄ったことの証だ。いつも思うが、巡礼たちの健脚と精神の強さはたいしたものだ。バスを乗り継ぐのに文句を言っている現代人と違って、ポツンと離れたこんな上の街までひたすら歩くなんて。
●古代ローマ遺跡やメディチ家要塞も
できれば一泊して街中の道を歩いてみたい。中世の石壁が迫る狭い道が途切れると、突如目の前が開け、眼下に古代ローマの遺跡が現れたりする。メディチ家の要塞は嫌な感じだ。ヴォルテッラが彼らに苦しめられた歴史を思い出す人は相当詳しい人だが、今も中に入れてくれず腹立たしい。
写真上I古代ローマの遺跡 Jメディチ家の要塞
●お気に入りの「聖フェリーチェ門」
その代わりすぐそばの公園内に考古学博物館があり、地元の人が長閑に休んでいる、時間の止まったような場所がある。歴史中央地区を取り囲む城壁の、7つの門の内私のお気に入りは聖フェリーチェ門。
写真上KL聖フェリーチェ門
崖っぷちというと大げさだが、一番地面の落差が激しく、門の向こうに青空が覗き、ちょっとした谷のようになった所に花が咲き、門の横には修道士が一人で祈ったらもう一杯なくらい小さな祠が愛らしい。
●新しい感覚のカフェやお店
最後に一言。古代、中世の色濃い街だがカフェやお店は新しい感覚でおしゃれだ。装飾品技術で名高いエトルリアのアクセサリーを基にした本格的なお店や、自然食+インターネット+モダンデザインのカフェレストラン、凝ったデザインの門扉を持つ工房など、駆け足でなくゆっくり訪ねたい街だ。
写真上Mエトルリアのアクセサリーを基にしたお店
筆者プロフィール Saba彩子(サバサイコ)
こんにちは。Saba彩子(サバサイコ)です。東京生まれ。渋谷、青山、新宿辺りに出没。美大とイタリアの外国人大学卒業。デザイナーを10年ほどやった後、大学院に行き直し、中世の木彫磔刑像と巡礼について修士論文を書きました。現在は通年で首都大学東京オープンユニヴァーシティ、放送大学では集中講座を受け持っています。内容は西洋美術史とイタリア史に関するもので、詳細はその時々により様々です。ボクシング、ロック、芸術映画、欧米社会派犯罪ドラマが好きです。 「人はパンのみに生きるにあらず」を実践していけたら最高です。
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